89
地下水路は膝たけ程の水が中央を流れており、その両側に足場として石が固く敷き詰められ、道となっている。
ハルはその端の砂利道を歩くのだが、自身の足音に周囲の音が掻き消されてしまう事に眉を寄せていた。
「これ、明らかに接近してますよ、的な感じだよなぁ。魔物がいくらバカでも気付くっしょ。…風翼。」
そこで飛行魔法を発動し、自身を宙に浮かす。これで足音はなくなり、移動速度も上がる事になった。
このまま時間を掛けて探す事も不可能ではないのかもしれないが、何分地下水路はオークショットの地下を縦横に張り巡らされている。
その中を当て所なく探し回るのは愚の骨頂だ。
「…風音。」
同時発動三種目だが、ハルは迷いもなく捜索魔法を発動する。
「…ふぅ…、キツ…。やっぱり町の下だもんな、…もう少し範囲を狭く…。」
音の嵐の中、有効範囲を調節するハル。
夜間とはいえ、様々な物音が発生しているのだ。王都より規模が小さくても、ここの住人数は大して変わらない。
「…何か聞こえる…。あっちのほうだ。」
ハルは範囲を絞った捜索魔法の中、微かに聞こえてきた物音へ向かって飛んでいった。
近付けば近付く程、その音の正体がハッキリと分かってくる。それは、人の泣き声だった。
「…っ…っ、…ママ…っ。」
必死に声を圧し殺しているのか、それでも嗚咽の中で母を呼ぶ。
地下水路は幾つにも分かれた道が入り組む、複雑な迷路のような場所だ。詳しく知る者でなければ、容易には脱出が叶わない。
「…やぁ。」
通路を曲がった先、背を丸めて泣く少年を見つけたハル。
なるべく驚かさないように、ニッコリと笑みを浮かべて声をかけた。
「…っ!」
大きく目を見開いた少年は、ハルを確認した途端に溢れんばかりの涙を浮かべる。
金色の髪の、色白で綺麗な顔立ちの子だ。ただ、今はあちこち酷く汚れているが。
「俺、ハル。君は?」
静かに少年へ空中を歩み寄りながら、名を問い掛けた。
「…っ…、エディー…、エディー・アラン…。お…、お兄…ちゃん、は?」
嗚咽を堪えながら、必死に言葉を紡ぐ少年、エディー。
大きな声を出す事が危険だと分かっているようで、圧し殺したような話し方をする。幼く見えるがしっかりしているようなので、10歳くらいだろうか。
「うん、エディーだね。俺、ハンターだよ。ここに悪い奴がいるって聞いて、退治しにきた。」
ハルは真っ直ぐエディーに視線を向け、ハッキリと告げた。




