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「これが地下水路か。…結構、奥が深いんだなぁ。」
南区画の地下水路入口に立つハル。
その入口は閉鎖されてはいるものの、既にその柵すら半ば朽ち果てている。いつでも誰でも、入る気さえあれば容易に侵入出来そうだ。
目撃情報からは詳しい場所が分からなかったものの、地下水路が怪しい事は自警団の話で感じていたのである。
「自警団の人達へは当面、町の人達に夜間外出を控えてもらうように警告を依頼してあるし。とりあえず、俺も中に入ってみるか。…臭そうだけど。」
顔を歪めつつ、ハルは水路の入口に手をかけた。
だが、人が使わなくなってかなりの年月が経った壁は脆く風化し、触れただけでパラパラと崩れてくる。
「うへ~…、本当にヤバそうだね。」
口で言う程に危機感を感じてはいなさそうだが、明らかに安全とは言い難い状況だった。
「どう?ジェフ。血のにおい、する?」
先程自警団の二人と別れてから呼び戻したハクトウワシに問い掛けながら、ハルは左肩に視線を向ける。
地下水路入口からは、その奥の様子が全く確認出来なかった。それでもジェフは一声鳴き、真っ直ぐ奥へ視線を向けている。
「いる…みたいだな。はぁ、入るしかないか。…強化・火。」
嫌々ではあるが、ハルは通常身に纏っている防御魔法に加え、強化魔法も発動した。
不意をつかれた場合、防御魔法のみでは心許ないからである。
そうして奥に入るごとに視界は暗闇に閉ざされていき、水路入口から階段を下った先では、完全に日の光は届かなくなっていた。
「…照明。」
ハルはごく小さく光魔法を唱え、ろうそくの光程度の光源を3つ用意する。
これらは可動式で、ハルの周囲を浮遊させるように設定済みだ。こういった条件も、魔法を構成する段階で意識して練り込む事が出来る。
「これくらいの光源だと負担は少ないな。」
ハルの口元には、自然と笑みが浮かんでいた。
普段から魔法を主体としているだけあって、思うように新しい術式が編み上がった時などは気分が高揚する。
「あぁ、問題ない。ジェフは気配を探っておいてくれ。…って、ダンじゃないから会話は出来ないよな。」
自分を見ていたジェフに話し掛け、苦笑いを溢すハル。
ダンは黒豹でありながら、ハルと意思の疎通が出来たのだ。人とパーティーを組む事は基本的になかったが、ダンがいればそれだけで問題なかったハルである。
今、一番身近にいるのはハクトウワシのジェフ。こちら側の言葉は全く伝わっていない訳ではないが、さすがに鳥の言語はハルには分からなかった。




