↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑巾一枚で国を救っていた地味令嬢、無能と罵られ追放されたので隣国の黒騎士様に極上のお掃除をお届けします  作者: カナヘビダイスキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/3

隣国での極上ライフと、崩壊する白亜の城

それからの私の生活、一言で言って最高。いや、控えめに言って天国だった。

毎日の相棒は、アルベルト様が「これ、君に」って恥ずかしそうに贈ってくれた最高級の魔導シルクの雑巾。それと、トリガーを引くだけで聖水が無限に出てくる特製スプレー。これがまた、手に馴染むのなんの。

試しに、呪われてドロドロだった城の庭の土に、私の魔力を混ぜた水をぶっ放してガシガシ耕してみた。そしたら次の日、見たこともない七色の花が狂ったように咲き誇って、丸々と太ったトマトやらナスやらがゴロゴロ実った。畑仕事のクオリティじゃない。

調子に乗って領民の家を「お邪魔しまーす!」って一軒ずつ力任せに磨いて回ったら、みんなの持病の腰痛やら古傷やらが、拭いたそばから消えていく。街中が、引くほど元気になってしまった。


「リーゼロッテ、今日も無理をしていないか? 疲れたら、その……いつでも俺の胸で休んでくれ」


「アルベルト様、ただの埃払いですよ。息すら切れてません」


「だめだ。君は限界突破しすぎる。ほら、帝都から取り寄せた最高級のケーキだ。あーん、をしてくれ」


「ひゃっ、いや、あーんって……!」


無口で怖そうだった黒騎士様は、私のことになると急にブレーキが壊れる。お掃除が終わるたびに、ごつい鎧のまま抱きしめられるからちょっと痛い。でも、これでもかってくらい美味いものを食わされて、彼の過保護な甘やかしに、私の心も胃袋も完全に胃もたれ寸前で満たされていた。

気がつけば、あの呪われていた「黒の地」は、帝国で一番実り豊かな「至高の聖域」なんて噂されるようになっていた。

――そんなある日。

城の前に、ガタガタの薄汚い馬車が停まった。

現れたのは、泥まみれで服がボロボロの、見覚えのある男女。ルファス殿下とミリアだった。


「リーゼロッテ! リーゼロッテはいるか!」


応接室に飛び込んできたルファスは、かつての偉そうな態度はどこへやら、完全に目の死んだ幽鬼だった。隣のミリアも、自慢のふわふわの髪が鳥の巣みたいにバサバサで、見る影もない。

私はフカフカのソファに座り、アルベルト様に優しく肩を抱かれながら、お茶をズズッとすすって首を傾げた。


「まあ、ルファス殿下。それにミリアさん。どうしたんですか、その泥棒にでも遭ったみたいな格好は」


「どうした、ではない! お前が国を出てから、我が魔導騎士団の本部は地獄絵図なのだ!」


ルファスが血走った目で叫ぶ。

聞けば、私が国を去った次の日から、あの白亜の城は一気に黒ずみ、ドブみたいな異臭を放ち始めたらしい。

焦ったミリアが「私の光魔法でー!」と光を放ちまくった結果、汚れが熱で焦げ付いて、壁や床にガッチリ固着。最悪の焼き付き汚れになった。

ついには城の結界が瘴気で腐り落ち、本拠地に魔獣がなだれ込む大惨事。騎士たちの武器は錆びてボキボキ折れ、みんな原因不明の体調不良で寝込み、魔導騎士団は事実上の壊滅。


「王宮の学者が調べたら、お前が毎日やってたあの地味な掃除こそが、国を維持する【神聖極限浄化】だったって分かったんだ……!

リーゼロッテ、頼む、戻ってきてくれ! 公爵待遇で迎えて、もう一度私の婚約者にしてやる! だから今すぐあのクソまみれの城を掃除しろ!」


ルファスが床に膝をつき、必死に手を伸ばしてくる。

ミリアも「そうよ! 私、お掃除なんて地味で汚れる仕事、もう絶対嫌よ!」とギャーギャー泣きついている。

今更戻ってきてくれ、と言われても。知らんがな。


「お断りします、ルファス殿下」

私は、冷めた紅茶を見るような目で言い放った。


「私はただの、掃除しか脳のない無能令嬢ですから。白亜の城の素晴らしい輝きは、ミリアさんの光魔法でピカピカに維持なさってください」


「そんな……! あれ、ただ光ってるだけで、汚れが余計に取れなくなるんだってば!」


「知ったこっちゃありません。それに」


私は、私の肩を抱いているアルベルト様の大きな手に、自分の手を重ねた。


「私は今、このガルザ帝国で、世界一のホワイトな掃除環境と、私を本気で愛してくれる最高の旦那様に出会えました。不潔で、感謝の言葉も知らないブラックな男のところへ戻る理由、どこにあります?」


「その通りだ」


アルベルト様が、氷点下の視線をルファスに向けた。全身から放たれる本物の『黒騎士』の威圧感に、ルファスは「ひっ」と短い悲鳴を上げてガタガタ震え出す。


「我が最愛の婚約者であり、この領地の女神であるリーゼロッテを、これ以上侮辱することは許さん。お前たちの国が滅びようが、知ったことか。……おい、門番。この無礼者どもを、今すぐ叩き出せ。二度と敷居を跨がせるな」


「ひっ、ひぃぃぃっ!」


衛兵たちに引きずられながら、ルファスとミリアは絶望の叫び声を上げて連れて行かれた。

あの後、あの国がどうなったかは風の噂にすら聞いていない。自業自得、因果応報ってやつだ。


「……リーゼロッテ、不快な思いをさせてすまなかったな」


アルベルト様は私の手を引き、包み込むようにギュッと抱きしめてきた。彼の胸の温かさと、さっき私が撒いたフローラルレモンの香りが、私を優しく包む。


「いいえ、アルベルト様。ちっとも気にしてません。それより……」


私は彼の胸に顔を埋めたまま、悪戯っぽく笑った。


「あそこの部屋の隅に、ちょっと寂しそうな埃を見つけちゃいました。これから一緒に、お掃除(デート)に行きませんか?」


「ああ、喜んで。君となら、世界の果てまで綺麗にしよう」


不器用な黒騎士様は、私の額に優しくキスを落とした。

私はこれからも、大好きな相棒のモップを振り回し、大好きな旦那様にこれでもかと愛されながら、世界中をピカピカに磨き上げてみせます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。