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番外編 バーデン=バーデン

あれからルーナが迎えに来るとラインハルトが出て来たのだが、何故だかシャツのボタンを締めながら急いで出て来た。


「あの……大丈夫ですか? シュヴァルーヴェ様」

「え? だ、大丈夫です! ちょっと()とじゃれあっていたんで」

「猫ですか?」


ルーナがラインハルトの後ろ覗くと猫らしきものは見当たらず、ベットの上で急いで服を着ているヴィクトリアの姿だけ。

そしてルーナの視線を遮る様にラインハルトが立ち塞がる。


「あはは、もう猫は行っちゃいましたよ! よくある駅猫?ってやつですかね。あは……あはは」

「あ~バーデン駅は猫がいっぱい居ますからね。どんな猫だったんですか?」

「え? あ~綺麗な黄金の毛色かな……甘えん坊の猫なんですけど、そこが可愛い――痛いっ!?」


不意にラインハルトの背中に激痛が走る。

後ろを振り向くとヴィクトリアが笑いながらつねっているが、焔の瞳が明らかに笑っていないのをラインハルトは知っていた。


「出迎えご苦労、ルーナ。荷物を頼めるか?」

「はい、アルムルーヴェ様。それとお帰りの際の列車も手配出来ましたので。同じスイートをちゃんと!」


ルーナが自慢気に敬礼すると、ヴィクトリアはしたり顔でラインハルトを見て言う。


「感謝する。()()()()()()()()が気にいったみたいでな。帰りも同じ部屋で愛し合いたいとせがまれていて、今も愛し合っていたんだ。そうだろ? ()()()()()()()()


顔を赤らめながらルーナはラインハルトを見て、苦笑いしながら無言で頷いた。


「お、御二人とも御互いが凄く好きなんですね! 羨ましいです!」


まさかの返しに二人は恥ずかしくなって顔が真っ赤になる。


「私もシュヴァルーヴェ様みたいな男性に出会いたいですが、見ての通り不規則な仕事なんで未だに独り身なんですよね。あはは……」


段々と暗くなるルーナの言葉に思わずラインハルトとヴィクトリアは励ましの言葉をかける。


「ルーナさん美人だから大丈夫ですよ! そうだよね? ヴィッキー」

「ああ! ラインハルトはやらんが、同じ様な殿方はいっぱいいる筈だ。だから元気を出せ」


さりげなく『ラインハルトはやらん』と言う所が如何にもアルムルーヴェらしいと言える。

だが、今のルーナにはその励ましすら嬉しく思ってしまう


「そうですよね……素敵な男性に出会いたいので私頑張ります!」


決意の言葉に呼応する様にルーナの瞳に炎が燃え上がった。

それから行きと同じ様にルーナがヴィクトリアの荷物を持ちながら歩いていると、不意にルーナが訊いてきた。


「あの、アルムルーヴェ様。今夜の宿はもうお決まりなんですか?」

「ああ。湯の華畑近くにある宿で名前は『アクア』っていう宿だ」

「そうなんですか~アクアは良い温泉宿ですよ。オーナーが四季国に感銘を受けて四季国風の建物が売りなんです。もちろん温泉も目玉ですよ」


ルーナの口から四季国と聞いて、今度はラインハルトが食い付いた。


「四季国風って?」

「知らなかったのですか? オーナーが四季国に感銘を受けて、宿を四季国の建物をイメージして建て直したんですよ。帝国では珍しい建築だから人気があって、なかなか予約が取りづらいんですけどね。シュヴァルーヴェ様は四季国出身ですから、てっきり私は故郷が懐かしくなったのかと」

「いえ……今知りました」


ラインハルトがヴィクトリアを見ると、彼女は頬を赤らめながら言った。


「その……お前に故郷を感じてもらえたら嬉しいかなって思ったんだ。当分、故郷には帰れないし……せめて雰囲気だけでもと……」


ラインハルトの故郷、四季国は連合軍の手中にあり、当分は里帰りが出来ないのだ。

だからヴィクトリアは少しでも故郷を感じてもらおうと『アクア』を選び、バーデン=バーデンの領主は四季国好きで有名だから選んだのだ。

ラインハルトの為に甲斐甲斐しく頑張ったヴィクトリアに彼は嬉しくなる。


「凄く嬉しいよ、ヴィッキー。ありがとう」

「うん……喜んでくれて良かった。アクアの部屋も一番良い部屋を取ったから」

「なんだかヴィッキーにやってもらってばかりで悪いね。宿代くらいは僕が払うから」


ラインハルトも男として宿代くらいはヴィクトリアの分も払いたい。

何から何までやってもらったら立場が無いからだ。


「わかった。でもアクアの宿代は高いぞ」


ヴィクトリアがラインハルトの耳元で囁くと、ラインハルトの顔に汗が浮かぶ。


「結構するのね……」

「大丈夫か? なんだったら私も半分出すが……」

「大丈夫大丈夫。僕、給料は殆んど貯めてたからね。あはは……」


苦笑いするラインハルト。

実際の所、ラインハルトの給料はその殆んどが貯金に回されていたからアクアの宿代くらいは大丈夫なのだが、一般家庭で育った為に旅行の後は倹約しないといけない気がしてくるのだ。

そんなラインハルトにルーナが手を挙げて二人を驚愕させる。


「なんでしたらアクアは実家なんで父に計らう様に言っときましょうか?」

「ん?」


ルーナの口から実家と聞き、二人は固まってしまう。


「ルーナ、今なんと?」

「ですから、アクアは実家なんで計らう様にと……」


その言葉に今度はラインハルトが訊いて来る。


「因みに計らうとは?」

「御二人は皇族なんで父に言えば安くするどころか、お代は要らないと言ってくれますよ。父の事だからアクアに皇族が泊まっただけで宣伝になる!って喜んで飛び上がります。どうなさいます?」


ラインハルトは思った。アクアの宿代は結構な金額になるから、宿代が浮けば助かる事は助かる。

だが答えはもう決まっていた。


「大丈夫ですよ、ルーナさん。宿代はちゃんと払います。そんな事したら僕の先祖とヴィッキーの先祖に笑われますから『宿代も払えないとは情けない子孫だな』ってね。だよね? ヴィッキー」

「ああ。私と彼の一族は誇り高き獅子だ。そんな事をされたら先祖から笑われてしまう。私と彼は笑われてもいいが、これからの子孫に申し訳ないからな」

「それに宿代すら払えない皇族って言われるのは、愉快な話じゃ無いからね」


ルーナのいうとおり、皇族が泊まればそれだけで宣伝になる。

ラインハルトとヴィクトリアは宣伝するのは構わなかったが、宿代すら払えなかった皇族という極めて不名誉な称号は要らなかった。

自分達が笑われるのは一向に構わなかったが、いずれ産まれるであろう二人の愛の証、つまりは二人の間に産まれる子供が笑われるのは忍びないのだ。

その言葉にルーナは静かに頷いた。


「わかりました。父には普通のお客様と同じ様に接するよう、よく言っときますね」

「ありがとうございます、ルーナさん。それに、帰りの列車の手配までしてもらい助かりますよ」


ラインハルトがお礼を言うとルーナは照れくさそうに手を降りながら、さらりと爆弾発言をした。


「いえいえ。あ、そういえばアクアには立派な大浴場もありますが、お部屋にも湯殿があるんですよ」

「ん? お部屋に湯殿?」


その言葉にラインハルトはヴィクトリアの方を見るが、彼女は堂々と返した。


「別に想い人同士なんだから普通だろ。一緒に湯浴みをしたいし、お前の一糸纏わぬ姿くらいもう見馴れている。何を今さら恥ずかしがる」

「あはは……君って僕の一族より大胆だよね」


ラインハルトの一族、シュヴァルーヴェの異名『繊細にして、大胆不敵の漆黒獅子(シュヴァルーヴェ)』よりも大胆な発言に妙に頼もしく感じてしまう。

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