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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
1/17

第1話 ノイズのない世界

【シーン①:デスマーチ】

 ディスプレイの光が、やけに白く滲んで見えた。

 何時間経ったか、もう数えていない。

 

――もう少しだ。

 

 

 画面の左上に大きく、現在実行中のタスクが表示されている。


≪次世代型解析AI統合基盤 最終テスト≫


 複数の判断モジュールを束ね、質問に応じて観察対象の深部までを解析する統合基盤。

 理論上は、使用者が認知できていないレベルまで高精度な解析が可能となる。


 ログが流れる。

 正常。

 正常。

 正常。

 その中で、ごく一部だけが妙に引っかかった。

 エラーは出ていない。数値上の異常もない。

 だが、理由の説明できない違和感が残る。

 

「……おかしい」

 

 断定はできない。

 どこが原因かも、まだ見えない。

 根拠のない確信だったが、これまで外れたことがなかった。

 

 

 視線をログに固定したまま、思考だけが先行する。

 指が動く。

 ログを遡る。

 

 意思決定プロセス。重み付け。評価関数。

 一つずつ確認していく。

 

 表面上はすべて正常だ。だが出力だけが、わずかにズレている。

 

「……なぜだ」

 

 さらに深く潜る。

 依存関係を辿り、処理の流れを分解して再構築する。

 

 一段。

 さらに一段。

 その中で、わずかな歪みが見えた。

 

 

「……ここか」

 

 非同期処理の例外が、ログに出ない形で握り潰されている。

 表面には現れないが、内部では確実に評価へ影響していた。

 修正を入れ、ログ出力を追加して再実行する。

 

 結果が変わる。より自然な出力に近づく。

 だが――

 

 

「……まだ残ってる」

 完全ではない。

 このままでは、"正しく間違える"。それは最も危険な状態だ。

 

 影響範囲。再現性。収束速度。優先順位を組み替え、最短ルートを再構築する。

 いける。あと一手で、届く。

 

――はずだ。

 

 

 ふと、意識が揺れた。

 身体が重く、指先の感覚が曖昧になっている。

 だが関係ない。ここで止めるわけにはいかない。

 

「ここで目を閉じるわけには……」

 

 まぶたが落ちかける。

 無理やり意識を引き上げる。

 あと一手。

 それだけで、このAIは完成する。

 

「ここを……修正して……」

 

 手を伸ばす。視界が揺れる。ログが崩れる。思考が分解される。

 構造が、ほどける。

 

――まずい。

 

 これは。

 

 

 致命的な――

 

 

 

 暗転した。

 

 

 

【シーン②:転生】

 光があった。

 

 やわらかい光だ。

 刺すような白ではない。輪郭があり、温度がある。

 

 空気が、軽い。

 吸い込んだ瞬間、違和感に気づく。

 混じり気がない。

 頭に入ってくる感覚が、あまりにもクリアすぎる。

 

――なんだ、これは。

 

 

 思考は自然と動く。

 状況を把握しようとする。

 

 視界が低い。

 焦点が合わない。

 解像度が粗い。

 違う。

 

 これは――

 

「……あ」

 

 声が出た。

 だが、それは自分の知っている声ではない。

 高く、未熟で、頼りない。

 

 身体を動かそうとする。

 思った通りに動かない。

 まるで新しい環境に、まだ適応できていないように。

 

 視界の端に、人影。

 温かい手が触れている。

 ほほ笑んでいる気がした。

 

 何かを話している。

 意味はわからない。

 

 何とか自分の手を動かして眺める。

 

――赤子の手だ。

 

 

 理解が追いつく。

 

 いや。

 追いついてしまう。

 

 視界の低さ。

 制御できない身体。

 不安定な発声。

 すべてが、一本に繋がる。

 

 ありえない。

 

 そんなはずはない。

 

 思考が、否定する。

 

 だが。

 

 すべての条件が一致している。

 

 

――働き過ぎで頭が壊れたか

 

 

 あまりにもメタな展開にめまいがする。

 ありえないと思いつつも帰結する。

 

――異世界転生、なのか

 

 

 結論だけが、静かに残った。

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