第十二話『鬼門の幕開け』
あP
「まずはこれまでの試練、お疲れ様。早速だが、試練に移させてもらうけどいいかい?」
第三層【迷いの間】を攻略し、遂に最後の試練【審判の間】に辿り着いた雅たち。
そこで立ちはだかったのは鬼の中でも年寄りに見え、白髪で顔に皺が出来ており、そこに語尾が老けているイメージを付け足している。
「ああ。何時でもいい」
雅たち一行は全会一致制の体制を取っているのだが、ここまで来て、断る必要性など誰もないと、判断しての一葉の行動だろう。その証拠に誰も一葉に異を唱える者はいなかった。
最終局面、直前の部屋は第一層と特に変わりはなかったが、番人である鬼の気配がこの空間を緊迫したものへと変えている。だが、雅たちはそのオーラに萎縮することはなかった。それはというと――、
「――ふむ。どうやら、質問するまでもなかったのかもしれんなぁ」
三者が異なる道のりを得て、この層に至るまでに苦悩を一つ一つ解消してきた。その顔付きは一層のときとは大きく異なっており、鬼もそれを見るだけで理解したのだろう。いわゆる年の功というやつだろうか。
「うむ。これなら、OKかな。行ってよし」
平然と軽い雰囲気で何事もなく、第四の試練は終わったのだった。この層に着いてから時間にして、約一分にも満たない試練であった。‥‥‥本当にこれでいいのだろうか。楽になるのであれば、その分助かるが‥‥‥。
「何やら不安そうな顔付きじゃのう。そんなにワシの判断が適当に見えるかの?」
「正直に言ったら、そうなるな」
そう一葉が物怖じしない態度で答えると、鬼は軽く目を見開いた後で軽快に笑う。
「何だ? なんもおかしいことなんて言ってねぇぞ」
怪訝そうな表情を浮かべる一葉に鬼は「すまん、すまん」と軽く謝罪をすると、鬼は言った。
「これからのことを考えていたものでの。あんたらがこれから先、何をして、何を得るのか、それを考えていた」
「っても、まだ分からなくてもいいんじゃ。とにかく、頑張ってくれ。老い先短いジジイからの進言じゃよ。さぁ、行きな」
そして、鬼はまた自分だけに分かることでずっとツボに入り、笑うのだった。
第五層は鬼のトップがいるだけあって、それまでの道のりも異色だった。
階段にはこれまでとは違い、桃色一色で染め上げられており、周りの手すりにもそれに見合った色使いが施されていた。まさしく桃源郷の名に相応しいが、そもそものところ、何故このような名前にしたのかがただ不思議であった。鬼は桃太郎に倒されるというのがお決まりの話だというのに。
そんなことを考えていると、そこそこの長さだった階段も最上層へと繋がったみたいだった。
「デカいですね」
砂糖が思わず感嘆する。それもそのはず、そこには天井まで届く、大きな扉があった。無論、色は言うまでもない。
「ん? ここになんか穴が三つありません?」
一葉が扉の方を指差すと、拳一個分の穴が三つ、三角上に配置されていた。それぞれには緑色の線と赤色の線、そして青色の線が引いてあった。これらが何を指すのか、二人はさっぱり分かっていないようだったが、現代っ子である雅には簡単なことだった。
今までの最後の試練を除く、三つの試練にて合格の証として授かった常盤緑、朱、藍の玉を雅は鞄の中から取り出す。二人が首を傾げて、何をしているのかを不思議そうに見つめるのを脇に雅は次々と対応した穴へとはめていく。
三つ目の玉を入れた瞬間、変化は訪れた。扉が光り輝き、開く。そして、そこには一面ピンク色の部屋がある。目にはとても優しいとは言えない蛍光色だらけの部屋だ。そして、その中でも一際目立つのは半導体のようなものが組み込まれているおとぎ話に出てきそうなサイズの桃が机の上に設置されていた。
一同が奇妙なものを見る眼差しになる前に桃はタイミングを計ったかのように、蒸気のようなものを上げて真っ二つに割れた。――否、正確には真っ二つではない。背面だけはくっついているような状況で桃はくっついて浮いている。そう、浮いているのだ。そして――、
「ようこそ! 我が城へ! 早速だけど、何か用?」
桃の中から出てきたのは可愛いらしい、七歳くらいの少女だった。髪色は桃。瞳も桃かと思いきや、白。服装はやはり桃色で着物を身に纏っていた。つまり、この少女が――、
「お前が『鬼姫』だってのか?」
一葉が一同の気持ちを代弁したかのように問うと、推定『鬼姫』は即座に答える。
「え~、そのくらい自分の頭で考えてくれないのぉ? 面白味が欠けてて、何か嫌ぁ」
その声は桃のように甘ったるく、気を抜くと、相手に飲み込まれてしまいそうだった。
「お前なぁ‥‥‥。彩花みたいで苦手だな」
「おい、彩花を悪く言うなよ」
「まぁまぁ、落ち着いて!」
二人はどうやら、自分が相手のペースに飲み込まれていることを自覚していないようだった。
このままではマズい、そう思った時だった。
「せっかく! 面白いものが見られるって聞いて、あいつに従ったのにぃ、つまらなぁ~い!」
推定『鬼姫』は怒り始めた。なにやら、雅たちの態度が気に食わなかったらしい。
「‥‥‥あ~、もう。なんか、疲れた。もういい、ぜ~んぶ、壊しちゃお」
「何だ⁉」
「――PEACH-01初号機発進」
突如として切り替わった彼女の雰囲気に警戒心を抱くも、もう遅い。初めに、城の壁が爆発音を立て、崩れる。次にその隙間から村へと桃のような爆弾が投下し、村が半壊する。
「――は?」
数秒前までは美しかった緑色の平原が、茶色へと成り果て、周囲には黒色の煙が次々と浮かび上がる。今、こうして、放心状態でいる間にも破壊は繰り返されていく。こんな状況下で犠牲が一人もいないだなんてお花畑のような思考が出来るはずない。せめてもの救いは断末魔もなく、散っていくことだけ。ただ、それよりも放心状態にする要因はまた別のところにある。
「ふははっ! ふはははは」
まだ幼い少女が破壊で快楽を得ているという事実に耐えることが出来なかったのだ。
「――テメェ」
それは怒りが体現化したかのような顔付きであった。幼い子供が駄々をこねるとき、この顔を見せたら黙るどころの話ではない。一生、頭の中にこびりついて記憶から離すことを不可能へとするだろう。
「――はい?」
「お前、今すぐに止めろ。止めないなら、――殺す」
門番の彼にとって、「殺す」など、簡単に言えるような言葉では決して、ない。第二層で成長して、心の抑え方を理解した一葉がこのことを理解していないはずなどない。それほどまでに覚悟が決まっているのだ。
「ふ~ん、少しは面白くなってきたかも」
「どうやら、止める気はなさそうだな」
「勿論!」
「――。そうか、悪かった。お前を救うことは出来なくて」
その言葉をして、一葉を人間として制御する最後のトリガーは消え去ったのだった。
「その言葉、好み! いいよ、一発だけ受けてあげる~!」
命を散らす終わりへのカウントダウンが今、始まった。




