表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅フラグ回避しまくったら、冷徹チートで無双してました!  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/34

第33話  祈りと覚悟

 夜明け前の聖ノエル修道院。

 崩れかけたアーチの隙間から、氷のような風が吹き抜けていた。

 戦いは終わったはずなのに、空気はまだ震えている。

 燃え落ちた祭壇、砕けた祈祷石。

 そして――静寂の中に、ひとつの灯りが残っていた。

 それはエリアスの祈りの光。

 淡く揺れる白金の輝きが、崩壊した礼拝堂を優しく包み込む。


「……やっと、静かになったね」

 エリアスは手を胸に当て、祈りを解いた。 

 その声はどこか安堵と哀しみを混ぜている。


「聖域の封印は保たれてる。だけど、まだ……残滓があるな」


 アレンが剣を背に収めながら周囲を見渡す。

 焦げた壁面には祈りの呪文が、黒く焼き付いていた。

 “信仰”が“兵器”として使われた痕跡。

 それは、この国が抱える闇そのものだった。


 「こっちも終わりだ。……しかしまぁ、派手にやったな」

 その手には、血のついた包帯。

 彼自身も深い切り傷を負っているが、どこか晴れやかな笑みを見せていた。

「カミラ、リリィ。魔力残量は?」


「平常値に戻りました。

……ただ、みんな限界ギリギリです。特にアレンが。」

 リリィの声は震えていた。


 だが、アレンは笑った。

 「俺は平気だよ。――彼女が無事なら、それでいい」


 その“彼女”という言葉に、エリアスはそっと目を伏せる。

 言葉にできない感情が、胸の奥で微かに震えた。

 そのとき、アレンの懐の中の魔導石が淡く光を帯び、青い波紋が広がる。


 ルシアンから受け取った“通信用魔導石”――王都との連絡手段。


 アレンが応答すると、石の中に映し出されたのは、あの冷静な瞳。

 ルシアン=ヴァルグレイだった。


『アレン、状況を報告しろ。……無事か?』


「無事、とは言い難いが――敵は排除した。聖域も保全した」


『……そうか』

一瞬、ルシアンの表情が緩んだ。


『全員、生きているな?』


「当たり前だろ」

 ガイアが割り込む。


『その声なら問題ないな』

ルシアンは小さく息を吐き、続けた。


『王都は動いている。

国王陛下が、直接そちらへ向かわれる』


「……陛下が? まさか。」


 リリィが目を丸くする。

 「ま、まさか本当に……? この雪原まで!」


 「あり得ない話じゃねぇか」

 ガイアが肩を竦める。

 「だがそれだけ、覚悟を決めたってことだろ」


「きっと……誰もが、“祈りの意味”を取り戻そうとしているんだね」

 エリアスは小さく微笑んだ。


 王が、直々に戦地に出るなどあり得ない。

 それは、何かを決意した証――。


『第2王子の奪還は成功した。

クレイモア家の切り札は失われた』


 トレヴァーが低く息を呑む。

「……それは、戦争を選ぶ覚悟」


『ああ』

 ルシアンは一度だけ、はっきりと頷いた。


『気を抜くな。

この結果を、奴らは黙って受け入れない』


 通信が途切れ、光が消える。

 残るのは、微かな風の音だけ。



 夜が明ける。

 雪原の地平が、かすかな朱に染まり始めた。

 勇者パーティーが外へ出ると、そこには壮観な光景が広がっていた。

 数万の兵が整列し、王国の青い旗が一斉に翻っている。

 聖ノエル修道院の周囲を、王国軍が完全に包囲していたのだ。


「勇者殿たちに敬礼――!」

 誰かが叫ぶ。

 無数の剣が一斉に掲げられ、白い光を反射する。

 アレンは息を呑んだ。

 兵たちの瞳は恐れではなく、確かな敬意に満ちていた。


 だが彼は首を振る。

 「……やめてくれ。まだ、終わってない」


 その声に兵士たちは口を閉ざす。

 代わりに吹く風だけが、静かに王国の旗を揺らした。


 司令官が前に出る。

 「王命により、クレイモア家への情報流出を防ぐため、修道院一帯を封鎖。以後、軍の管理下に置かれます」


 「……つまり、もうこの地は戦場ってことか」

 ガイアが低く唸る。


 「戦場であっても、“祈りの地”であることに変わりはない」

 アレンはそう言い、雪原を見渡した。

 遠く、王家の紋章を掲げた馬車がゆっくりと近づいてくる。


 ――王自ら、この地に来た。


 馬車が止まり、王が降り立つ。

 その姿に兵たちは一斉に膝をついた。

 老王の顔には、深い疲労と、痛切な決意が刻まれている。


「――勇者アレン殿、聖女エリアス殿」


 その声に、アレンとエリアスは膝を折った。

 だが次の瞬間、王は雪の上に膝をつき、頭を垂れた。


「……何を、なさるのですか。陛下!」

 リリィが息を呑む。


 王は静かに答えた。

 「謝罪だ。王命による“聖女拘束令”――あれは、我が弱さゆえ。第2王子を人質に取られ、クレイモア家に逆らえなかった」


 雪が風に舞う。

 老王の声は震えていた。

 だがその瞳には、確かな炎が宿っている。


 「だが今、その鎖は断たれた。ルシアンの奮闘により、我が子は無事だ」


 兵たちの間にざわめきが広がる。

 アレンは静かに首を振った。


 「陛下、もう頭を上げてください。――俺たちは、あなたの敵じゃない」


 エリアスが一歩進み、穏やかに微笑む。

 「誰もが祈りに縛られていたのですね……。でも、もう大丈夫です。祈りは、人を救うためにあるから」


 王はその言葉に目を伏せ、そして立ち上がる。

 「勇者アレンよ。王命により――クレイモア公爵家の断罪を命ずる。

 我が国の汚れた祈りを、清めてくれ」


 アレンはゆっくりと剣を抜いた。

 白い息が空へ溶け、刃が黎明の光を反射する。


 「承知しました。俺たちの祈りで、すべてを終わらせます」


 「……どうか、祈りの時代に終焉を」

 王は彼らを見送りながら、呟いた。



 夜。

 鐘楼の上。

 月が雪原を照らし、静寂の中で二つの影が並んでいた。


 アレンとエリアス。


 「王も、俺たちも……同じものを見てるのかもな。救えなかった祈りを」


 「だから、終わらせましょう。祈りが“兵器”じゃなく、“希望”であった時代を取り戻すために」

 エリアスはそっと微笑んだ。


 アレンが剣を掲げる。

 エリアスはその刃に手を重ね、光の祈りを注ぐ。


 「……これが、俺たちの覚悟だ」

 「ええ。祈りを、もう一度――人の手に」


 鐘が鳴る。

 風が雪を舞い上げ、音が王国軍の陣へと響き渡る。

 それは――次の戦いの始まりを告げる“祈りの音”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ