第50回:自由の海へ
長崎の港から一隻の小さな帆船が静かに出航した。甲板には、歴史から姿を消した坂本龍馬とお龍、そして一匹の黒い子猫の姿があった。
「タマ、見てみぃ。これがわしらの航路図の始まりぜよ。煮干しに似た島も、ちゃんと探しに行くきに」
龍馬が意気揚々と語りかけるが今のタマは普通の子猫だ。返事の代わりに龍馬が広げた地図の上でゴロンと仰向けに寝転がって甘え始めた。
「ああっ! 待てタマ、そこは一番大事な……!」
地図は爪で傷つき黒い毛だらけ。龍馬が困っていると少し離れたところで荷を解いていたお龍が、フフッと小さく笑った。
「……またその子猫に振り回されてる。相変わらずね、龍馬さんは」
タマは一本になった尻尾を振り龍馬の指をペロリと舐めてから、喉を「ゴロゴロ」と鳴らした。
「……まっこと、おんしゃあには敵わんのう」
龍馬は呆れながら、かつて自分を守ってくれたその黒い子猫をお龍の視線を感じながら優しく撫でた。
「にゃ~」
短く鳴いたタマは、龍馬の膝の上を占領して丸くなった。
「行くぜよ! わしらの新しい仕事は、この広い世界を遊び尽くすことじゃ!」
自由な風に吹かれ、男と女そして一匹の黒い子猫は輝く海原へと溶け込んでいくのであった。
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