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ハル・クロフォードの場合  作者: まひる
吸血鬼
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89/322

89

 地下水路は膝たけ程の水が中央を流れており、その両側に足場として石が固く敷き詰められ、道となっている。


 ハルはその端の砂利道を歩くのだが、自身の足音に周囲の音が掻(か)き消されてしまう事に眉を寄せていた。


「これ、明らかに接近してますよ、的な感じだよなぁ。魔物がいくらバカでも気付くっしょ。…風翼(フライ)。」


 そこで飛行魔法を発動し、自身を宙(ちゅう)に浮かす。これで足音はなくなり、移動速度も上がる事になった。


 このまま時間を掛けて探す事も不可能ではないのかもしれないが、何分(なにぶん)地下水路はオークショットの地下を縦横(じゅうおう)に張り巡らされている。


 その中を当て所(ど)なく探し回るのは愚の骨頂(こっちょう)だ。


「…風音(サウンド)。」


 同時発動三種目だが、ハルは迷いもなく捜索魔法を発動する。


「…ふぅ…、キツ…。やっぱり町の下だもんな、…もう少し範囲を狭く…。」


 音の嵐の中、有効範囲を調節するハル。


 夜間とはいえ、様々な物音が発生しているのだ。王都より規模が小さくても、ここの住人数は大(たい)して変わらない。


「…何か聞こえる…。あっちのほうだ。」


 ハルは範囲を絞った捜索魔法の中、微(かす)かに聞こえてきた物音へ向かって飛んでいった。


 近付けば近付く程、その音の正体がハッキリと分かってくる。それは、人の泣き声だった。


「…っ…っ、…ママ…っ。」


 必死に声を圧(お)し殺しているのか、それでも嗚咽(おえつ)の中で母を呼ぶ。


 地下水路は幾つにも分かれた道が入(い)り組む、複雑な迷路のような場所だ。詳しく知る者でなければ、容易には脱出が叶わない。


「…やぁ。」


 通路を曲がった先、背を丸めて泣く少年を見つけたハル。


 なるべく驚かさないように、ニッコリと笑みを浮かべて声をかけた。


「…っ!」


 大きく目を見開いた少年は、ハルを確認した途端に溢(あふ)れんばかりの涙を浮かべる。


 金色の髪の、色白で綺麗な顔立ちの子だ。ただ、今はあちこち酷く汚れているが。


「俺、ハル。君は?」


 静かに少年へ空中を歩み寄りながら、名を問い掛けた。


「…っ…、エディー…、エディー・アラン…。お…、お兄…ちゃん、は?」


 嗚咽(おえつ)を堪(こら)えながら、必死に言葉を紡(つむ)ぐ少年、エディー。


 大きな声を出す事が危険だと分かっているようで、圧(お)し殺したような話し方をする。幼く見えるがしっかりしているようなので、10歳くらいだろうか。


「うん、エディーだね。俺、ハンターだよ。ここに悪い奴がいるって聞いて、退治しにきた。」


 ハルは真っ直ぐエディーに視線を向け、ハッキリと告げた。


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