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番外編 やっぱり怖い

 二人がいつもの様にじゃれあっているとウェイターがメニュー表を持って来た。

 料理はコース料理の為に決まっているが、料理に合わせる飲み物を決めるのだ。

 ラインハルトがメニュー表とにらみ合いしているとヴィクトリアがウェイターに注文する。


「特別な日だから酒精を。この950年物のブドウ酒を頼む。お酒は食事前に持ってきてくれると助かる」


 ウェイターが頷くと再びラインハルトを顔を伺う。


「あ、じゃ僕も同じので……」


 あまりにも場慣れしてない感が出たのか、ウェイターが微かに笑って頷いた。

 おまけにヴィクトリアまで笑っている。


「酷いなぁ、笑わないでよ」

「いや、すまない。お前があまりにも場慣れしてないから……可笑しくてな」

「悪かったね。僕は君と違って少し前までは普通の家で育ったの。こんな場所で、しかも綺麗な女性と食事なんて初めてなんだから」


 拗ねた表情をするラインハルトにヴィクトリアはウェイターが持って来たブドウ酒をグラスに注ぎながら謝った。


「そう拗ねるな、ラインハルト。このブドウ酒は美味しい年代物だから機嫌を直せ」

「ブドウ酒で機嫌は直りません。ご褒美くれたら機嫌が直るかも」

「なっ!?」


 思わずブドウ酒を溢しそうになってしまう。

 そしてヴィクトリアはグラスに注がれたブドウ酒を一気に飲み干した。

 一気に飲んだ為か頬が赤くなっている。


「わかったから……後でちゃんとご褒美をやる。だから機嫌を直せ……愛しのラインハルト」

「もちろんだよ、愛しのヴィクトリア」


 ラインハルトはヴィクトリアからブドウ酒の瓶を取り、彼女の空いたグラスに注ぎ始めた。


「じゃ乾杯しようか、ヴィッキー。感謝祭の旅行を祝して」

「うん」


 二人は乾杯の言葉を述べ、この時間と食事を楽しんだ。



 食事を一通り食べ終え、他愛ない雑談を楽しでいると不意にラインハルトが内ポケットから細長い青い小箱をヴィクトリアの前に差し出した。


「これは?」

「いいから、ちょっと開けてみて」


 ヴィクトリアが小箱を開けると、そこには二人で分けあったアイスブルーのイヤリングと同じ色の小さな三日月形の宝石が付いたネックレスが入っている。


「いつもヴィッキーに助けられてるから、そのお礼だよ」

「えっ!?」


 それはラインハルトからの感謝を込めたプレゼント。

 尋問という名の拷問をされ、ラインハルトの心は深く消えない傷を負い、ヴィクトリアが心の支えになっていた。

 ヴィクトリアが嬉し過ぎて固まっているとラインハルトが喋り続けた。


「褒賞金は領地の修繕やら改善で全部使っちゃったから、卒業して偉くなったらもっと凄いのあげるよ」


 皇帝陛下から功績により、ラインハルトは褒賞金を受け取ったのだが、同時に受け継いだシュヴァルーヴェ領地の改善に殆んど使ってしまったのだ。

 領主である歴代のシュヴァルーヴェが住む館は、長年に渡り人が住んで居なかった為に荒れ放題。ヒルデガルドを始め歴代のアルムルーヴェが領主を代行していたが、自分達の王国がある手前だけに無尽蔵にお金は使えなかった。

 いわゆる片手間で統治していた為に領地の整備が他の領地と比べると遅れていたのだ。

 そこでラインハルトは全額を領地の整備に使ったが、それでもまだまだ時間がかかる。

 だからラインハルトは貯えの方からプレゼントを買ったのだが、ヴィクトリアにとっては金額なんか関係なく嬉しかった。


「いや……私には十分過ぎる。感謝する、ラインハルト。凄く嬉しい……」

「良かった。着けてあげるから髪を持ち上げて」

「うん」


 黄金の髪を持ち上げ、白い肌のうなじが見える。

 優しくネックレスを通してあげるとヴィクトリアが立ち上がりながら急に振り返る。


「ヴィッキー?」

「すまない……余りに嬉し過ぎて気持ちが高ぶってしまい、思わずお前に抱きつきたくなった……」

「流石に今はマズイからね。後で部屋に行ったら好きなだけ抱きついていいから」

「うん……じゃ早く部屋に戻ろう、ラインハルト」

「仰せのままに、王女殿下」


 ラインハルトは笑いながらヴィクトリアの手を引き、食堂車を後にした。



 食堂車から部屋に戻ると予想通りヴィクトリアが嬉しさあまって抱きついて来る。

 余程嬉しかったのか、中々離れなかったのでこのまま朝までさせとこうかとラインハルトは思った。

 だが本を読むからシャワーを浴びると言い聞かせてヴィクトリアは渋々応じてくれが、シャワーを浴びる時もネックレスを着けたままだったので流石にラインハルトが外すように促した。

 二人で仲良くシャワーを浴びているとヴィクトリアが先に出て待っている様にラインハルトに言う。

 ラインハルトはバスローブを着込んでベットに座りながら車窓を眺めて待っているとヴィクトリアがシャワー室から出て来た。


「待たせたな……じゃ本を読もうか」

「そうだね……って!? ヴィッキー、その格好は!?」


 ラインハルトが驚くのも無理は無い。

 てっきりバスローブ姿かと思ったら、ヴィクトリアは白いネグリジェを着ており、ちゃんとラインハルトからのプレゼントも着けている。


「その……レベッカ上級生に言われたんだ。二人きりの旅行だから可愛いのを着て悩殺? してきなと。それでレベッカ上級生と選んで何着か持って来たんだ。それにご褒美だからな……」

「凄いご褒美だね。綺麗だよ、ヴィッキー」

「バカ、恥ずかしいだろ……でもお前が喜んでくれて良かった」


 ラインハルトはレベッカに感謝した。普段は余計な事しかしないが、この時ばかりは感謝してもしきれない。


「じゃ本を読もうか」

「うん、お邪魔します」


 ラインハルトが枕に背中を預ける様にヴィクトリアも隣に来て枕に背中を預ける。

 隣に居るヴィクトリアの格好が際ど過ぎてしまい、ラインハルトの理性が無条件降伏しかけてしまう。


「どうした、ラインハルト? 読まないのか?」

「え!? あ、読みます読みます!」


 本を開きかけるとラインハルトが隣に居るヴィクトリアに促した。


「その格好だと空調が効いてるから寒いでしょ? もっと寄って大丈夫だからね」

「うん……実はちょっと寒いんだ」


 そういうとヴィクトリアはラインハルトの方に体を寄せる。

 正確には密着に近いのだが、ラインハルトも悪い気はしなかったので何も言わずに彼女に任せた。


「そりゃ男の僕としては嬉しいけど、何か羽織る? もしあれだったら空調の温度も上げるけど?」


 ラインハルトとしても折角の旅行でヴィクトリアに風邪をひかれては困るが、ヴィクトリアは頬を赤らめながら首を横に振る。


「いや……お前が嬉しいなら私は構わない。それに空調の温度は上げるな。その……このままなら、お前に密着出来るし……」


 恥ずかしそうに言うヴィクトリア。

 そんな言葉と姿にラインハルトの胸は熱くなってしまう。


「わかったよ。でも無理はしないでね。寒かったらもっと寄っていいから」

「うん……そうさせてもらう」


 もはや密着に近いの表現から密着に変わる。

 そして二人は『世界の怪談集』を読み始めた。

 ラインハルトにとって懐かしかったのは、『世界の怪談集』に四季国の怪談も載っていた事だ。

 学校に飾られてる音楽家の絵画が夜中に喋る事や、夜の女子トイレで誰かがすすり泣く怪談。

 石像が勝手に動きだしたりと、ラインハルトにとっては懐かしいのだが、ヴィクトリアにとってはどれも初めてだ。

 案の定、体が小刻みに震えている。

 しかもラインハルトの腕を掴んで……もはや密着状態なのだ。

 自分の腕から柔らかい感触が伝わってくるが、ラインハルトはヴィクトリアに申し訳なさそうに言う。


「あの……腕を掴まれて嬉しいけど、出来れば爪は立てないでくれるかな。ちょっと痛い……」

「す、すまない。怖くて力んでしまった」


 ラインハルトからの言葉に思わず腕を離してしまうが、直ぐに腕を掴み直して密着させた。

 どうやら余程怖いらしい。


「大丈夫? 読む本を変える?」

「だ、大丈夫だ。続きを頼む」

「りょうかい。腕は掴んでいて構わないけど爪は立てないでね」

「うん……感謝する」


 それからの怪談は湖で溺れた子供が霊となって他の人達を湖に引きずり込んだ話や、床を這いつくばって迫って来る女の時点でヴィクトリアが根を上げた。

 本を閉じて時計を見ると夜中の0時を迎えている。

 流石に遅いからヴィクトリアに寝る様に促した。

 だがベットから立ち上がるとヴィクトリアは眠る準備をしているラインハルトのバスローブ袖を摘まむ。


「ラインハルト……もし良かったら一緒に寝て欲しい。一人で眠るのは怖い……」


 その言葉にラインハルトは自身の横を叩いた。


「いいよ。流石に怖かったからね。安心出来るんだったら、僕の腕なり体にしがみ付いていいからね」

「そうさせてもらう」


 そういうとヴィクトリアはラインハルトの隣に横になった。

 それに腕では無く、体を密着させてだ。

 そしてラインハルトはヴィクトリアが怖がらない様に間接照明はそのままに、トイレの照明も着けといた。

 ラインハルトは仄かに明るい天井を見ながら隣で横にらるヴィクトリアが言ってきた。


「ラインハルトは温かいな……」

「そりゃ僕は幽霊じゃなくて生きてるからね。ヴィッキーこそ、こんなに体を冷たくして……風邪ひくよ」


 ラインハルトの肌やバスローブを通して伝わるのは体を冷やしたヴィクトリアの肌の感触。


「言っただろ。お前が嬉しいなら私は構わないと。だからこうやってお前に温めてもらってるんだ。悪いか?」

「全然だよ。好きなだけそうしていて構わないから」

「うん、そのつもりだ」


 二人は瞳を閉じて眠ろうとしたが、ラインハルトが何か思い出したようにヴィクトリアの方を向いた。

 ラインハルトの視線に気づき、ヴィクトリアも瞳を開けて見つめ合った瞬間。


「おやすみ、ヴィクトリア。愛してるよ」


 食堂車での約束を果たし、ラインハルトは笑みを浮かべて瞳を閉じて何かを待っている。

 するとヴィクトリアはラインハルトにおやすみの口づけを交わした。


「おやすみ、ラインハルト。私も愛してる……」


 愛の言葉を交わし、ヴィクトリアは幸せそうな顔でラインハルト体を強く抱きしめながら眠りについた。

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