「今までで一番威力高い攻撃だろこれ……!」
「めし……」
女はそう呟いて美月にゆっくりと近づく。力のないふらついた歩行からは小さな音しか出ない。いくら美月の耳が聞こえやすくても、土の擦れる音を足音と判別できるわけじゃないし、ここは森だ。言ってしまえばそんな音、周りにありふれている。当然、肉に集中している美月は接近されていることに気づいていない。そしてもう一口口に運んだ瞬間、女は美月に襲いかかった。
「んがッ……!」
美月は体を反転させて抵抗するも簡単に押さえつけられる。奇襲だけでも大分驚くことなのに、美月を軽々と押さえつける膂力を見せられて脳みそが軽くショートする。困惑して逃げの判断が行えなかった美月の口に、女は何を思ったのか、はたまた何も考えられてないのか、おもむろに口づけをした。
「……ッ!」
美月が何か既視感を感じた瞬間、口の中から咀嚼していない肉が消え去った。そして、美月の口から引っ張り出した勢いでそのまま飲み込んでしまったのか、女は少し苦しそうにして驚きの行動を取った。
「ォェェエエ……!」
美月の口に肉の代わりに何かが注がれた。感触では何なのかわからなかったが、その後に鼻を通り抜ける不快なにおいに、美月の脳はある一つの結論を導き出した。
……こいつ、吐きやがったッ……!!!!
と。
女は吐いた瞬間に力を失い、そのまま倒れるように気を失った。美月はかぶさるように倒れこんできた女を丁寧にどかし、思いっきり吐いた。勿論、地面に。
「ゥォrrrrr……!! かはっ……けほっ……今までで一番破壊力高い攻撃だろこれ……!」
『吐いてる場合じゃないぞ。アイツを見てみろ』
「え……?」
ラクトールの言葉通り女の方に視線を向けると、女は辛そうな表情で、尋常じゃないほどの汗をかいていた。
「なんかヤバそうだが、何が起きてんのかわかんねー」
『寝不足に空腹、栄養不足に過度な運動。……症状的に自律神経辺りの乱れだな』
「わかんのかよ」
『ああ、対処法もな。とりあえず塩水を飲ませろ。あとは起きてから柔らかいものを食わせればいい。さっき吐いたのも急に固形物を腹ん中入れたから、条件反射で吐いたんだ』
「ん? でもそれって、俺とあった時点で起きてなきゃおかしくねーか?」
『多分、さっき吐いた時になんか起きたんだろうな。恐らくはスキルかなんかだと思うが、こればっかりは俺にもわからない』
「じゃあ気にしなくていいか。っと、とりあえずは塩水を……」
美月は袋の中を捜索する。水はかなり最初の段階で筒の中に入ってるのが確認できたが、中々塩が見つからず、最終的に塩漬けの肉の塩をそぎ落として使うという暴挙に出た。美月も何度も訝しんだが、ラクトールに急かされ仕方なく塩を水に入れた。
「どう飲ませるよこれ……」
美月は気を失っている女を見てそう呟く。
『口を開けて飲ませるしかない。早くしろ、脱水は命に関わる』
「わかったよ……もう」
美月は恐る恐る唇に触れ、震える指先で口を開ける。そしてその中に塩水をゆっくりと注いだ。
『塩の致死量は1㎏あたり0.5~5g。こいつは体格的に60はありそうだから、30~300ぐらいが致死量になる。さっき入れたの10gもないから、気にせずがぶ飲みさせていいぞ』
「気にしてるのそこじゃねえよ!」
ラクトールのズレた気遣いに突っ込みを入れ、そのままの速度で水を飲ませる。美月は気を失っている人間に塩水を一気飲みさせるほどの鬼ではない。
「よし、これくらいでいいかな」
『あとは汗のかき具合を見て起きるまで適宜飲ませるだけだ』
「それまで見守っとかなきゃならないのか」
『それはお前次第だ。去るも残るも当然自由』
「まあ残るけどよ」
美月は中断した食事を再開しようとするも、自分が今吐瀉物まみれであることに気づく。
「……ちょっとくらい目を離してもいいよな!」
美月は虚空を見つめたまま質問を投げかける。当然、誰からも返事は帰ってこない。
『誰に聞いてるんだそれは』
「冷静な反応が一番心に来る……」
美月はうつむいたまま水場を探すことにした。




