番外編最終話 これからもよろしく!!
無事ライデン夫婦をグレーテに送り届けた後、ヴィクトリアとラインハルトは借りたバイクを返す為にバーデン軍港に居た。
もちろん帰りの道中はサイレンを鳴らさず安全運転で渋滞に嵌まりながらだ。
そして何故だか知らないがバーデン軍港にはライト達がまだ残っていたのだ。
渋滞に嵌まりながら帰ってきた為か、二人の顔には疲労が窺えるがライトは意に介さない。
「よう! 待ってたぜ、お二人さんよ。ちょっとこれから遊覧飛行と洒落込まないか?」
「遊覧飛行だと?」
バイクの鍵を憲兵に返しながらヴィクトリアが聞く。
するとライトは親指を立てながら笑いかける。
「おうよ。今から帝国を遊覧飛行して初日の出を拝ませてやる」
上機嫌に喋るライトにミヤビが頭を叩く。
「な~にが拝ませてやるよ、バカライト! 初日の出は次いでで、フィリーネ元帥から任された任務があるでしょうが!!」
ミヤビが停泊している白鳥を指しながら怒る。
白鳥の前には荷札のタグが付いた袋が山積みにされており、兵士達が手伝いながら積み込んでいる。
それを見たヴィクトリアがライトを問い質す。
「それで、ライト。母上から任された任務とやらを聞かせて貰おうか?」
フィリーネから任された任務を聞いて、ヴィクトリアとラインハルトは驚かされた。
なんとフィリーネは前線を支えている兵士達に会えない家族や恋人、それに友人から預かった贈り物や手紙を前線毎に袋詰めしては、それをパラシュートならぬ落下傘に括り付けては空中投下すると。
なんでもこの落下傘と言う奴はライトの弟が発明した物で、空中に投げ込むと傘を開いたみたいに布が広がりゆっくりと落下していくらしい。
その次いでに空から初日の出を見ろという任務がフィリーネの言う贈り物だと二人は理解した。
「だそうだ、ラインハルト。どうする?」
「もちろんやるよ。でも高所恐怖症の僕としては中々にスリルがあるね」
「バカ」
グレーテに説明した理由にラインハルトは根に持ってるらしく引き出されてしまう。
もちろんラインハルトは冗談で言っているし、ヴィクトリアも笑いながら受け流した。
「じゃあ、お二人さん。善は急げって事で出発するぜ!」
ライトの言葉に二人は頷き、羽を休める白鳥が再び大空に羽ばたく。
バーデンの軍港から旅立ち、ライト達一行は西のライン戦線から反時計回りに回ることに。
そうすれば最後は東の戦線、アルデンヌ戦線になる。
白鳥がアルデンヌ戦線を目指す中、厚い雲の中を飛んでいると不意にラインハルトがくしゃみを連発してしまう。
それを見たヴィクトリアが鞄の中からある物を取り出してラインハルトに差し出す。
それは暖かい毛糸で出来たマフラーに手袋。
「ヴィッキー、これは?」
ラインハルトが聞くとヴィクトリアは恥ずかしそうに答える。
「か、感謝祭の贈り物だ! お前は寒がりだから仕方無くだ! い、いいから早く受け取れ、バカ!!」
そのマフラーはお店で売っている様な既製品ではなく、明らかに初心者が作った手作り感満載のマフラーと手袋だ。
「一応聞くけど、これって手作り?」
「あ、当たり前だ! 既製品を渡すなんて、そんな味気無いことを私がするか!」
ラインハルトの言葉にヴィクトリアは顔を赤らめながら強引にマフラーをラインハルトの首に巻く。
首に巻かれてヴィクトリアの愛情ならぬ、ラインハルトを想う暖かみが伝わってくる。
「ありがとう、ヴィッキー。凄く暖かいよ」
「そ、そうか。存分に感謝するんだぞ」
「存分に感謝します、愛しのヴィクトリア王女殿下」
ラインハルトが態とらしく畏まってお辞儀をするとヴィクトリアは「ナール」と呟く。
白鳥がライン戦線に差し掛かると夜だと言うのに照明弾が頻りに打ち上げられて、まるで昼間の様に明るい。
そのライン戦線は塹壕戦により膠着状態になり、塹壕から顔を出したらたちまち狙撃される。
帝国軍は一気に鉄騎における蹂躙戦を展開したいが、敵の対鉄騎地雷や塹壕の中に隠れている敵鉄騎の攻撃に晒される為に動けずにいる。
もちろんこれは敵にとっても同じ状況の為に膠着状態になっているのだ。
そんな中、帝国軍の塹壕から赤い煙幕が上がる。
どうやら投下場所みたいで操縦席からライトがヴィクトリアとラインハルトに叫ぶ。
「お前ら扉を開けろ! 扉横にある赤いランプが緑になった荷物を投下しろ!」
白鳥が速度を落としていくと二人が頷き扉を開ける。
眼下には互いの塹壕に向けて火線が飛び交うのが見えた。後方から放たれる野砲の砲弾が塹壕付近に着弾して土柱を上げる。
そして遂に赤いランプが緑に変わる。
「いくよ、ヴィッキー!」
「ああっ!!」
二人が力を合わせて幾つ物を贈り物が入った袋を投下していく。
すると投下した直後、見事に落下傘開いてゆっくりと落下した。
ライン戦線における荷物を投下し終えると地上からは感謝の印なのか、塹壕の中から兵士達が手を振っている。
ヴィクトリアとラインハルトも扉越しに手を振った。
「よし、二人とも上出来だ! 次に行くぜ!」
扉を閉めるなり白鳥が再び速度を上げて上昇しながら闇夜に消えていく。
あれからニュルンベルク戦線にアルデンヌ戦線に荷物を投下し終えては、白鳥は東の空を遊覧飛行して日の出を待っていた。
南方のニュルンベルク戦線は乾燥地帯が多く、こちらは塹壕戦と言うより広大な戦場を使った鉄騎戦がメインだった。
もっとも戦線なんてものは無く、もっぱら遭遇戦だ。
だから補給も途切れ途切れになる為に、敵の補給所を強襲して物資を奪う。
そして奪っては戦い、また奪うの繰り返しだ。
アルデンヌ戦線は森林地帯での戦いをしていた。
雪の降る森林を互いの鉄騎が駆け巡り、街を取ったり取られたりの応酬。
この森林地帯を確保し、先にある草原地帯を確保出来れば、次はラインハルトの故郷である四季国奪還になる。
もっとも四季国奪還はまだまだ先で、目の前の陣地を着実に奪還するのが帝国軍の基本戦略。
そして白鳥に備わっている小さな窓からヴィクトリアとラインハルトは東の空を見つめていた。
東の空は微かに明るくなってきており夜明けが近い。
そんな中、ヴィクトリアがラインハルトみたくくしゃみをする。
「ヴィッキー、大丈夫?」
「いや……流石に寒いな」
鼻をすするヴィクトリア。そんな彼女を見てラインハルトは笑いながら自分に巻かれてるマフラーをヴィクトリアの首にも巻く。
片方の手袋をヴィクトリアの左手に嵌めると、手袋を嵌めていない右手同士を握り合う。
「これなら暖かいでしょ?」
「お前にしては珍しく冴えてるな」
いつもの上から目線のヴィクトリアにラインハルトは笑いかける。
「珍しくか……確かに僕にしては冴えてるかもね。一生分を使ったかも」
「バカ……良い雰囲気が台無しだ」
「それは失礼。じゃあ台無し次いでに良いものがあるよ」
そういうとラインハルトはポケットから良いものを取り出して、それをヴィクトリアの薬指に嵌めた。
それは銀色の指輪だ。
「中央市場で物取りを確保した時に店主から貰ったんだ。僕からの細やかな贈り物で、もっと偉くなったら凄いのを贈るよ」
ラインハルトの言葉を尻目にヴィクトリアは嬉しそうに指輪を見つめる。
「いや、私には十分過ぎるし凄く嬉しい……」
不意にヴィクトリアがラインハルトを強く抱き締め、またラインハルトも強く抱き締め返し口づけを交わす。
そんな二人に眩しい希望の光が暖かく迎え入れた。
その光が見えるや否や、二人はお互いの顔を見る。
朝日の所為で頬が赤く染まった様に見え、それを見た二人は笑顔で新年の挨拶をする
「ラインハルト、新年明けましておめでとう! これからもよろしく!!」
指輪を嵌めた手を優しく握りながら初日の出を見るヴィクトリアとラインハルト。
愛すべき二人を乗せた白鳥が眩い朝日に向かって羽ばたいて行く。
この最終話にて完結になります。
物語は完結になりますが、二人の旅路はまだまだ続いていきます。
ご愛読ありがとうございました!!