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勝負、そして御前会議

 ヴィクトリアの勝負に付き合わされ、あれから何十発撃ったことだろうか。

 肩は痛くなるし、指の感覚が無くなる。おまけに足元にはライフルの空薬莢の山が出来あがっていた。

 他の下級生達はヨハン教官から、文字通り手取り足取り教わって瞳を輝かせているが、ラインハルトの隣にいる黄金の獅子は未だ勝負の結果に納得してないらしい。


「おかしい……絶体におかしい。なぜあれだけ撃ったのに勝てないんだ」


 ヴィクトリアは自分のライフルを見ながら自問自答していたが、ラインハルトは諦める様に促した。


「えっと……もうやめない?」

「いやだ」

「いやって……。参ったな」


 子供の様に諦めが悪い。しかも、まだ続けるらしく新たな弾を装填していた。


「夕食のデザートは君が食べていいからさ。もう止めようよ」

「仮に終わったとしても、褒美は、お前のものだ。我らアルムルーヴェは約束は絶対に守るからな。諦めろ」

「出来れば勝負を諦めて欲しいんだよね……」


 無理な相談らしく、ヴィクトリアは射撃を再開し始めた。

 だが相変わらず至近は三発以上いかない。むしろ回を重ねる毎に至近どころか、弾が的に当たらなくなってきた。

 新たな弾を装填していたヴィクトリアにラインハルトは助言の言葉を掛ける。


「ヴィッキー。無駄な力を入れ過ぎなんだよ。もっと肩の力を抜いて撃つんだ」

「言われなくても分かっている!」

「分かっていたら、今頃は僕の成績なんてとっくに抜いてるよ。ほら……」


 ライフルを構えるヴィクトリアの肩を掴んだ。

 肩を掴んだ瞬間、何故かヴィクトリアの体がビクッとしたが、ラインハルトは気にすることなく続けた。


「肩に無駄な力が入るから、撃つ瞬間にブレるんだよ。深呼吸をして体を落ち着かせて、周りの空気と一体になる様にするんだ」

「わ、わかった……」


 やけに素直なアルムルーヴェで、思わずモニカが口を開いた瞬間、背後のレベッカに羽交締めにされ口を塞がれた。


「アイアンサイトと的を合わせる。狙いが定まったら、後は息を吐いた瞬間に撃つ」

「う、うむ」


 ヴィクトリアは静かに息を吐いた。

 周りの空気と一体になったと思った瞬間、引き金を引く。

 乾いた銃声が鳴り響くと、教えられた通り立て続けに、ゆっくりと引き金を引く。

 全て撃ち終わり薬室を開放して残弾無しを確認すると、アレクシア教官が双眼鏡を覗き込み結果を発表した。


「全弾極めて至近!」


 アレクシア教官の言葉を聞いて、ヴィクトリアはライフルを抱き締めながら、笑顔でラインハルトを見た。


「やった~! 見たか、ラインハルト。私が実力を出せばこんなものだ」

「うんうん、凄いよヴィッキー。じゃ勝負は君の勝ちだね」


 子供の様に喜ぶヴィクトリアを尻目にラインハルトは勝負を諦める様に促した。


「ま、どうしてもって言うなら仕方無いな。我らアルムルーヴェは寛大だからな」

「君の一族が寛大で助かったよ。アルムルーヴェの先祖に感謝しなくちゃね」

「うむ、存分に感謝しろ」


 いつものアルムルーヴェ一族の上から目線口調に戻ったヴィクトリア。

 どうやら機嫌を直してくれたみたいでラインハルトは一安心した矢先、アレクシア教官が四人に対して言ってきた。


「どうやら賭けの勝負はついたみたいで私も安心したわ。で、あなた達に聞きたい事があるんだけど、良かった教えてくれる?」


 アレクシア教官が笑顔で四人の前に立ち竦む姿を見て、一匹の獅子を除き三人は額から汗が吹き出た。


「ライフルの弾はいくらで買えるのかしら?」

「わかりません」


 ヴィクトリアの言葉に笑顔でいたアレクシア教官の眉間が山脈の様に険しくなる。


「いい度胸ね、アルムルーヴェ候補生。私、勇敢な子は好きよ。では質問を変えます、ライフルの弾を買うお金は、誰から頂いているのかしら?」

「帝国軍からです」

「ん?」


 笑顔でヴィクトリアの顔に凄み、流石のアルムルーヴェも獅子から猫になっていく。


「こ、皇帝から……ですか?」


 ヴィクトリアが皇帝と口に出すと、アレクシア教官が一歩引いて安心した。

 直後に四人に雷鳴が鳴り響く。


「全て勤勉な報国から頂いた税金なの! 大型艦の主砲弾からライフルの銃弾一発に至るまで税金で買ったの! あなた達はあろうことか報国の税金で賭けをしていたの! この大馬鹿が!!」


 アレクシア教官の怒鳴り声で四人が、人間からたちまち草食系動物三匹と猫一匹になる。


「互いに切磋琢磨することは良いことで奨励すべき行いです。でも報国の税金を無駄にすることは帝国軍人として見過ごせないわ。モニカ、レベッカ!前に出なさい!!」


 無言でモニカとレベッカが前に出る。


「二人の指導不足が招いた結果です。罰として訓練場の排莢掃除を命じます!アルムルーヴェ候補生とシュヴァルツ候補生は二人の掃除を()()見ていなさい。分かったわね?」


 四人は了解との意味を込めて無言で敬礼する。


「よろしい。ちゃんと夕食の点呼には来なさいよ。一日に何度も怒りたくないから」


 アレクシア教官は苦笑いで返礼し、立ち去った。

 アレクシア教官が立ち去ると同時に四人は深く深呼吸して生きてることに感謝し、罰が優しいことにも感謝した。

 そして雷鳴が鳴り響く前は皆して撃ちまくっていたのに、それ以降は一罰百戒の効果が出たみたいで誰一人として無駄撃ちは無くなり、むしろ命中率が上昇したとかしないとか。



 帝都ユグドラシルに帝国軍の最高司令部が置かれている。

 王宮に程近くにある最高司令部。その正門前で警備をする兵士が敬礼すると、次々に車が入場してきた。

 司令部入口に車が停まると帝国軍の制服を着た者達が次々ど下車する。

 入口近くに待ち構えていたオズワルド大佐が一人の帝国軍人に敬礼した。

 明らかに他の帝国軍人と違い、両翼には帝国国旗と同じ、深紅の(マント)をつけている。


「お待ちしておりました。ヴィルヘルム上級大将閣下。既に他の上級大将並びに大将、参謀総長もお待ちです。軍務長官は所用で欠席と」


 オズワルド大佐が敬礼しながら報告すると、ヴィルヘルムは不満そうな顔をした。


「ちっ出遅れたか。まあいい、陛下は?」

「はっ。もう間もなく司令部に来るかと。既に王宮からは出発したと連絡が」

「ならばいい。陛下は時間に厳しい御方だからな」


 ヴィルヘルムは微かに笑いながら司令部の中に入る。

 司令部の中に入ると目の前には大広間が広がり、正面奥には巨大な時計がある。その両脇には二階に通じる階段があり、大広間の天井には帝国国旗と四大皇族の紋章が描かれた旗も吊るされていた。

 ヴィルヘルムは帝国国旗と獅子の紋章が描かれた旗に敬礼する。

 最高司令部に入る際は帝国国旗と、その時代の皇族の紋章に敬礼するのが古くからの風習なのだ。


「いつまで司令部連中はこんな風習に囚われているんだ。まったくもってまどろっこしい。陛下は『旗なんかにいちいち敬礼なんかしなくていい、あれは旗であって私では無いのだから』と言っているのだぞ」

「そうは言っても帝国軍の伝統なのですから」

「伝統か。聞こえは良いが偶像崇拝にも程がある。わざわざ陛下が嫌うことやるなんて、司令部連中は余程命知らずらしいな。フハハ」


 ヴィルヘルムは高笑いしながら早歩きで二階に上がった。

 如何にヴィルヘルムが豪胆な人間でも、現皇帝ヒルデガルドは恐いのだ。

 なにしろアルムルーヴェと言えば、一度怒りだすと手がつけられないと噂が流れるくらいだから。

 二階に上がり一際大きな扉を開ける。

 中に入ると、白いクロスを掛けられた長テーブルの両隣を向き合う様に皆が座っていた。

 ヴィルヘルムと同じ深紅のマントを両翼に着けた者、片翼にのみ深紅のマントを着けた者達が一斉にヴィルヘルムを見る。


「遅いですよ、ヴィルヘルム上級大将。艦隊司令長官なら時間に正確でないと困ります」


 両翼に翼を着けた女性が席を立ち上りヴィルヘルムを睨みつける。


「アデリナ大将か……。偉大な獅子に付き纏う猫が偉そうに上級大将の俺に説教するな!」

「な!? 私は――」

「二人共、お黙り!」


 アデリナ大将が口を開いた瞬間、割って入る声。

 声の主はテーブルの一番奥からだ。一番奥には皇帝が座る椅子があり、その横は帝国軍参謀総長の椅子になる。


「エミリア元帥! 私は軍規を乱した事を――」

「アデリナ大将、私は黙れと言いました。貴女は帝国軍参謀総長である、この私の命令を無視するのですか? それこそ重大な軍規違反です」

「申し訳ありません……。元帥の仰る通りです」


 アデリナ大将が深々とエミリア元帥に頭を下げて着席した。


「それとヴィルヘルム上級大将。アデリナ大将の言った事も一理あります。今後は時間に正確だと、みなが助かります。アデリナ大将は中将から昇進したばかりで、しかも情報部から異動したばかりだから大目に見てあげなさい」

「了解であります! 俺はこう見えて猫の飼育には慣れておりますので、お任せを」


 ヴィルヘルム上級大将の言葉が癇に障ったのだろうか、アデリナ大将が何か言おうと立ち上がろうした瞬間、エミリア元帥が再び睨みつけ着席した。

 そしてエミリア元帥が咳払いし、暗にヴィルヘルム上級大将に着席しろと促す。

 流石に帝国軍参謀総長の元帥閣下、まして陛下の腹心に睨まれては、どんな僻地に飛ばされるかと思い急いで着席した。

 そして時間をおくことなく、帝国軍最高司令官兼皇帝陛下たるヒルデガルド・フォン・アルムルーヴェが入室する。


「皆のもの、待たせて悪いな」


 皇帝ヒルデガルドが入室した瞬間、一同起立し敬礼する。


「いえ、陛下。時間丁度でございます。我々も今着いたところですから」


 エミリア元帥の言葉にヴィルヘルム上級大将の内心は穏やかではなかったが、ここは心を押し殺した。

 皇帝ヒルデガルドが着席したのを見計らい一同が着席し、エミリア元帥が会議の議題を聞いてきた。


「陛下、今回の御前会議の議題を伺っても?」


 すると皇帝ヒルデガルドは椅子から立ち上る。他の者も立ち上ろうしたが制止し、着席したままでよいと答えた。


「参謀総長や艦隊司令長官、並びに各方面の要塞司令官、それに準ずる参謀達には忙しい中、急ぎ集まってもらったこと厚く感謝する」


 皇帝ヒルデガルドが謝意を伝えると一同が頭を下げた。

 他の皇族からの皇帝の場合はこうはならないし、ならなかった。敵国の言葉を借りるなら大抵は尊大な皇帝が多い。

 他の皇族や貴族と違いアルムルーヴェという家系は律儀で義理堅い一族で、戦場では常に先陣を切っていた。

 だから帝国軍人はアルムルーヴェに忠誠を誓い、かの一族と共に戦う事を誇りにしている。


「陛下、その御言葉が聞けただけでも我ら臣下は集まった甲斐がございます」

「フフ、相変わらず世辞が上手いなエミリア。愛娘は士官学校の上級生だったな。そなたの若い頃によく似ていた」

「我が愚女の事まで気にかけて頂き恐縮です陛下。因みに陛下、私はまだ皇太女殿下と同い年ですから()()()()です」

「そうだったな。許すがよい」


 エミリア元帥が軽く頭を下げて、会話を一段落させると皇帝ヒルデガルドは議題を口にする。


「今回の御前会議の議題は、情報部からもたらされたある情報を元に議題をする。連邦軍に開戦の兆候が認められるとの事だ」


 連邦軍が戦争を仕掛けてくる。この言葉に会議に出た将官達は驚愕した。


「それは本当ですか、陛下?」


 エミリア元帥の言葉に、皇帝ヒルデガルドは首を振る。


「まだ分からぬ。だが可能性は大いにあると私は考えている。なにせ代理戦争と言われた、四季国との戦いから十年は経つ。連邦が軍備を整える時間的余裕は充分にあった。情報部からは歩兵に砲兵の増強が確認されていると報告が上がっているしな」


 皇帝ヒルデガルドの言葉に他の将官達は沈黙していたが、ヴィルヘルム上級大将が立ち上がった。


「陛下、あまり情報部の連中を信じない方がよろしいかと小官は思います。情報部の奴らからの情報など当てには出来ません! 十年前、情報部連中は四季国は帝国に傾くと奴らは読んでいましたが、結果は連邦に傾きました。故に奴らは帝国の番犬にもなりえませんぞ!」


 ヴィルヘルム上級大将の言葉に我慢ならず、アデリナ大将が立ち上がる。


「ヴィルヘルム上級大将、流石に御言葉が過ぎると思います! 情報に信頼性が高いからこそ、陛下は議題に掛けたのではないのではないですか!?」

「そうだった忘れていたよ。お前は情報部出身だったな、アデリナ。ならば敢えて言おう! 貴様ら情報部は帝国の番犬すらならない! ただ飯食らいの愛玩動物以下だ!!」

「なっ……!? 陛下御許しを! 小官にも我慢の限界があります!」


 アデリナ大将が立ち上がり、今にもヴィルヘルム上級大将と一触即発状態になる。

 すると再び声が発せられ、一触即発の二人を止めた。


「二人共、お黙り!!」


 エミリア元帥の言葉に二人の手が止まる。

 溜息をつきながら、エミリア元帥は続けた。


「ヴィルヘルム上級大将、並びにアデリナ大将。今は皇帝陛下の御前であるということを忘れないで頂きたい。今みたいに陛下の臣下たる我々の無様な姿を見たら、陛下は嘆き悲しむでしょう。なんと情けない臣下を持ったことかと。陛下に恥をかかせる、それは臣下にとって最大の恥と肝に命じなさい!」


 エミリア元帥の言葉に二人は矛を収め、皇帝の前に謝意を込めて片膝を屈した。


「申し訳ありません、皇帝陛下。このヴィルヘルム、如何なる処分も甘んじてお受け致します」

「アデリナも横に同じくです、陛下」


 二人の言葉に皇帝ヒルデガルドは優しく微笑み、ヴィルヘルム上級大将の肩を優しく叩いた。


「よい、二人とも気にするな。ヴィルヘルム、貴公の助言は嬉しく思うぞ。これからも帝国の為に、そなたの勇猛果敢に期待する」

「はっ! 勿体なき御言葉」


 すると今度は、アデリナ大将の髪を優しく撫でる。


「アデリナも最近になって情報部から異動したと聞いたぞ。最高司令部と情報部では何かと勝手が違うから、最初は戸惑うと思うが職務に励んで欲しい。それとヴィルヘルムという男は、ああいう男なのだ。悪気は無いから許してやっておやり」

「勿論でございます、陛下。不肖、アデリナ。陛下の恩為ならば如何なる侮辱すら堪えてみせます」


 皇帝ヒルデガルドを見上げるアデリナ大将。その瞳は星の様に輝き、僅かながらではあるが頬を紅潮させていた。


「そうか。だが余り私を崇拝するな。忠誠は有り難いが、余り度が過ぎる忠誠は帝国を……果てはそなた自身も滅ぼすからな。()の皇帝の為に取っておきなさい」

「滅多な事を言わないで下さい、陛下。帝国軍には……いえ、これからも帝国には陛下は必要な御方です」

「まだ私の様な老体が必要か?近代の帝国に稀に見る、そなた達の様な優秀な武人が揃っているから、私はてっきり現役引退かと思っていたぞ?」


 珍しく皇帝ヒルデガルドの冗談に堅苦しい空気が漂っていた会議の空気が一転して和やかになる。

 和やかな雰囲気の中、ヴィルヘルム上級大将とアデリナ大将が着席するのを見計らい、エミリア元帥が本題に入った。


「では会議を再開致します。情報部からの情報が正確なら、我軍と連邦軍が最初に戦う主戦場は恐らく、東部の四季国と考えられます。あそこは東部アルデンヌ要塞に通じる一番大きい道を有しているからです。敵軍の指揮官が通常思考なら間違いないかと」


 エミリア元帥の推測に異議を唱える者は一人も居なかったが、各方面の要塞司令官からは連邦軍が戦争を仕掛けてくるのか懐疑的だった。

 いくら軍備を整えたからと言っても、所詮は歩兵を用いた旧時代の戦法だからだ。

 帝国軍には陸上兵器として最強の鉄の馬、通称鉄騎(戦車)が十年前から実装されている。

 おまけに東部から南部、南部から西部の山脈を切り開いた天然要塞がある。

 東部はアルデンヌ要塞、西部はライン要塞に南部はニュルンベルク要塞があり、各要塞を鉄道の線路で繋げ、八十センチ列車砲のグスタフドーラが睨みを利かせていた。

 そんな帝国に挑むなど自殺行為に等しく、およそ理性の欠片があるとは思えないと。

 そんな中、エミリア元帥が笑いながら口を開いた。


「陛下も、お人が悪いですね。彼等は馬鹿ですが、我々が想定しているよりは馬鹿じゃないと言う事なのでしょう。敵に何か策があるから陛下は我々を集めたのではないのですか?」


 エミリア元帥の言葉に皇帝ヒルデガルドは僅かながら口角を上げた。


「人の悪さでは、そなたには負けるがな。情報部からの追加情報では、敵は新兵器を開発しているらしい。奇しくも我らと似たような兵器だ」


 オズワルド大佐が将官達に、()()()()を手渡して行った。

 その、ある写真は皇帝ヒルデガルドの執務室でオズワルド大佐が落としていった写真だ。

 その写真を見るなり、ヴィルヘルム上級大将が高笑いし始めた。


「なんだこの不細工極まりない駄馬は? こんなのが新兵器なのか? しかも水を運搬する水搬車と書かれているぞ。こんな駄馬を新兵器と陛下のお耳に吹き込むとは、やはり情報部は番犬にすらならない、ただの愛玩動物以下だな」


 ヴィルヘルム上級大将の言葉にアデリナ大将が異議を唱える。


「確かに写真では砲身すらありませんが、試作段階なら当然の事。実戦配備段階になれば――」


 アデリナ大将の言葉が余程可笑しかったのか、またもヴィルヘルム上級大将は笑いながら指摘した。


「やはりお前は情報部出身だな、アデリナ。その試作段階の駄馬を、あたかも新兵器として陛下に吹き込む事自体が愚かだと俺は言っているんだ。ちゃんと兵器としての裏は取ったのか? 我々の工作員が敵に寝がえって、我らを踊らせる為にこうして欺瞞情報を流してきた可能性も否定出来ないぞ」

「そ、それはそうですが……」


 ヴィルヘルム上級大将の追及にアデリナ大将は思わず情報部の参謀達を見るが、彼等は首を横に振るだけだった。


「やはりな。裏取りすらしていない情報で、陛下と我らの貴重な時間を無駄にするとわ、相変わらず情報部は使えん」


 そう言うとヴィルヘルム上級大将は腕を組みながら瞳を閉じた。

 気不味い空気が漂ようなか、皇帝ヒルデガルドがヴィルヘルム上級大将に声をかけた。


「ヴィルヘルム、あまりアデリナを苛めるな。私はそなたの勇猛果敢さも大事と思っているが、同時にアデリナの冷静な分析能力と慎重さも大事なのだ。でなければ帝国軍大将の地位をアデリナには与えん。この気持ち分かってくれぬか?」

「勿論分かります、陛下。しかし新兵器かも確証が得られていない物の為に時間を割くのは、私の性分が許しません。こうやって高級将官達が、がん首揃えている今この瞬間にも敵軍が襲ってきた場合は対応しきれません。どうか陛下、その点も御配慮頂きたい」

「フフ、分かっているさ。そなたらの一族は昔から我慢が利かないからな」


 ヒルデガルドが昔を懐かしむ様にヴィルヘルムに言うと、隣に座るエミリアが提案した。


「ではこうしましょう、陛下。敵軍の技術力を我軍と同等と想定し、この駄馬……失礼しました。試作鉄騎を我軍と同じ能力と仮定して、迎撃作戦を立案する方法は?」


 エミリアの提案にヒルデガルドは無言で頷き、ヴィルヘルム並びにアデリナも異議無しと小さな声を出した。

 その後はエミリアの指揮の元に迎撃作戦を煮詰めたが、やはりヒルデガルドが危惧していた事は将官達の口からは出なかった。

 ヒルデガルド自身も戦友達の会話が弾み議題にする事がなく、これが後に帝国に激震を走らせる一撃になるとはヒルデガルド含め、高級将官達は知るよしもなかった。

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