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「今更そんなに警戒されてもね。でも、俺は知っているんじゃない。さっきも言ったけど、聞いたんだ。名前を聞かれたくないなら、自分の周囲に徹底しておいた方が良いよ?」
にっこりと笑みを返し、ハルはクラウディアに背を向ける。
「ちょ…、待ちなさいよ。」
慌てて立ち上がったクラウディアだが、ハルは視線を戻す事はしなかった。
「俺、貴族は嫌いじゃないけど…好きでもないからさ。」
振り返りもせずに言い放った事で、拒絶を表すハル。
「お、お礼くらいさせなさいよねっ。」
「君から直接聞いたからもう良いよ。…じゃあね。もう会う事もないだろうけどさ。」
ハルは軽く片手をあげ、ジミーの方へ走り出す。
勿論、すぐその後をダンがついていった。
「ヘイリー姉さん、後は宜しく!」
「えっ?!な、何?あ、ハルっ!アンタ、待ちなよっ。頬、張らせないって!」
擦れ違い様にハルに肩を叩かれ、やっとの事で我に返ったジミー。
同時にハルに告げていた事を思い出し、走り去る背中に向けて叫ぶ。
「その話は後でね~っ!」
だがそれも、遠ざかるハルの声と共に消える。
「あ~っ、もぅ…逃げられたっ。」
悔しさを足元に叩き付けるジミー。
そのタイミングで突然、嵐のように、しかも入口を半ば壊すようにして侵入者が現れた。
「動くなっ!」
「手を頭の後ろにおけ!」
等々、銀色の鎧を身に着けた屈強な体躯の男達が複数、武器を各々手にしながら怒鳴り散らす。
「な、何!今度は何さっ?」
ジミーは混乱しつつも、相手が騎士団だと分かって言われた通りに手を頭の後ろで組んだ。
「お前は何者だっ!」
一人の騎士がジミーへ向け、高圧的に問い掛けてくる。
だがそれにジミーが答える前に、別の声が響く。
「分団長っ!ここにゴブリンの死体が複数ありますっ。」
別の騎士がその騎士に告げ、ジミーの前に立った騎士は彼の首元の記録媒体を千切りそうな勢いで覗き込んだ。
「っ!」
両手を上げて無防備な身体を晒しているのに、今度は首元のペンダントを思い切り引っ張られた為、ジミーは顔を歪める。
それも相手が騎士団であり、言っても無駄だから何も反論しないだけだ。内心は煮えたぎる程、腹に据えかねている。
「ハンターか。あのゴブリンはお前が殺ったのか。」
「何か問題でも?」
未だに記録媒体を引っ張られていたが、ジミーは苛立ちを僅かに言葉にのせた。
「他に何も見なかったか。」
高圧的態度を変えず、続けざまに問われる。
「…白い粉なら、そこの樽の中にあるけど?」
ジミーの言葉に、騎士団が一斉に壁の近くに置かれた幾つかの樽を探し出す。
ハルが入れ換えた場面を目撃していた訳ではなく、単に視界に入ったからなのだが。
「分団長、ありましたっ。」
一つの声が上がり、そこで漸くジミーの首元を引く記録媒体が手放されて楽になった。




