「出し惜しみはしない」
美月は第六感、神力を辿って、増殖し続ける花端の本体を捕捉するために集中する。視界には無数の光の点が浮かび上がる。そしてその点が過密している部分に絞り、その中で最も速く移動している点を探した。
「……そこか」
美月の視界は、距離を取り続ける花端を捕捉した。それと同時に、右から敵意が向かってくる。明らかに分身とは違う動き、即ち生きた人間である。美月は緩く体を翻して、その攻撃を避ける。
「なんだぁ……?」
「チッ……バレてたか。ならもう一発」
「悪いけど、相手してる暇は……」
言い終わる前に、剣を構えて懲りずに襲いかかってくる。明らかに、構えた瞬間雰囲気が変わった。だが不意打ちでも外した攻撃なのに、どう考えたら正面から当たるなんて思うのだろうか。美月はその攻撃に対して反撃の姿勢を取る。
「氷結礫」
しかし、その剣は美月に届く前に何者かに阻まれた。美月は礫の出所へと視線を向ける。
「アンタが負ける心配はしてないが、あいつはアンタでも時間がかかる。あいつの相手は俺が受け持つよ」
そこには全身傷だらけの白上吹雪が、凍った地面の上に立っていた。左肩のすぐ下の荒い継ぎ目から、一度切断されたことが見て取れる。
「いや……自分の怪我の心配をした方がいいですよ。重症です。それに左腕も……」
「なに、アンタがこのクローン共の親玉をぶっ潰してくれないと、どのみちゆっくり出来ないのさ。だから、一足でも速く先に行ってくれ」
「確かにそうっすね。じゃ名前は聞かないでおきます」
「ああ、終わったら教えてくれ」
美月は再度花端の位置を捕捉し、大地を強く蹴り飛ばした。地震のような地響きが鳴り、深い足跡とその周りのひび割れがそのエネルギーを示していた。
美月が立ち去った後、佐々木部が不服そうにため息をついた。
「どうした? ため息なんかついて」
「また腰抜けが相手と思うとため息も出る。またこそこそと逃げ回るか?」
「いいや? お前さえ倒せば俺的には勝ちだ。だから、出し惜しみはしない」
吹雪は剣を地面に突き刺して、神力を練る。次第に、虹色の光が全身に纏うように発生した。そして彼は、全体力を使って自分史上最低の冷気を作り出した。それに空気が触れるたび、全てがパキパキと音を立てて凍っていく。そしてその冷気は、吹き止まない風に運ばれて佐々木部を襲った。
「これはまずい……!!」
佐々木部は臨戦体制をすぐに解除して逃走を試みた。だが、避けようのない死神の息吹は、音を立てて彼の背後にあっさりと追いついた。
「ふざけ……」
消え入るような捨て台詞は、嘲るような風にかき消される。
悲鳴を上げる暇もない速さで、命の灯火はゆうゆうとかき消された。
佐々木部が完全に凍ったことを確認して、吹雪は冷気の生成を止める。彼は肩で息をしながら、その場に座り込んだ。
「はぁ……疲れたぜ」
そして虹色の光が離散して、周囲の気温が元に戻った。吹雪の体は、どこも凍った様子はない。神力が、冷気から身を守ったのである。神力は莫大なエネルギーの塊。冷気によって奪われるエネルギーを神力でカバーすることで、自分への被害を無くしたのだ。ただ、その分体力消費が激しいようで、彼に立ち上がる力すら残っていなかった。
「あとは……神頼み、かな」




