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記憶解剖  作者: 月下れど
第一章【解釈違いな物語】
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第四話『反撃の狼煙』

 

 花園彩花——それが今しがた再会した少女の名前だ。しかし、その少女は私の知っている特徴と大きくかけ離れていた。その特徴とは‥‥‥。


「えっと。取り敢えず一つ、質問だけさせて。――なんで髪の色が変わってるの?」


 雅からすれば、彼女の髪色は違和感そのものでしかなかった。あり得るはずがなかった。元々の髪色がパールのように光り輝く純白だったというのに劇的に髪色が変化するはずなど。


 砂糖がまだ存命しているということはこの時代は前回同様、江戸時代なはずだ。とすれば、水色に髪を染める技術など存在するはずがない。


 雅はちょっとしたことからでも疑問を持つように心掛けている。些細な情報が後々役に立つこともあるかもしれない。そのように考えて任務に取り組むことがこの任務を遂行するにあたって、一番大切な心掛けである。

 無論、現地でのコミュニケーション能力も大切だということは言うまでもない。


「あ~、そのことについて、ねぇ‥‥‥。うん、これは本当にわたしも分からないのぉ。ずっとこんな真っ青な湖で暮らしてるからなのかぁ、それともぉ、この身体の影響なのか」


 寝起き時の声色から急変し、溶けてしまいそうなほどに甘ったるい声で彩花が話し始める。その様子に雅は困惑するが、とにかく彼女自身もこの変化に思い当たる節はないらしい。

 だが、恐らく彼女にとってあの日の出来事による変化が大きいのだ。本人は無自覚だろうが、あからさまに声色が最後の一言だけ重くなっていた。そんな本心をずかずかと言ってくるところは未だに変わっていないようで雅は安心した。


 あの甘ったるい声がキャラ作りなのか、ものすごく気になるところではあるが、敢えて聞かないようにする。その方が言葉で上手く言い表せないが、なんかいい。


「あの時は大変でしたよね。とはいっても、私は何もしていませんでしたが‥‥‥」


「そんなことないでしょ!?」


 噓である。彼女は私より先に全速力で湖に辿り着き、最後には溺死するという運命が待ち受けているという定めになっていた。それを謙遜して何もしてないとは、この数年間で余程のことが起きたのだろう。そうでもなければ、謙遜なんてかけ離れた行動を取るなんてしなかっただろう。


 とはいえ、話題が少しズレてしまった。取り敢えず、話題を変えなければ‥‥‥。


「でも! 水色に染まってる彩花ちゃんもめっちゃ、可愛いよ。ね、砂糖ちゃん⁉」


 重い雰囲気を変えるために、まず雅は彩花について褒めることにした。少なくとも、これで話題は弾むようにな‥‥‥。


「ですよね!! 雅さんもそう思いますか! 以前の透き通るかのような純白の髪も、彩花の儚げなところを映し出していて良かったけど、水色になってからはどんな色にも染まれる色だった白が一つの色に定まり、新しい生活を進んでいくという希望が現れたみたいで‥‥‥というか、元々、両目に真珠みたいな目を二つ持っていたところに水色が入ることでその対比がいい! そして水色、ってまず可愛いの塊ですよね。元々持ってる彩花の可愛さ×水色の持つ可愛さが組み合わさったらそりゃ可愛いに決まってますよね! あと、髪型変えてロングにしているのが人魚の鱗の神秘的な感じと合って美人になってるところとか! それから‥‥‥」


「――――」


 しまった、と思うのも束の間、砂糖は彩花の良いところを思いつく限り、列挙し始める。このアイデアが思いついたときこそ、我ながらいい策だと思った。が、それが杜撰だった。ここはあの時から数年後の時間。であれば、元々の彩花に対する愛が大きくなるのも予測できたはずだった。

 しかし、これは予想以上だった。このままでは当分、話が終わるのは期待できないだろう。


「――――?」


 砂糖が饒舌に彩花への愛を語る様子を止めるため、雅は彩花に協力を仰ごうとした。彼女ならば、真っ当な意見を冷酷に伝えてくれると思った。しかし、また雅の読みは外れることになった。両手で顔全体を覆っている彩花がいたからだ。

 隠せていない顔を覗けば、一部からでも赤面が分かった。これは間違いなく頼りになりそうになかった。


「もうっ、まぁた言葉が上手いんだからぁ! わたしに執着するより、他の人と仲良くしたほうがいいんじゃない!?」


 そう――、黒雲砂糖は花園彩花のことが大好きだった。以前、初対面で出会った雅のことを初手、不審者と呼び、その後も幾度か嫌がらせを繰り返すといった愛する我が子に悪い虫が付かないようにする親ムーブのようだった。

 加えて、彩花には両親が不在なため、彼女にとって砂糖は親代わりのような存在だった。まぁ、向いているのは慈愛ではなく、愛情なのだが。


「またそうやってごまかすの? 私の愛する気持ちは本物だというのに!」


 情熱的な告白を適当に流され、その怒りから、彼女は彩花へと手を伸ばす。そして、顎を少し上げるというどこで学んできたのかわからないキザな仕草とともにその言葉をかけた。


「‥‥‥あー、盛り上がっているところ、申し訳ないんだけど。そろそろ本題に入ろう? 紛らわしくさせた私が悪かったから」


「――これからだっていうのに‥‥‥。おのれ、鬼どもめ‥‥‥」


「え? 鬼、何それぇ?」


 まだ何もすり合わされていなかったらしい。一人でに燃え上がっている砂糖は放っておき、代わりに雅が説明することにした。


「なんでかは分からないんだけど、村に行ったら誰もいなくて。それで村に入ったら鬼がいたってわけ。もしかして、昔からこの集落には鬼が現れる‥‥‥、だなんてことは流石にないよね?」


「うん、流石にねぇ。だけどぉ、それめっちゃ困らなぁい? 水中に住むわたしからすると、どうなってもいいんだけどぉ、黒糖ちゃんが困るってのはいただけないわよねぇ」


 村に対して何の思い入れもない彼女の意見は至極当然だが、やはりそこに砂糖が関わってくると、放っておけないらしい。


 両想いじゃん。——もう付き合えちゃえばいいのに。


「あぁ。だけど、私たちにはこれをどうにかする手段がない。そこで作戦会議をしにきたって訳だ」


「ふぅん。でも鬼ってめっちゃ強いんでしょお? そんなん、わたしたちだけじゃどうにもならないっていうか? もう逃げるしかないんじゃなぁい?」


「いやいや、見捨てるっていうのはナシ! ‥‥‥あ! あの人は? 一葉さん!」


 一葉とは以前、この村で出会った門番である。だが、門番が職場にいない時点で結果は見えているだろう。


「いや、案外いいかもしれませんよ? 彼はああ見えても、最強って呼ばれていますし。片手で二十㎏の漬物石を持つくらいですから。付いた異名は鬼です。鬼対策にはぴったりじゃないですか」


「片手で!? いや、だとしても捕まってるんだからそれほどでもないんじゃ‥‥‥」


 あんなにへらへらした態度だというのにやるときはしっかりやるタイプらしい。


「あの人、寝起きに物凄く弱いんですよ。寝起きだったら私、片手でも勝てます」


「驚きのビフォーアフターで声も出ないわ! でも、それなら救出すれば希望の光ありっていったところかな」


 多少心配な点こそあるが、黒糖が太鼓判を押すほどだ。信用はできる。


「話がまとまったみたいでよかったわぁ。‥‥‥でもぉ、残念ながら、わたしは歩けないからぁ、お留守番ねぇ」


「あー、それなんだけど。これ持っていてくれない?」


 そう言って、手渡したものは『とらっち』だ。この機械はただのトランシーバーとはひと味違う。

 うちのチーム随一の天才発明家ミレイ・コウが製作したものであり、通常のトランシーバーの二倍くらいまで通信を可能にするらしい。勿論、防水機能も兼ね備えている。

 まさか、彼の発明品が役に立つときが来るなんて‥‥‥。


「これを使えば、私たちと会話できるから、困った時に相談に乗ってくれると助かるな。あと救難信号にも使えるからそっちが困ったときも使って」


「またよくわからないもの持ってるんだねぇ‥‥‥やっぱすごいね。わたしもできるだけ協力するから頑張ってきてねぇ」


 彩花はその話を聞いて目を輝かせた。彼女は案外ミーハーな部分があるのでこのようなこの時代に存在しないものに目がない。だからこそだろうか、雅をよく尊敬するような態度を取るのは。

 だがしかし、占領されて面白くないと砂糖は考えるだろう。そのせいで、彩花に褒められる度にこちらをムッとした顔で見つめる。が、可愛いので雅はそのまま無視することにした。


「じゃあ、そろそろ救いに行こうか」


 雅は大きな声を出せない代わりに、腕で志を示した。それに続き、砂糖も同じように天へ腕を伸ばす。


「私たちの反撃の始まりとしましょう。さぁ、鬼に泣きっ面かかせましょう!」


 そうして雅たちは反撃の狼煙を上げるのだった。


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