「少なくとも僕は好きじゃない」
「ん……あたまいった……」
女は呻き声のような声を漏らし、気だるそうに目を覚ました。
「ああ、起きたかよ」
「うー、アンタ誰?」
「藍沢美月。飯はそこに置いてあるから、気が向いたら食え」
「あ……ありがと」
「あ、あと汗めっちゃかいてるから、そこにある布で拭けよ。体冷えたらもっと辛くなる」
「え、うん……」
女は寝ぼけているのか、一度遠くを見つめたあと、何を思ったのかおもむろに服を抜ぎ出した。
「急に何やってんだテメェ!!」
「こっちのが楽……」
美月は首を180°回転させて、女を視界から外す。だが、女は特に気にした様子をなく、マイペースに汗を拭う。
「あー……んじゃ、俺ちょっと離れるから、適当に休んでてくれ」
美月は無言で、服を脱いで汗を拭く女の前に、顔をそらしながらいる意味不明の状況に耐え切れず、その場を離れて森の中へと逃げ込んだ。それから少しして、別れる前にアルから受け取ったキューブに何かしらの連絡が入った。
『発見』
そのメッセージには、木に寄りかかって気絶している晴祥と、満面の笑みでピースをしているアルの写真が添付されていた。
「これ、こういうことも出来んのかよ」
美月はその辺の木の枝を掴んで、『神出鬼没な奇術師』を発動する。
「お、戻ってこれた。やっぱ便利だね、それ」
「お前のも大概だろ。ほれ、返すぞ」
「ありがとありがと。僕もこいつに戻さないと」
美月はアルにキューブを返し、アルは晴祥のポケットにキューブを戻す。そしてアルは、事の発端である謎の女への質問を美月に投げかけた。
「結局、こいつ吹っ飛ばした人はどうなったの?」
「気絶して、吐いて、また気絶して、今体を拭いてる」
「……もうちょっと具体的にお願いできない?」
美月の省き過ぎた説明に、流石のアルも苦悶の表情を浮かべる。それから、5分ほど、美月の説明の時間が始まった。
「……つまり、襲い掛かってきたから応戦したら気絶して、その直後に変な兵士みたいなやつらが来て、そいつらボコして食料奪って食べてたら、またまた襲い掛かってきて、口の中の物奪われて、口の中にゲロ吐かれて、んでまた気絶したと思ったら汗のかきかたがやばかったから水とか飲ませて、ついさっき起きたから飯と体を拭く用の布を渡した……ってこと?」
「なんだ、わかってんじゃねーか」
「いや、わかってないよ。なんかゲロ臭いとは思ってたけど、そんなことがあるなんて想像できるわけないし、ミツキが抵抗できない腕力ってのもやばいし、なんでわざわざ口の中からとったのかもわかんないし、口の中に吐くのもわけわかんない。それに兵士ボコして食料奪うって、やってること山賊じゃん!」
アルは口に出して、改めて起きたことの意味不明さを理解する。開いた口が塞がらないアルに対して、美月は少し申し訳なさそうに言葉を返す。
「しょうがないだろ。何言ってるのかわかんなかったし」
「それに仲間を吹っ飛ばした相手にそこまで優しくできるの異常でしょ……」
「それは晴祥が悪いからな。それにあいつなんか狙われてたし」
「それ絶対面倒になるやつじゃん……」
「そんなの最初からだろ」
「まあそうだけどさ……」
アルは諦めたようにため息をつく。それでもその人物が転移者であるため、放っておくこともできない。しばらく無言のまま頭を押さえるアルに、美月は不安そうに声をかける。
「……どうした? なんかあったか?」
「もう割り切ったから大丈夫。今後殺すであろう転移者の一人が割れたって考えれば、結構得だしね」
「俺に殺すなとか言っといてお前は殺す気満々なのな」
「そりゃあね。ミツキが殺しちゃったら僕が帰るのが遅れちゃうでしょ?」
アルは何食わぬ顔でとんでもないことを口にする。
「外道」
「人聞きの悪い」
「でも事実だ」
「しつこい男はモテないよ? 少なくとも僕は好きじゃない」
「お前からモテたって何の意味も……」
「ありがとー!!!」
「ぐふっ……!」
美月は真横から飛んできた物体に為す術もなく押し倒された。アルは美月から一歩離れて、ちゃっかり直撃を避けている。
美月は咳き込みながら、飛んできたものの正体を確認する。
「あー、お前か。……お前か」
「名前わからないなら素直に言お……っでえ!?」
アルは女の顔を見た瞬間、およそ見た目からは想像付かないような声で驚いた。
「なにその反応。私の顔になんかついてる?」
「いや、なんかついてるっていうか、なにかについてたというか……」
「なんだよその曖昧な返答は。こいつについて、なにか知ってるなら話してくれよ」
美月が催促しても、アルは目を逸らしたまま応答しない。
「……お前、名前は?」
「え、連れの子めっちゃ悩んでるけど無視していいの?」
「そりゃそういう関係だしな。それに俺は頼られなきゃ力になれない人間だ。自分から手を貸すなんてとてもじゃないが出来ない」
「でも私は頼らなくても助けてくれなかった? てことは私だけ特別ってこと!?」
「盛り上がってるところ悪いが、あれは……ってか、話が脱線しすぎてるな。とりあえず、名前だ。名前がわからないと不便でしょうがない」
「私は……」
女の答えを遮って、とうとうアルは重い口を開いた。
「安野雫。グラビアアイドルでしょ?」
アルは頭を抱えたまま、そう答えたのだった。




