「とりあえず落ち着け」
「それはっ! ダメだろ! 流石にっ!」
美月は首に穴が開いた状態で動いている千春を見て、感情的になって叫ぶ。首の穴は、確実に絶命している傷だ。裕也の言葉からして、死んだ人間の性質を改変して自分のいいように操っているのだろう。
「何をそんなに怒ってるんだ。お前は別にこいつと知り合いってわけじゃないだろう。こいつは俺の仲間。仲間なんだから助け合うのは当然だし、死んで尚仲間の役に立てるんだから、これは、こいつにとってもいいことだ」
その瞬間、美月の中で何かが切れた。今まで人を殺すという覚悟を持っていなかった美月は、攻撃をする際、躊躇して手加減をしてしまっていた。急に相手を殺せと言われて、はいそうですかと実行できるわけがない。人を殺したことない人間なら当然のことだろう。そんな美月に今、覚悟が出来た。
「わかった」
「? 何がわかったっていうんだ。この状況でわかるものなんて、お前がピンチなことくらいだぞ。さっきと比べて覇気がないが、お前がそんな弱気なこと、考えるわけないよな?」
「当たり前だろ……。俺がわかったってのはな、お前が殺していい人間だってことだよ」
『そうだな。自分の都合よく動かせる存在は仲間じゃねえ。ただの奴隷だ』
「今更何言ってるんだ。最初からわかってなきゃダメだろ、そんなこと。それに……」
死角からの木の槍が美月を強襲する。
「殺す覚悟が出来たってことは、殺される覚悟もできたってことだよなあ!」
そして、全力の殺し合いが始まった。裕也は前衛を千春に任せて後方からの援護射撃に徹する。千春はレベル3。レベル4の裕也と比べて全体的な戦闘力は劣るが、既に死んでいるため痛みや疲れを感じず、接近戦の戦いにくさは千春に大きく軍配が上がる。骨を折るなど身体欠損レベルのダメージを与えなければ止まらないということは、そのレベルのダメージを与える攻撃以外は隙を晒すだけになるということだ。
大きな鈍い音が絶え間なく響き続ける。前述したとおり、今の千春が一方的に殴られるなんてことはほぼあり得ない。しかし、だからと言って美月が一方的に殴られているわけじゃない。言葉通り殴りあっているのだ。二人で。
「オラァ!」
「……」
両方、攻撃がクリーンヒットしようがひるむことなく動き続ける。勿論裕也の攻撃は防ぎながら。
鬼気迫るような、神懸かったような美月を見て、裕也は心底安心する。千春が来てくれて助かったと。
千春が来るまでに熱くなりすぎていたため、こうやって離れることが出来なければ、空虚な自分が保てなかった。知略を巡らせ、怒りや憎しみなどの邪念のない戦い。あれをあのまま続けていれば恐らく俺は満たされていた。千春に施した改変は、「死んだら常に俺の近くで指示に従う」という内容。千春が生きていても俺の近くには来るだろうが、恐らく今よりもっと時間がかかる。
「死んでくれて助かったぜ。本当に……」
「そういうことなら、一刻も早くあんな場所からでねえとな」
頭の中に直接声が響き渡る。
「……大頭ォ! なぜ生きてやがる!」
今度の声は頭の中ではなく、後方から耳に届いた。
「そんなの決まってるだろ。俺はまだ死ねないからだよ」
その場にいた全員の動きが止まる。いや、止められる。
「美月、殺す覚悟を持つのはいいが、感情的になって殺すのはダメだ。それは絶対後悔する。まあ、後悔しない殺人があるかって言われたら何も言えないが、とりあえず落ち着け」
「姫璃、さん……」
「落ち着いたらあいつの相手、頼むぜ? この子は俺が、責任もって休ませてやる。わかったか?」
美月は大きく息を吐いたあと、何かを決心したような目で裕也を見据える。
「わかった。俺も責任もって、あいつを殺す」
「その意気だ!」
姫璃が手を下すと全員の体が動き出す。そして、動き出した瞬間に美月と姫璃の位置が入れ替わった。
「ラクトール、力、貸してくれ」
『あんまり協力するのは成長の妨げになるし、バレやすいからしたくないんだが……まあいい。俺も冷静になれたことだし、あいつは気に食わねえから貸してやるよ、力』
「ありがとう。ってことで、ケリつけるぞ」
美月は真剣な眼で裕也を捉える。
「ああ……俺が、終わっちまう……」




