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「…クラウディア、もう少し自分の身を案じた方が良いよ?」
ハルは困った様な、それでいて怒った様な表情を浮かべながら、自らも腰を下ろす。
見ていて痛々しいその傷口を放ってはおけず、優しく薬を塗ってあげるのだった。
「何故?私は弱くないし、これでもCランクハンターよ?」
クラウディアは、自らがCハンターである事を自負している。
その言葉で、この少女も自分と同じランクCである事にハルは驚いた。だが同時に、クラウディアが同じハンターギルドでない事に思い至る。
アンディのギルドでは、ハルが最年少だからだ。
「クラウディアは何処のギルド?俺はハンターギルドBBだけど。」
「あぁ、ブラックバーンのところね。私はハンターギルド・ノーブル所属よ。」
ハルの問いに淀みなく答えるクラウディア。
「ふぅん。クラウディアは貴族なんだ。」
「そうかもね。でも、私のフルネームは明かさないって言ったでしょ?…って言っても、このギルドは好きじゃないわ。だって、この名を出すと皆が怖がるんだもの。」
なるべく感情を押し殺して告げたハルに、クラウディアは曖昧に暈しつつも不満を見せる。
だが、その一言でハルの内心に緊張が走った。ギルドに関する感情を見透かされたと思ったから。
ハンターギルド・ノーブルは貴族のみで構成された組織であり、それ故に他のギルドからは快く思われていない。
「でもハルは変わらないのね。…珍しいわ。髪も。」
薬を塗る為に下を向いているハルの髪に、クラウディアはふわりと触れた。
それに応じるように、ハルは視線をクラウディアへ向ける。
「…瞳も。真っ黒なのね。」
向けられたクラウディアの金色の瞳には、欠片も嫌悪が含まれていなかった。
大概の人は、忌み色と蔑み嫌悪するものである。
「…君の反応も、大概珍しいね。」
ハルは少しだけ困ったような笑みを見せたが、すぐに傷口に視線を戻した。
「はい、終了。これくらいの傷なら痕は残らないと思うけど、帰ったらキチンと手当てしてもらってね。」
漸く薬を塗り終わったハルは自らが先に立ち上がり、クラウディアを助け起こすために手を差し伸べる。
「ありがと。あなた、女性の扱いに慣れているのね。」
何の迷いもなくその手に触れ、立ち上がらせてもらったクラウディア。
だが立ち上がった後もハルの手を放さず、そのまま彼の目を見上げた。
「え…と…?」
真っ直ぐクラウディアから見上げられ、ハルはこの状況に僅かに戸惑う。
猫のように大きな金色の瞳は、ハルの心裏を見透かそうとしているかのようであった。




