第39話 対決
【シーン①:勝算】
閉館直前の図書館は、冬季帰省の直前ということもあって、いつも以上に人が少なかった。
人が少ない分、濃い紙とカビの匂いを強く感じる。
机上には複数の書籍が積まれ、メモ書きが散乱している。
メモには防御系魔法の記述が並ぶ。
パリィ。
シールド。
アブソーブ。
≪効率優先であれば、入力ベクトルを逸らすパリィが適切です≫
≪強度はシールドが最適ですが、継続的に張り続ける場合は注意が必要となります≫
≪防御力的には劣りますが、アブソーブにて効率的にダメージ軽減が可能です≫
脳裏の解析者と対話を繰り返し、整理が進む。
≪混合運用を推奨します≫
――問題は総量か。
――相手の個体出力量は過剰だ。
≪対抗戦で観測した予測をもとに、こちらの三倍として試算しました。魔力量四十に対して百二十の想定です≫
正面からの力勝負では歯が立たない。
魔力差を利用した広域魔法の連発が、相手の基本戦術になるだろう。
≪偏向と機動による消耗戦を推奨します≫
――持久戦か。
パリィで軌道を逸らし続け、余波はアブソーブで耐え、直撃はシールドで対処する。
必要なら幻影魔法も使う。
これでいい。
大事なのは詠唱の簡略化と消費の削減だ。
特にシールドの一回あたりの消費を下げる工夫が必須だ。
こちらの魔力が先に切れないように、注意しなければならない。
防御系の魔法は、重力魔法と同様、一般的な体系外の属性だ。
属性に対する解析が十分でないため、消費が多く、制御も難しい。
――だからこそ、制御で削れる。
指先で机を叩く。
≪まだ最適化の余地があります。目標効率まで、推定15%≫
――消費率を極限まで絞って、魔力量から使用回数を逆算する。
マルセルの言葉が一瞬だけ浮かぶ。
――魔力枯渇は危険。
リスク管理さえすれば問題ない。
クラウディアの言葉も浮かぶ。
――魔法を成り立たせているのは、魔力。制御は……
制御することで魔法となることを証明する。
レオンは視線を上げる。
図書館の小さな窓は雪で埋まっていた。
低く長い、閉館の鐘が鳴る。
レオンは本を閉じる。
計算は終わっている。
――勝てる。
そう判断した。
【シーン②:剣技場】
剣技場は静かだった。
卒業式が終わり、冬季帰省が始まっている。観客の姿はない。
空間だけが広く、音を吸っている。
足を踏み入れた瞬間、違和感が走る。
――防護魔法。
入場と同時に発動する常時魔法。
皮膚の表面に薄い膜のようなものが張り付く感覚には、慣れはしたが不快だ。
レオンは一歩進む。
フィールドを確認する。
床の反発。
摩擦。
踏み込み時の滑り。
――問題ない。
さらに数歩距離を取る。
中央までの歩数を数え、視線を上げる。
遮蔽物なし。
完全な平面。
――回避余地は機動のみ。
想定通り。
クラウディアが向かいの門から入場する。
正面に立つ。
視線が合う。
「確認するわね」
声だけが響く。
「あなたが私に有効な一撃を入れれば、あなたの勝ち。あなたが戦闘不能になるか、降参すれば私の勝ち」
条件が提示される。
レオンの内部で再確認処理が走る。
勝利条件は軽い。
問題は到達できるか。
相手との魔力差は三倍想定。
広域制圧と予想。
基本戦術は持久戦。
防御魔法を同時運用する。
消費量を再計算する。
持続時間、限界域。
誤差許容、3%未満。
クラウディアを確認する。
立ち位置。
重心。
踏み込みの予兆。
想定外の変化を考慮。
――初動観測が必要。
「……あなた、本当に戦う気があるの?」
声が落ちる。
レオンは応答しない。
視線をわずかに下げて足元を見る。
踏み込み予測位置。
上げる。
距離と角度を確認。
――観測を優先する。
クラウディアは小さな息を吐いた。
「では、始めましょう」
開始が告げられる。
空気がわずかに変わる。
だが、レオンは動かない。
呼吸を整える。
魔力の流れを確認する。
クラウディアの動きを待つ。
先に動く必要はない。
――まずは、観測。
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