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優しい世界が見たいんだ  作者: 川崎殻覇
名取愛人は求めない
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白いワンピース…おぉ、それは世界で最も美少女に相応しい装い

誤字脱字報告感謝です。マジせんきゅー

『今まで経験したことのないような夏にしようね』


そう言われ、指定された場所に辿り着いてみればそこにはやけに大荷物を持った先輩のお兄さんの姿が。


「やぁ! 早速出発しようか!!」


出発? 何処へ…?

そんな疑問をぶつける間もなくひょいっと車の中に詰められ撃沈。どうしよう、この空間にちょっと適応出来ない。


「はい?」


「というわけで、ひいおばあちゃんの家に名取君を招待したいと思うんだけど…嫌だったかな…?」


まずその言い方がずるいということは置いておいて…ひいおばあちゃんの家とはな…。


人口が十人にも満たない離島、そこが先輩のひいおばあちゃんの家らしい。と言ってもそのひいおばあちゃん自体は亡くなっているらしく、残っているのはその家だけらしいが。

本当はその家を処分することも考えていたらしいのだが、様々な思い出や先祖代々の墓とかも残っているらしく、結局処分せずに管理することにしたのだとか。


年に一回その家を管理…要は掃除やらをする為に数日滞在するらしいのだが、それに俺も招待されたというわけだ。つまりは離島バカンスというわけ。


人里離れた島でひと夏のバカンスを…と言えば聞こえはいいが、要は離島暮らし。現代社会とは隔絶した不便な生活をしなければならないというわけだ。そんな場所に招待されても…と思う人が大概だとは思うが…。


「ふーん…いいっすね!」


実はというと俺はそんな生活にちょっとした憧れを持っていた。人間社会から離れて自給自足の生活…いいなぁ。

でも事前に言ってね? 色々と準備するものがあるからね…。


「あ、勿論家の掃除自体は私がやるから、名取君は島でゆっくりしてくれればいいからね」

「ん…? あぁいや、世話になるなら手伝えることは手伝いますよ」


ふと何か違和感の様なものを覚えたが、一先ずそれは飲み込むことにする。

先輩に言われ一応三日程度の着替えやら日用品は持ってきたが、島に行くとなっては他に必要となるものも多くなるだろう…候補をピックアップして時間が空いたら買いに行かないとな。




島、島がある。

というよりも上陸している。おぉ、これぞ大自然…。


まぁ、大自然と言うには人工的な工事をしている様が幾つも見られ、無人島とは呼べないような形相になっている。…簡単に表すと漁港町的な? そんな雰囲気の様子だ。


車で大分移動し、その通り掛かりに様々な物を補給したのち船で移動すること三時間。

船での移動は優雅とは呼べない物ではあったが新鮮味を感じるものだった。潮風を切るあの感じ、悪くない。


「ん〜…やっと着いたね」


「……そっすね」


今は夏、そしてここは暖かい地方の島…自然と装いは相応に涼しいものになってくる。


俺が先程まで布地は薄いがしゃんとした格好をする為に長袖のシャツを来ていたのに、暑苦しくなって半袖に装いを変えた様に、先輩も普段とは打って変わった軽装になっていた。


「…綺麗な場所でしょう? …そう見えてくれていると嬉しいな」

「えぇ、本当に。全くの反対なしに綺麗な場所だと思いますよ」


満点の空、美しい海。そのどちらにも引けを取らず、尚且つ存在を際立たせている者がいた。


清純という言葉を体現した様な白いワンピースを身につけ、それに合わせた麦わら帽子はこれ以上ない程にその装いにマッチしていた。

更にはそのワンピースにさえ一つ工夫がされている。


先輩は胸が大きい、そんな事実はとうに知っている為こと更言及する必要はない筈なのに今だけはやけに目が吸い寄せられる。


よく胸が大きい人は服を選ぶのは大変だと聞く。

その大き過ぎる胸が胸元を強調させるが故に腹部に空間を生み出すらしいのだ。よって外からは少しふくよかに見えるという欠点があるらしい。


だが、今日の先輩は少し違う。腹部にベルトの様な何かを巻き付けているらしく上手くその空間を潰していた。

そのせいで普段は強調せずとも強調されている胸が余計に強調され嫌でも目が吸い寄せられてしまっていた。


普段ならばそんなことはない。むしろ隠そうとしている筈だ。

けど今日は違う…そのギャップが普段の行動を阻害されてしまっている。


「わっ…いい風だね」


ふわりと上空へと吹き上げる様な風が舞う。

出会った当初、あの時の先輩の髪は肩ぐらいまでしかなかったが、今では背中の半分程度まで伸びている。


風が舞い、髪がなびく。

一年前ならばそこまで印象に残らなかった筈なのに、今では嫌でも目についてしまう。嫌でもそう思わされる。


「…そうっすねぇ」


綺麗だ。不意にそう考えてしまった。それほどまでに彼女はこの空間に調和していた。

いっそのこと普段の世界が彼女に相応しくないと思えるほど。この世界こそが彼女のいるべき世界なのだと、そう思った。


「さて…荷物とかは僕が全部運んでおくから、少し島を名取君に案内してあげなよ」


先輩に見惚れていたのも束の間、引き込まれていた世界がぎゅんと縮まっていく。一気に現実に戻ってきた感覚があった。


「え、でも…」

「大丈夫だよ。備え付けの軽トラックを使うからさ…折角の夏休みなんだ。色々と楽しんでおいで」


そう言うや否や、先輩のお兄さんはとっとと詰め込まれた荷物を引っ提げてその軽トラックとやらに詰め込み始める。有無を言わさぬ雰囲気だ。


「あー…」


「…えっと、それじゃあ…お言葉に甘え…ちゃう?」


そんな疑問系で言われても…え、判断を委ねられてる?


「…そう、しますか…!」


仕方なく首肯する。だってもう動かれてるんだから断りようがないよな。だったら好意に甘えるのが礼儀…? …うん、礼儀かもしれない。


「そういうことなら…島の中を軽く案内するね。あんまり広くないからそこまで時間は…ちょっと掛かっちゃうかもしれないけど」

「いっすよ。先輩のお兄さんが言ってた通り夏休みなんですから。幾らでも時間はありますよ」

「…! そうだねっ!」


たったったっ…と、先輩は白いワンピースをたなびかせて走っていく。

そんなふうに活発に動く姿を見たことがないから少し瞠目してしまったが…おそらく夏の暑さのせいというやつだろう。


「名取君っ! こっちこっち!」

「了解っす!」


きっと、この駆け出している足も夏のせいだ。普段の俺ならこんなふうにはしゃぐことはない。


この誘いがなければ俺は今でもじっと家の隅で座り続け、動けない体でもせめて何かが起きた時咄嗟に動ける様に…女々しくも愛菜のことを考え続けていた筈だ。


本当ははしゃいでいる暇なんてないのかもしれない。きっとこうしている間にも妹の身に何かが起きているのかもしれない。そう思ってしまうと思考の隅が段々と表面化していってしまう。


「あははっ!」

「……ははっ!」


…きっと、頭がおかしくなっている。こんなのは俺じゃあない。


だから、これで最後だと脳内に言いつける。こんな無駄なことは一度きりだと、そう告げる。


所詮は優先度の問題。俺は既に何を大切にしたいかを定めきっている。

俺じゃない俺を認めるわけにはいかないから。こんなふうに無邪気に楽しんでしまうのは俺ではないから。だから、これで終わりにする。


長い長い夢から覚める為に…今を楽しもう。楽しさから冷めて、いつも通りに拒絶するのだ。


「…ははっ」


楽しむなんて、そんな資格が俺にあるわけないだろう? こんな歪な俺はさっさと正さないと。


…さて、どうやってやんわりと先輩を拒絶するか。…方法を考えないとな。


いつもの様にニヒルに笑う。

…夏の暑さのせいだろう、少し肌から汗が滲んだ感覚があった。


「…………」


その汗が夏の暑さのせいではなく、違う種類の脂汗だと気付く者は、その少々たった一人だけだった。

閲覧感謝です

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