「聞けない人間に話すってのも、随分虚しいもんだ」
「どうだい? ……まだ動けるか?」
姫璃は歯を食いしばりながらも、余裕のある笑みを浮かべる。というより、笑わなければやってられないほどの激痛が、彼の体に奔っていた。
「……血、だって、俺の一部だからな。血を沢山浴びたってことは、バラバラになった俺が沢山ついてるようなもんだ。……言葉にならない激痛だが、実行して、良かったぜ……」
姫璃は自分の体を貫いた千春の腕を掴み、力を入れる。万が一、千春が動き出したときに少しでも時間を稼げるように。
「人の体って結構頑丈だと思ってたんだがな、アンタからしたらそうじゃないみたいだ。まあそれを見越してこの策に出たんだが……、こうも容易く、腹を貫かれるとは」
吐血しながら、姫璃は大したことじゃない風に口を動かす。
「そうだな。向こうが終わるまで暇だし、なんで動けないのか教えようか。まず、俺のスキルは『先人に右ならえ』。相手に自分と同じ動きを強制させるスキルだ。対象を増やしたり、大きく取ったりすると強度が下がってただの足止めにしかならなくなる。まあ、元々の強度でもとんでもなく強かったらさっきみたい強引に抜けられちまうけどな。で、今動けないの理由は結構簡単。俺の血と君の血の動きを連動させてるんだ。君の浴びた血は止まってる、だから君の血も止まる。血にはどれだけ頑張っても力を入れることはできないし、出来ても圧力をかけて多少強い勢いになるくらいだ。でもそれは能動的に出来ないし、出来ても血管が破れる。脳卒中がその証明だ。だから、その血はその場所を動けない。手を動かすにしても足を動かすにしても、血も同時に動かさなきゃならないからね。……って、聞く聞かない以前に、聞けない人間に話すってのも、随分虚しいもんだ」
今動けない理由について一通り解説したあとも、姫璃は永遠にしゃべり続ける。相手が相手なので反応は帰ってくることはないが。
姫璃がしゃべり続ける理由は、姫璃のスキル、『先人に右ならえ』の、というよりほぼ全てのスキルに共通する弱点なのだが、気を失うと使用できなくなることにあった。痛みで気を失わないように、笑いながらしゃべり続けることで意識を保っていた。だが、そんな努力も虚しく、姫璃の呂律は次第に回らなくなっていく。頭もボーッとし始め、千春の腕に触れている指先が温かさを感じ始める。手足が痺れ、力が入らない。視界もぼやけてきた。
「ああ……。くそっ……人の体って、不便だな……」
姫璃の体は千春によりかかるように倒れるのだった。
「ねえ、この人重傷だけど、治せたり出来ない?」
「俺は医者じゃない。が、この世界には魔法ってのがあるんだってな。だろ? 長髪」
晴祥は裕也の方へ視線を向ける。裕也は美月の一撃で気を失っていたが、どうやら目が覚めたようで、かろうじて話を聞ける状態になっていた。
「……おい。……俺を、そこまで運べ」
「……おっけー」
アルは言われた通り、裕也を姫璃の近くまで運ぶ。すると、裕也は無言で姫璃に手を伸ばして、目を閉じた。裕也の息が上がると共に、姫璃の傷が塞がってゆく。そして、最終的には腹に空いた風穴が、見る影もないほど治っていた。
姫璃を治したあと、裕也は大量の汗を掻き乍ら前に倒れた。
「まだ血が足りな……い……。俺の血を使え。こいつと俺の血液型は同じ……だ」
裕也はそのまま意識を失った。
晴祥は裕也と姫璃を繋ぐように、黒い触手を突き刺した。
「輸血出来てるの? それ」
「多分だがな。まあ、出来てたとしても目を覚ますかは別だがな」
「てか、君も人を助けたりするんだね。てっきりミツキしか興味ないのかと思ったよ」
「美月のためだからやってるんだ。あいつがああなってまで手伝おうとした相手と、変えようとした相手だ。あいつの苦労が報われるなら、俺はなんだってする」
「ハハ……、それは、苦労しそうだね」
アルは乾いた笑いを浮かべることしか出来なかった。そして、晴祥の強引すぎる治療を横目に、まだ新しいであろう足跡と、ぽたぽたと滴る水のように落ちた少量の血を発見するのだった。




