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最終話 新たなる旅路の始まり

 雨が降るなか二人が歩くと兵士達は次々に敬礼していく。

 階級に対してもあるが、ラインハルトとヴィクトリアは皇族で、しかも救国の英雄だから有名人なのだ。

 司令官が誰かヴィクトリアに訊くと、彼女は「会ってからのお楽しみだ」と言って教えてくれない。

 そして連隊長のテントに入ると、ラインハルトにとっては馴染みの人が居た。


「久しぶりだな、シュヴァルツ候補生。いや、失礼した。今はシュヴァルーヴェ大尉だった。上官には敬意を払わないとな」

「お久しぶりです、モニカさん! 今はモニカ中尉でしたね」


 ラインハルトの目の前には懐かしのモニカ中尉が居る。

 モニカ中尉の後からレベッカ中尉が顔を出した。


「酷いなぁ。私も居るよ、大尉。ずいぶんと早かったですね大尉……大隊長の話だと大尉はその手の体力が並外れてますから、てっきり朝まで続く――痛いっ!?」


 したり顔のレベッカ中尉をモニカ中尉が睨み付け頭を叩く。

 モニカ中尉はレベッカ中尉が言ってる意味を察したらしく気を利かしたのだ。

 ラインハルトがヴィクトリアを見ると、彼女は俯きながら頬を赤らめている。


「……すまない。女同士の湯浴みの付き合いで、つい……」

「いいよ、許してあげる。そういう付き合いは大事だからね」

「感謝する……」


 申し訳なさそうな表情をするヴィクトリアの頭を優しく撫でながら許してあげた。

 頭を撫でなれ嬉しい表情に変わるとモニカ中尉とレベッカ中尉が咳払いする。


「大尉、出来れば二人の時に頼むよ。流石に私も庇い切れないからな」

「そうですよ、大尉。相変わらずお熱い夜を過ごし――っ痛い!?」


 再びレベッカ中尉の頭が叩かれ、彼女はモニカ中尉がやったと思った。

 だがモニカ中尉は苦笑いしながら後を指差す。


「お馬鹿! そういうのは気を利かしなさい、モニカ中尉。もう模範生徒と下級生の関係じゃないのよ」


 懐かしの声にラインハルトの顔が明るくなり、ヴィクトリアが言っていた意味が分かった。


「アレクシア教官!」


 その女性はラベンダーの様な薄い紫の髪をセミロングに整え、琥珀色の淡い瞳をしている。

 ある人は言う『黙っていれば美人。黙っていなければ、尚美人である』や『九死に一生の鬼指揮官。されどそれが絶妙なる甘美なり』と。


「久しぶりね、シュヴァルツ候補生。今はもうシュヴァルーヴェ大尉だったわね」

「はい。アレクシア教官……アレクシア中佐。相変わらずお綺麗ですね」


 ラインハルトが敬礼すると、アレクシア中佐は笑みを溢し返礼した。


「ありがとう、大尉。大尉も随分とお世辞が上手くなったじゃない。南方戦線では、かなりの女性達からの求愛があったと前任の指揮官から聞いてるわよ。流石は救国の英雄、モテる男は辛いわね」

「あはは……お耳が早い事で。僕としてはそんなつもりは無いんですけど――痛いっ!?」


 不意にラインハルトの足に痛みが走る。

 なんとヴィクトリアが足を踏んでいるのだ。


「ほぅ、詳しく聞かして貰いたいな。大尉殿?」


 ヴィクトリアの焔の瞳が若干紅く輝いている様にラインハルトには見えた。


「ごめんなさい! お願いだから許して! 何でも言うこと聞くから!!」

「すまない、よく聞こえないな。その女性達と仲良く浮気していたのではないか? 包み隠さず話すがよい、ラインハルト・フォン・シュヴァルーヴェ」


 足を踏む力が更に増し、さながら鉄騎に踏まれているようだ。


「浮気なんかしてないよ! 僕は君しか興味無いし、ヴィクトリアしか愛してないから!!」

「どうだかな。口では何とでも言えるからな」

「本当だって!」


 二人のやり取りにアレクシア中佐が笑いながら助け船を出してくれた。


「大尉の話は本当よ。前任の指揮官からは求愛する女性達をことごとく振ったらしいから。『僕が愛してるのはヴィクトリア・フォン・アルムルーヴェだけで、他の女性には興味無い』ってね。良かったわね、アルムルーヴェ少佐。わざわざ指揮官人事権を使って、大尉を呼び寄せた甲斐があるじゃない」


 その言葉を聞いてヴィクトリアの顔が真っ赤になる。


「本当なのか、ラインハルト?」

「そうだよ。他の女性に興味無いって、君に初めて愛の証が欲しいって言ったあの日に言っただろ。それから僕は君にずっと夢中なんだから」

「す、すまない! 早とちりをしてしまった……。最近お前からの連絡が遅いから、つい……」


 俯きながら不安そうな表情を浮かべるヴィクトリアの頬にラインハルトは優しく触れる。


「僕も任務があったからね。でも、ごめん。ヴィッキーを不安にさせちゃて。何でも言うこと聞くから許してくれる?」

「許す……後でいっぱい甘えるからな」

「いいよ、好きなだけ甘えていいからね」


 二人だけの甘い言葉と時間にアレクシア中佐が咳払いし、二人は急いで離れた。


「二人とも愛し合うのは構わないけど、ここは戦場だと言うことを忘れないでね。あなた達はもう学生じゃないのだから」


 そう言うとアレクシア中佐はラインハルトにカードの束を手渡した。


「これは?」

「大尉は有名人だから、もう私の部隊に来るって噂が広がってるのよ。それは求愛する女性達の連絡先が書いてあるわ。何故か私が預かる羽目になっていたのよね」

「あはは……すみません」


 ラインハルトが苦笑いしていると、横からヴィクトリアがカードの束を奪った。


「ヴィッキー!?」

「これは私が預かっておく。何か不都合が?」

「お好きにどうぞ。愛しの王女殿下」

「……バカ」


 二人が一段落したと見計らうとアレクシア中佐が再び咳払いした。


「では改めて自己紹介を。我が独立試験重鉄騎大隊へようこそ、シュヴァルーヴェ大尉。連隊長代理のアレクシア中佐よ」

「はっ! 宜しく御願いします!! あの……代理とは?」

「この大隊は重鉄騎の試験即応部隊なのよ。だから仮役職になっちゃうの。本来なら指揮官は私なのだけど、古参の佐官は私だけだし試験評価もしなくちゃいけないから形だけの……言わば大隊部隊には存在しない連隊長扱いになるの。だから大隊指揮はアルムルーヴェ少佐に任せているわ。まぁ、体のいい火消し部隊って所かしら」


 重鉄騎といえば新型豹鉄騎も先行配備していると聞いた。

 最高司令部は新型豹鉄騎の実戦テスト兼即応大隊として、この大隊をこき使う気らしいとアレクシア中佐は考えているみたいだ。

 互いに敬礼し、アレクシア中佐はヴィクトリアに紹介を続けさせた。


「大尉には私が指揮をする中隊の副官をお願いする。第二、第三中隊はレベッカ、モニカ両名が指揮する。第一中隊は私の直掩部隊も兼ねてるからそのつもりで」

「了解しました」


 ヴィクトリアの説明が終わると再びアレクシア中佐が作戦説明を始めた。


「今回の作戦が上手くいけばアルデンヌ戦線における突破口になるわ。そして奪われた報国も奪還出来る。大尉の故郷、四季国もね。だからあなた達には司令部も大いに期待しているわ! 私の可愛い部下なら必ず出来ると信じてる!! では作戦を説明する――」


 それからアレクシア中佐の作戦説明が終わり解散となった。

 ヴィクトリアは先に退出し、暫くしてラインハルトも退出した。

 外は薄暗い灰色の雲が広がり、冷たい雨が尚振り続けている。

 ポンチョを着込み、フードを被って歩き出した瞬間、重低音を響かせながら一台の重鉄騎が彼の前で止まった。

 重鉄騎のハッチが開くと、そこからヴィクトリアが体を乗り出してラインハルトを見下ろして言う。


「ラインハルト、良かったら乗ってくか?」

「もちろん!」


 ラインハルトが重鉄騎の砲身を叩きながらヴィクトリアを見た。


「いい()だね、ヴィッキー」

「そうだろ。この重鉄騎から一人乗りになったし、存分に働いてもらうつもりだ。もちろんラインハルトもな」

「了解です、愛しの大隊長殿!」


 冗談めいて敬礼するラインハルトにヴィクトリアはいつもの言葉を投げつける。


「黙れバカ」


 二人の乗る重鉄騎の行く先の地平線の向こうではいくつもの閃光と爆発音が響き渡り、ラインハルトとヴィクトリアは再開を果たしたが、目の前に広がる戦場に気を引き締める。


 まだこれは、ラインハルトとヴィクトリアの短くも長い物語の始まりに過ぎない。

 彼女が深紅の玉座に座るか、名も無き戦場で倒れてしまうかは誰にも分からないし、後世の人達のみが知っている。


 そして一つの旅路が終わり、ラインハルトとヴィクトリアの新たる旅路が始まったのだ。

ご愛読ありがとうございました。

本編はこの回にて最終話になります。


後日番外編を投稿致しますので、番外編もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  お疲れ様でした!  最後まで、甘くいってもらい、ありがとうございました。腹いっぱいです。  前期老人にとっては、良い刺激をありがとうございました。 [気になる点]  うーん、パンサーか?…
2021/04/03 14:42 豊後じじぃ
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