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破滅フラグ回避しまくったら、冷徹チートで無双してました!  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第39話 獄炎の騎士

 それは、音から始まった。

 遠雷にも似ている。だが、空ではない。

 足元よりもっと深い、地の底から這い上がってくる。

 地鳴りとも、獣の咆哮ともつかぬ低音。

 骨の内側に直接触れてくるような、不快な振動。

 次の瞬間。空間が裂けた。

 黒い亀裂が縦に走り、そこから落ちてくる。

 ゆっくりと、確実に、“質量そのもの”が世界へ侵入する。

 存在しているだけで、周囲の空間が軋む。

 巨躯が地面に足をつけた瞬間、岩盤が悲鳴を上げた。

 踏み抜かれるのではない。

 “耐えきれず、割れる”。

 赤熱した亀裂が、四方へ奔る。

 地の奥から、灼熱が噴き上がる

 

 全身を覆うのは、炎。

 ただの炎ではない。

 意思を持つかのようにうねり、形を保つ魔炎。


獄炎装甲インフェルノ・アーマー


「……おいおい」


 ガイアが、無意識に一歩引いた。

 踏み出したつもりはない。

 だが身体が、勝手に距離を取っていた。


 皮膚が焼ける。

 呼吸が重い。


 視界の先に立つそれを、“生物”として認識することを、本能が拒んでいる。


「要塞かよ。しかも動くとか、聞いてねえぞ」

 乾いた声。

 だが、その奥にはわずかな緊張が滲む。


 巨躯が、ゆっくりと顔を上げる。

 炎の兜。

 その奥は、見えない。

 熱が、意志を持ったように押し寄せる。


「燃え尽きぬ限り、我は倒れぬ、ゆえに貴様ら、存分に殴り合おう。灰になるまで付き合ってやる」

 言葉が空気を震わせ、周囲の炎が一瞬だけ膨れ上がる。


 獄炎の騎士ガルマ


 前線を押し潰し、焼き尽くすためだけに存在する“戦場そのもの”。


「耐えて焼いて押し潰す……守り切る気満々で、そのくせ削れない敵ですね」

 リリィは一瞬で距離と熱量を測り、瞳が鋭く細まる。


(防御特化……いえ、違う。防御を“攻撃に変換するタイプ”)


 結論は速い。

 その口元はわずかに歪む。


 「上等だな。硬いほど燃える。

 叩き割りがいがあるってもんだ」

 ガイアは大剣を担ぎ直し、肩を鳴らす。


 対するガルマが、ゆっくりと一歩を踏み出す。

 

 その瞬間。

 空間が、割れた。

 音ではない。衝撃でもない。

 “世界が耐えきれずに軋んだ”感覚。


業火衝砕ヘルブレイカー


 巨脚が地面を踏み砕いた瞬間、炎柱を伴う衝撃波が、全方位へ爆発的に拡散する。


「来るぞ、リリィ!」


 ガイアは即座に前へ出た。

 迷いはない。

 大剣を盾代わりに構え、全身で受け止める。

 踏み込み、固定し、耐える。


「がっ!?」


 身体に、想定を超えた衝撃が叩き込まれた。

 防いだ分だけ。 耐えた分だけ。

 炎と圧力が、上乗せされる。

 まるで、防御そのものを燃料にしているかのように。


 骨に響く。筋肉が悲鳴を上げる。

 ガイアの身体が地面を削りながら吹き飛ばされる。

 石が砕け、溶け、後方へ一直線に抉られていく。

 鎧の隙間から、血と蒸気が噴き出した。


「っ……防ぐほど、痛ぇとか……!」

 

 歯を食いしばり、無理やり踏みとどまる。

 だが、熱が抜けない。

 いや、増えている。


 ガルマの声が、重く落ちる。


「耐えろ、もっとだ。燃え尽きるまで殴り合える相手は貴重だからな」

 

 炎が、嘲笑うように揺れた。

 ガイアの身体を包む炎は、ただの熱ではない。


 まとわりつく。侵食する。 削り続ける。

 魔力を蝕み、体力を奪い、呼吸すら焼き焦がす。


 継続焼却。

 防御した者を崩すための悪意ある炎。


 炎が、消えない。

 ガイアの全身にまとわりつく獄炎は、叩いても、振り払っても、むしろ勢いを増して燃え上がっていた。


 鎧が赤く焼け、皮膚の奥まで熱が侵入してくる。

 呼吸のたびに喉が焼け、視界が揺らぐ。


「っ……クソ……!」


 膝が、わずかに沈む。

 踏みとどまっているのは、意地だけだった。


「リリィ……!」

 振り返らず、声だけを投げる。


「水、くれ……! 派手なやつだ……!」

 冗談めかした言い方。

 だが、その声は、明らかに限界に近い。


 リリィは一瞬だけ目を細める。

 状況を、即座に理解する。


(通常の消火では追いつかない……なら――)


 選択肢は、一つ。


「……少し荒いですよ」

 静かに告げる。


 その手が、空間に魔法陣を描いた。


 重層展開。圧縮。 増幅。


 最上級水魔法《蒼圧殲流アクア・フォール

 

 上空から、質量を持った水流が叩き落とされる。


「ちょっ、おいリリィィ!?」

 ガイアの抗議は、途中で潰れた。


 直撃。


 滝どころではない。

 質量そのものを叩きつける“水の暴力”。

 炎が悲鳴を上げる。

 蒸気が爆発的に膨張し、白煙が視界を覆う。

 熱と水が激突し、空気が弾ける。


 そして。

 あっさりと。 炎が、消えた。


(……え)


 一瞬。

 リリィの思考が、わずかに止まる。


(消え……ました? こんなに、簡単に……?)


 予測よりも、あまりにも早い鎮火。

 継続焼却のはずだった炎が、まるで最初から脆かったかのように、完全に途切れている。


(出力……上げすぎましたか…?)


 ほんのわずかに、眉が寄る。

 計算は正確だった。

 だが、結果は“想定以上”。


 やりすぎた可能性。


 水流が止んだあと、ガイアはその場に倒れていた。

 全身から白煙を上げながら、荒く息を吐く。


「っは……! 加減って言葉、知ってるか……?」


 肩で息をしながら、苦笑する。

 地面には、衝撃で抉れたクレーター。

 だが、その身体からは、もう炎は消えていた。


 リリィは涼しい顔で答える。

「知っていますよ」


 一拍置いて。


「今のが“加減”です」



「……ほう?」

 ガルマの声が、わずかに低く沈む。


「最上級水魔法……くく、いいな。ああ、これはきつい……勝ち筋は、ほとんどない。それでも終わりじゃねえ。まだ“燃やし尽くす手”は残っている」

 ガルマの唇が、わずかに動いた。

 声にならないほどの小ささで、それは誰の耳にも届かない。


「チッ……! 正面から殴ったら、焼き殺されるタイプかよ……!」

 ガイアは歯噛みしながら、距離を取る。

 このままでは、押し潰される。


 ガルマが、腕を振る。

 炎が、走った。

 地面を舐めるように広がり、蛇のようにうねる。


熾炎蛇走サラマンダー・レイド


 炎の奔流が、リリィへ迫る。

 だが彼女は動じない。

 指先が動く。


 上級水魔法《水星輪舞》


 無数の水晶が浮かび、軌道を描く。

 同時に、炎の奔流と衝突。

 水は蒸発し、存在を保てない。

 炎はそのまま突き進む。


 リリィが、淡々と告げる。


「中級水魔法《流盾フロウ・シールド昇格・極圧化・最上級化》」


 その声と同時に。

 水が、わずかに“押し返した”。

 ただ防ぐだけではない。

 侵入を拒絶し、炎を霧散した。


「……やはり」


(弱点属性である水の上級魔法まで……無効ね。)


「……次」

 空間が震える。


 リリィの最も得意とする雷魔法。


 特級魔法《雷霆ノ楽章ライテイのアリア

 

 魔法陣が旋律を刻み、多重雷撃が降り注ぐ。


 雷がガルマを貫く。

 装甲が焦げて、炎が揺れる。

 しかし。

 止まらない。

 そのまま、ガルマが突っ込んできた。


 雷を浴びながら。

 炎を噴き上げながら。

 一直線に。


「いいな……その雷!」

 拳が振り上げられる。


 中級水魔法《流盾フロウ・シールド昇格・極圧化・最上級化》

で防ぐ。


(……やはり浅い)

 雷では、止めきれない。


灼熱鎖縛フレイム・バインド


 ガルマの腕がわずかに振られた、その瞬間だった。

 

 地面が軋んだ。

 ひび割れが走る。一本ではない。

 蜘蛛の巣のように、無数に。

 次の瞬間。

 割れた大地の裂け目から、炎が噴き上がる。

 ただの炎ではない。“形を持った炎”。鎖だ。


 灼熱で編まれたそれが、意思を持つようにうねりながら這い出してくる。

 地を舐め、空気を焼き、獲物を探すように。


「っ!?」

 反応するよりも早く。

 ガイアの足首に絡みついた。

 絡みつく、ではない。

 “食いつく”。 締め上げる。 焼く。

 だが、それ以上に動きを奪われる。


「ッ……ふざけんなぁッ!!」

 ガイアが歯を食いしばる。

 力任せに鎖を掴み、引きちぎろうとする。


 筋肉が膨れ上がる。地面が軋む。

 炎が、跳ねた。逆流。

 触れた腕を、内側から焼き上げる。


「がぁッ……!?」

 ガイアの腕から、煙が上がる。

 掴めば焼かれ、抗えば焼かれる。

 “触れた時点で負け”の拘束。


「……そこまでです。最上級水魔法《蒼氷結界》」

 リリィが、息を乱すことなく、静かに告げた。

 声は小さい。

 その一言が、戦場の“法則”を書き換えた。

 

 温度が下がる、という次元ではない。

 “熱という概念そのもの”が、剥ぎ取られていく。

 空間が軋む。

 目に見えない圧が、全方位から押し寄せる。

 炎の鎖が、悲鳴を上げた。

 じゅう、と蒸気を上げる暇もない。

 瞬時に。凍結。

 赤く揺れていた炎が、色を失い、白く濁る。


 パキン。

 乾いた音。鎖は、粉々に砕け散った。


「……!」

 ガルマの動きが、止まった。

 獄炎装甲の表面に、初めて霜が走る。

 炎が、燃え続けられず、ぎちぎちと嫌な音を立てて軋む。


「……炎が、鈍る?」

 初めて混じる、困惑。


 リリィは、淡々と言った。

「炎は、支配できます」


 戦場の空気が、確実に変わった。



 ガルマは、吼えた。

 地の底から引きずり出したような、濁った咆哮。


「ならば、燃え尽きるまでだァッ!! 奥義《終焔爆心ラスト・インフェルノ》!!」

 

 全身の炎が爆発的に膨張する。

 超広範囲の爆発。

 音が遅れてやってくるほどの、超高熱・超高圧の爆発。

 空気が焼け、地面が融け、空間そのものが歪む。

 爆心地は一瞬で陥没し、溶鉱炉のように赤熱した大穴へと変わった。

 炎が渦巻く。逃げ場はない。

 触れれば蒸発、近づけば消滅。

 純粋な“破壊の塊”。


 ガルマの装甲が、軋んだ。

 ひびが走る。砕ける。

 一段階、崩壊する。


 しかし。次の瞬間。

 砕けた隙間から、さらに濃い炎が噴き上がった。

 より黒く。より重く。

 より“燃えるためだけに特化した”魔炎。

 装甲の崩壊すら、燃料に変えている。


「壊れたら強くなるとか……!タチ悪すぎだろ!!」

 ガイアが吼える。


 だが、それでも止まらない。

 崩れながら、強くなる。

 削れるほど、燃え上がる。

 理屈を踏み越えた存在。


「壊れても、燃える。それが、我だ」

 ガルマの声は、低く、濁り、狂気を帯びていた。

 壊れることすら恐れていない。

 燃え続ける限り、敗北はないと信じている。

 その信念ごと、焼き尽くすように。

 炎が、さらに膨れ上がる。


 リリィは、動じない。

 一歩、前へ。爆炎の中心へ向かって。

 ゆっくりと。迷いなく。


 その瞳は、ただ“現象”を見ていた。

 炎の流れ。

 魔力の循環。

 熱量の偏り。 

 膨張と収束の周期。

 

 すべてが、式として並ぶ。読み切る。完全に。


「炎は、あなたのものではありません。最上級水魔法《焔界律》」

 静かに告げる。


 次の瞬間。

 炎が、逆らった。

 ガルマの周囲から、魔炎が次々と消失していく。

 獄炎装甲は、ただの重装甲へ。

 熱が消え、冷たい空気が満ちる。


 まるで、命令を拒否されたかのように。

 ガルマの炎が従わなくなる。


「……な……に……?」

 炎の騎士にとって、それは地獄だった。


「今だ、ガイア!」

 リリィの声が、凍てついた戦場に鋭く響いた。

 支配が切り替わった、その一瞬。

 炎が沈黙した刹那。


「任せろ!!」

 ガイアが、大剣を振りかぶる。


《地響轟炎》!!


 剣が地面を叩いた瞬間、地脈が目を覚ました。

 地割れが走り、炎ではなく大地そのものが噴き上がる。

 支配を失ったガルマが、崩壊する地形に飲み込まれていく。


「燃えねえなら壊すだけだ!!」


 最後に残った炎が暴走し、己自身を焼いた。

 獄炎装甲が崩れ、巨躯が、地に沈む。


 その残骸を見下ろしながら、静かに告げた。


「炎に、頼りすぎましたね」

 リリィは、静かに呟く。


 戦場に残るのは、焼け焦げた甲冑の残骸だけ。

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