「神ってのは」
白上吹雪は、ただ呆然としていた。体の自由は奪われ、上空に囚われている。暴風と言っていいこの風の前では、意思を持った生物も宙を舞う瓦礫と何も変わらない。そして、瓦礫同士がぶつかって砕けるように、吹雪の体は酷い怪我に見舞われている。自由の効かない中、瓦礫が礫のように襲いかかり、今も意識が残っているだけ流石と言っていいだろう。
愛銃は真っ先に風に攫われ、瓦礫に破壊された。風を凍らせても、流れに運ばれて勢いを止めるほどまでいかず、出来上がった氷の糸が押し潰されるだけ。
黒い風に塞がれた視界の中、彼は無意識に死を覚悟していた。だが、それは全くの杞憂となる。
「……っ!!」
瞬間、真っ白な何かが彼の左を過ぎ去った。同時に、左腕から激痛が走る。肩の先には吹き出した紅血だけがある。すぐに傷口を凍らせて、吸い寄せられるように左側を見上げると、そこには青い空を背後に、自分の左腕が存在していた。勿論、切断されたのは彼の左腕だけでなく、彼を囚えていた風、球体上に圧縮された乱気流も同じように真っ二つになった。自由になった風は四方八方へと勢いのままに吹き、彼と左腕、瓦礫を至る所へと運んでいく。
気流に乗って、自分の左腕を捕まえ凍らせる。その後、光の飛んできた方向へと視線を落とした。遠くてぼんやりしているが、ただ一人の男があの風を裂いたことがわかる。
「……神ってのは、いるもんなんだな」
その男から感じる神力は、自分の何倍であるかもわからないほど強大なものだった。
「……命の恩人が出来ちまった」
吹雪の体は気流から抜けて自由落下を開始する。真下の空気を凍らせて減速しながら、ゆっくりと地面に着地した。凍った断面同士をくっつけて、修復と唱える。するとたちまち神経同士がくっついて、左腕が意思の通りに稼働する。繋ぎ目は荒いが、十分戦闘に参加できる。
左腕が繋がった後、吹雪は地面と足を凍らせる。そして、全身の痛みも忘れてスケートの要領で恩人、美月の元へと滑り出した。
「桐生の頼みはもう終わった。あとはアンタに借りを返すだけだ。見知らぬ誰かさんよ」




