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68 私を選んで

 あれは、ティリアと街へ出かけた日だ。

 見知らぬ二人組に声を掛けられ、詰められ、ティリアは過呼吸を引き起こすほど怯えていた。

 あの時、声をかけてきた一人が……目の前の女性だ。


(確か、ティリアは異母妹だと……)


 両親と一緒になってティリアを傷つけていた異母妹。いくら子どもだとしても、到底許せるものではない。

 だがそんな、アルヴィスの敵意に満ちた内心になど気づいていないのだろう。

 ティリアの異母妹である女性は、アルヴィスの姿を認めるとぱっと表情を輝かせた。


「あなたは、公爵家の……!」


 彼女は倒れ伏す父親には目もくれずに、一目散にアルヴィスの下へと駆けてくる。


「以前お会いしましたよね! 私のことを覚えていらっしゃいますか!?」


 ……あぁ、覚えている。

 耳に堪えない罵声を浴びせ、ティリアを怯えさせていた。

 思い返すだけではらわたが煮えくり返るようだった。


「……覚えているよ」


 燃え立つような怒りを押し殺し、アルヴィスはそれだけを答える。

 とにかく、彼女の口からティリアの居場所を聞き出したかった。


「ティリアは今どこに――」

「私に会いに来てくださったんですか!? 嬉しい!」


 ……まったく話を聞いていない。

 場違いにはしゃぐ少女に、アルヴィスの苛立ちは募っていく。

 なおもしゃべり続ける少女を制し、アルヴィスはゆっくりと問いかける。


「答えてくれ。君の姉――ティリアはどこにいる?」


 アルヴィスの興味が自分よりも「無能」の異母姉にあると悟ったからだろうか。

 バーベナはあからさまにむくれた表情になる。


「……あんな出来損ないの役立たずのことなんてどうでもいいじゃない! あいつはあなたと婚約しているなんて言ってたけど、どうせ嘘なんでしょ?」

「何を――」

「あなたは騙されているのよ。光属性なんていうからどんなものかと思っていたけど、ただ単に自分の傷を治し続けるだけで何の役にも立たないじゃない! あんなのよりは私の火魔法の方がよっぽど素晴らしいわ!」


 バーベナはなおも自画自賛を続けていたが、それよりもアルヴィスには彼女の言葉が引っ掛かった。


(「傷を治し続ける」……?)


 アルヴィスも一度、ティリアが光属性の魔法を発動した場面を目にしたことがある。

 あの時のティリアは身を挺してクルルの暴走を抑え、ひどく血を流していた。

 初めて光属性の魔法が発動し、ティリアの傷が癒えてからはむやみやたらと魔法が発動するようなことはなかったはずだが――。


(ティリアはまだ光属性の魔力を制御することができない。彼女が命の危機に瀕したときに、無意識に発動するのだとしたら――)


 傷が癒えてもなお、すぐに治癒魔法が必要な状況に置かれているのだとしたら。


(まさかティリアは……!)


 アルヴィスは目の前の少女の肩を掴んだ。

 さすがのバーベナも、アルヴィスの気迫に怯えたように息をのむ。


「答えろ、ティリアに何をした」


 どうか間違いであってくれと願いながら、アルヴィスは強く詰問した。

 だがそれでも、バーベナは譲らなかった。

 彼女は逆上するように叫びだしたのだ。


「なによ! なんであんな無能のことを気にするのよ! 私の方が優秀だしあなたの役に立てるわ! だからあんなのはさっさと捨てて私を選んで! 連れて行って!!」


 ……意味が分からない。

 何がどうしたら、アルヴィスがティリアを捨て、目の前でぎゃあぎゃあと騒ぐ少女を連れていくことになるのだろうか。

 これ以上彼女を問い詰めても無駄だろう。

 そう悟り、アルヴィスはバーベナから手を離し踵を返す。


「待って!」


 バーベナはなおも叫んでいたが、アルヴィスは足を止めなかった。

 今は少しでも早く、危険な状況に置かれているかもしれないティリアを探さなければ。


「クルルゥ!」


 その時、空中から声がしたかと思うと姿を現したクルルが降ってきた。

 アルヴィスを先導するように走り出すクルルの姿に、アルヴィスは小さな神獣がティリアの居場所を突き止めたのだと理解する。


「ティリア……!」


 一目散に階段を駆け上がるクルルを追いかける。

 小さな神獣は廊下の向こうへと姿を消し、アルヴィスもその後を追った。

 だが、廊下の角を曲がった途端――。


「ここまでです」

 暗い顔をした若い男が目の前に立ちふさがり、アルヴィスは舌打ちする。

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