「……まさか、俺一人で?」
真っ白な部屋にある真っ白なベッドの上で、白川吹雪は呆けていた。それは、自分の置かれている状況が理解し難いことから来ていた。ここはヴェルン王国の城にある一室。彼は今、一応軟禁されている状態にあるのだが、唯一禁じられているのは城から出ることだけ。食事は見たこともないくらい豪華で、思わず舌鼓を打つほどだ。酒だって量に制限はあれど、頼めばいつでも飲ませてくれる。つまり、彼が村にいたときよりいい暮らしが出来ていた。
今吹雪が軟禁されている理由については、三日前に遡る。
三日前、吹雪はルメニア騎士団サクラ小隊、杉下桜との戦闘に勝利し、ヴェルン王国の要求を退けたように見えた。だが桜との戦闘後、銃を装備した部隊に白旗を上げ、捕虜として拉致された。
この国に連れてこられてすぐに牢屋に叩き込まれた。手錠に足枷、ついでは鉄の首輪までつけられ、これぞ監禁ということをされた。だが、4時間程たったとき、一人の男が牢屋のカギを開けてくれた。見るからに異質な雰囲気を纏っていて、それは出来るのであれば一生関わりたくないと思う程だった。
男……桐生創は、動けない吹雪にある提案をする。
「拘束を解き、村人と吹雪の安全を今後保証する、その代わり、力を貸してほしい」
この提案に対して、吹雪は二つ返事でイエスと答えた。すると、約束通り拘束が解かれ、今に至る。村人の安全については書面上では確認済みで、今は現地に兵が送られ、逐一様子の報告を受ける体制を作っている。約束が守られることは確実で、安心出来る内容だった。
創が言うには、吹雪の力がは戦争になったとき初めて必要になる。そこにはなんの不安もなかった。ただ、村人が心配というのが心の大部分を占めていた。心配することはないはずなのに、杞憂に過ぎないのに、頭の中に浮かんでくる。まだ会って日も浅いが、気のいい人ばかりだったのがここまで彼の心に残っている理由だろう。
暫くして、ドアをノックされる。
「桐生創だ。話がある」
それを聞いてすぐに、吹雪はドアを開けて快く迎え入れた。
「おー、丁度いい。暇してたところなんだ」
「そうか、それならよかった。これから暇なんてないくらい忙しくなるからな」
「……じゃあ聞かなくていいか?」
「いいわけないだろう。これは、お前の唯一の仕事なんだから」
唯一の仕事、つまり戦争に関連したこと。だが吹雪の表情は変わらない。まるで、この戦争では絶対に死なないとわかっているような余裕がある。
彼は緊張感など持ち合わせず、脱力したまま話を聞く。
「一週間後、この国は攻められる。だから、その二日前にこの場所に向ってほしい」
そう言って桐生は地図を見せる。中心をこの国としたときの地図で、上部に「数」という文字が中にある赤丸があった。つまり、本拠地の位置が記されていたのだ。
「あー、これが相手の基地ってことか。で、向かって俺はなにをすればいい?」
「恐らく相手も二日前に行軍を始める。だが、それでこの場所が空になることはない。お前には、残党狩りをお願いしたい」
桐生によると、トップは確定で残り、あとは要警戒人物が二人と有象無象が十人ほど。残党狩りは、その有象無象十匹の相手のようだ。終わり次第行軍の背後を取り、自軍と合流して囲い込み退路を断つという作戦のようだ。
吹雪はだらけながら、嘘だろ!?というわざとらしい反応をする。
「……まさか、俺一人で?」
「できるだろ? てか、ウチの杉下桜を怪我さしているんだ。それが出来てトントンってとこだよ」
「求めるもの多いな〜。ま、やるよ。死にそうになったら逃げるけどな」
「そんくらいの心持ちで大丈夫だ。で、これが要警戒人物以上のリスト。何人かスキルがわからないやつがいるし、もしかしたら新入りがいるかもしれないが一応目は通しといてくれ」
「こういうの、ホント助かるわ」
吹雪は受け取った封筒をすぐに開け、書類に目を通す。全部読み終わった頃には余裕だけだった雰囲気が適度な緊張感を保っていた。
「……俺は、こいつらと会ったら即逃げるよ」
「それでいい。変に作戦以上のことをして後々影響してくるようじゃ困る。それじゃ、話は以上だ」
「……ちょっと待ってくれ」
吹雪は席を立った創を呼び止める。創はこれから言われることを察したのか、少し笑いながら応答する。
「どうした?」
「神力だっけ? アレの使い方、教えてくれよ」




