アンノウン・フェアリーズ
メイドのクロエとともに小国を出て7年、マリッカ・アッカネン伯爵令嬢は25才になっていた。
マリッカが自立してまもなく、兄は結婚して伯爵位を継いだ。
やはり気兼ねしていたのだ。
実は起業することにした最大の理由が兄の結婚である。
自分が次期伯爵の結婚の障害になってしまっては家のためにならない。
貴族令嬢として受けてきた教育が判断させたのだ。
アードルフ・エスコラ王太子殿下も王位を継承して国王となられ、エリザベトお姉さまは王妃となっていた。
もちろんマーティアス様とタルヴォ様も海軍大将、宰相となっていてヘルカ&ヒルダお姉さまもそれぞれの夫人におさまっている。
あれから国には帰ってないが彼らとの手紙のやりとりは欠かさない。
変わらぬ友情がそこにはあった。
アレクセーエフ商会の後援で始めたイベントプロデュース業は順調で大陸中の貴族、ほとんど高位の、とコネクションが出来ている。
イベントを成功させるたびに次の依頼が来るような形で仕事が途切れたことはない。
高位貴族、時には王族が顧客であり、その分、ギャラも破格である。
貴族はプライドで生きているのでギャラは上がることはあっても下がることはないのだ。
マリッカはすでに大富豪となっていた。
メイドとはいえ二人三脚でやってきたクロエの給料も倍倍で上がっているのでこちらも相当な蓄えがある。
なぜメイドのままでいるのかは謎である。
使いきれない程の資産と、高まる名声とともに増え続ける仕事の依頼から必然的に会社設立に至る。
数人の弟子をとったのだ。
とはいえ、高位貴族や王族の相手は任せられないのでマリッカ自身の仕事は変わらず、平民の富豪と下位貴族からの依頼をそちらで受けることにした。
イベントプロデューサーは数人であるが調査部門の人員は多い。
アレクセーエフ商会の後援を受けていた頃に商会の調査部門を借りていたのだが、そこで対応してくれていた部隊を引き抜かせてもらった。
仕事を受けるか否かは調査の結果による。
成功しないことが分かっている仕事は受けない。
なので、マリッカの手がけるイベントは必ず成功する。
信用を築くということはそういうことだ。
これはアレクセーエフ商会前会頭イサークから学んだ。
イサークの勇退とイーゴリの新会頭就任を機に独立させてもらった。
社名はアンノウン・フェアリーズ。
見えない妖精たちが幸せを招くというコンセプトだ。
イーゴリとヘレナのアレクセーエフ夫妻とも交流が続いている。
ヘレナは相変わらずの戦闘狂で、夫妻で世界各地の古戦場跡を巡るのが趣味である。
滞在先と彼らの旅行先が近いときに何度か会ったがヲタク語りは健在であった。
アレクセーエフ商会には物資調達で変わらず取り引きさせてもらっている。
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すべてが順調のようだがマリッカには満たされない想いがある。
私、完・全・に、行き遅れた〜!!!