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お仕事の選定

「クロエ、この案件ってアドルナート国王陛下からのご依頼なのよね?」

「はい、お嬢さま。」


マリッカは前のイベントが片付いて次の案件の選定をクロエと相談していたところだった。

マリッカをアンノウン・フェアリーズの対外的な顔とすれば、クロエは内向きのトップであった。メイドだけど。

代表をマリッカが務め、クロエはその秘書というのが公式の立場だが、なぜか昔ながらのメイド服の着用にこだわっていた。

代表秘書であるクロエが依頼や調査報告のすべてを受けている。


今回のご依頼は今やトレンドの婚約破棄断罪イベントである。

貴族は基本的に政略結婚であり、婚約は高位の者ほど当人たちが幼い頃に決められてしまう。

ひと昔前までは嫁は跡継ぎさえ作ればよく恋愛感情は不要というのが常識であったが、必ずスペアとなる跡継ぎが間断なく必要とされた戦争は今や昔、平和と繁栄を謳歌する大陸全体に「なんのための人生だよ!」という気分が蔓延していたのだ。

で、もはやあまり意味のない政治的慣習の犠牲とはなりたくない偉い人たちを、誰も傷つけることなく関係のリセットを出来るのがこの婚約破棄断罪イベントなのである。


まず、王子と公爵家のご令嬢が婚約されていたとする。

そこに各々の本命である男爵家のご令嬢と伯爵家のご令息(公爵家の養子でご令嬢の義弟)の存在がある。

イベントは公の場で王子が婚約者を、嫉妬のあまり男爵家令嬢を傷付けたとして断罪し婚約破棄を迫る。

しかし公爵家令嬢は数々の証拠を提示して傷付けていないことを証明するが婚約破棄は受け入れる。

そこで王子は公爵家令嬢に対して自らの不明による無礼を誠実に謝罪する。

しかし婚約破棄は成立したので真実の愛に目覚めたとしてその場で男爵家令嬢との婚約を宣言する。

あわせて公爵家に対し伯爵家令息の養子縁組を解消してからの婿入りを勧める。

元婚約者の真実の愛の行方にも気づいていたということで、すべてを丸く収めた王子は評判を上げるのだ…


というような筋書きがテンプレ化している。様式美だよ様式美。

一応、美談ということになっていて身分差や慣習に反する等々の些事はスルーされることになる。

一見簡単なようだがイベント開始前の関係者全員との折衝調整がイベンターの腕の見せ所となるわけだ。

まずは国王陛下にウンと言わせなければ始まらない。

こんなものはマリッカ以外に出来る芸当ではないのだ。

信頼と実績のマリッカ・アッカネン、またの名を北の妖精姫。

アンノウン・フェアリーズ代表はその美しさでも有名である。北の小国以外で。


今回この婚約破棄断罪イベントを国王陛下自身が依頼してきたことが異例なのだ。

何かがおかしい。

アドルナート王国は南の中堅国家である。

北の小国同様、伝統あるお国柄でそこそこ豊か、政情も安定している。

まずは関係者に関する調査が必要だ。


---


アドルナート国王陛下は話の分かる賢王という評判。

王太子殿下は優秀な方のようだ。

婚約者の公爵家令嬢も申し分のない淑女。

しかし、庶子で成長してから男爵家に引き取られた令嬢はなにやら怪しい。

優秀であるはずの王太子殿下が籠絡されていることが調査報告からうかがえた。

どうも王太子殿下と男爵家令嬢は本気の婚約破棄断罪劇をぶちかまそうとしているらしい。

素人がヘタに手を出すと痛い目みるぜッ的なことを予見して焦燥にかられた国王陛下が先手を打って本家のこちらに依頼してきたという経緯…


まずは男爵家と令嬢を徹底的に洗ってもらおう。

こりゃ陰謀じゃねーか?名探偵の血が騒ぐぜッ。

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