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眷属少女のブーケット  作者: クダミ
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花々の心配

 

「ほう、では一気に3種目も選手が決まったと?」

「まだ決定じゃないけどね。でもジンジャー達と話してたら、こういう感じで行こうかなっていうのが見えてきた」

 

 こうやってカボさんが留守番をした日は、起きた出来事を寝る前に話すようにしている。

 日記とはまた違うけれど、今日を自分の内でまとめるのに便利なのだ。

 

「ボンヤリとしているな。しかし、この調子ではカボが体育祭で活躍する機会は無いか」

「何言ってるの。カボさんにはCクラスのマスコットとして、クラスの士気を高めてもらう仕事があるんだから。忙しくするよ」

「おお……可愛いが故の定め。報酬として、伊勢海老を所望」

「報酬、ね。でも最近カボさん太ってきてるよね。どうしようかな」

「オウオウオウ、やめないか、オウオウオウ」

 

 人差し指でボヨボヨと、カボさんのお腹をつつく。筋肉らしい弾力があるから別に太っているわけじゃないんだろうけど、それにしてもシルエットがどんどん丸に近付いていっている気がする。

 

 そうしていると、部屋にノックの音が響いた。振り返って「はーい」と返事をする。開いたドアの隙間から、ノイたんが少しだけ顔を出した。

 

「テスさーん」

「ノイたん、どうしたの?」

「エヘヘ。ちょっと話足りないなーってなっテ……まだ少し、良いデスカ?」

「良いですよ。どうぞどうぞ!」

 

 ベッドの縁に座り直し、軽く叩く。目に見えない速さで隣に座るノイたんに、少し笑ってしまった。

 

「なにカ?」

「んっふふ、いやゴメン。ちょっと面白くて」

「フゥン?まぁそれはさておき、実はテスさんに幾つか質問があるんデス。まず『海と山ならどっちが好き』デスカ?」

「え、どっちが……そもそも好きどうこうよりも前に、海って見たことないし」

「見たことナイ!?一度もデスカ!?」

「一度もって言うか、教科書の写真とか絵画とかで……あ〜あとはタブレットで見れる動画サイト、それでも見たことあるよ」

 

 確か『ソワネル☆チューブ』というチャンネルだった。配信者のソワネルちゃんが、港町の有名なジェラート屋さんをリポートした時の、背景に映っていた海を思い出してみる。湾に囲まれた海は確かに綺麗だったけれど、ぶっちゃけ湖と見た目ほぼ変わんないよな〜とあの時は感じたような。

 

 そういえば今年の八月は、坊ちゃんの誕生日に海辺の別荘へ行く予定があったのだ。

 もしも坊ちゃんが溺れた時にスムーズに救助できるようにと、湖でミリアムさんに泳ぎを教わったのがもう懐かしい。あの時「海には波があります!!流されても慌てないように!!」とミリアムさんが練習として泳いで高波を作っていたけれど、よく考えたらあれはどうやっていたんだろう?

 

「そうですか〜本物は見たことない、と……じゃあ次に『白か黒の服ならどっちが好き』デスカ?」

「んー制服とか、仕事で着るなら黒だけど。あ、でも奥様が着てた白いドレスは、シュッとしてて好きだったなぁ」

「ナルホド!白なんデスネ!!ナルホド!!」

 

 私が何か話すたびに、どこからともなく取り出した手帳に勢いよくメモをしていく。その鬼気迫る様子に若干引いていれば「じゃあこれが最後の質問デス!!」と両肩を勢いよく掴まれた。

 

「テスさん」

「は、はい」

「……『列車と船ならどっちが好き?』デスカ?」

「乗ったこと無いのは船だけど、好きって言うなら列車かな。入学前に、一緒に列車に乗って文房具とか買いに行ったの凄く楽しかったし」

「ああ——テスさん、テスさん!」

「うおっ、おっ」

 

 突然、頰を紅潮させたノイたんに腰を両手で掴まれ持ち上げられる。天井が高かったおかげで頭をぶつけずに済んだけれど、そのままグルグルと回転が始まった。

 

「ボク達って、本当に相性が良いんデスネ!」

「ぐぉ、目ぇ、回る」

「ますます大好きになりマシタ!これからもずーっと——あっ」

「?」

 

 いきなり動きを止めたノイたんにつられ、私もドアの方へ振り向く。するとメイド服の白黒と、ピンクとオレンジの大きな花弁が、ちょうどドアの隙間から引っ込む瞬間が見えた。

 

 トゥルぺとリンゲルだ。見た感じ、かなり慌てていたようだが……

 

「ねぇノイたん、今のって」

「テスさんスミマセン。ボクちょーーーーーーーっと用事ができたので、今夜はもうおやすみなさいしマスネ」

「わかった、おやすみ。あんまり怒んないであげてね」

「それは、内容次第」

 

 にっこりと笑みを浮かべたまま、腰を抱き寄せさりげなく額にチュッチュッと二発キスしてから、ノイたんは出て行った。

 

 最後の最後で不意打ちのソレに、一気に身体中が熱くなってベッドに倒れ込んでしまう。

 

「うぉお、いっい、いきなり来たか」


 もうとっくに大の字になって寝ているカボさんを脇に寄せ、布団を被って無理矢理目を閉じる。

 

 いつか、いつかきっと、私からもキスできたら良いなと願いながら。

 


 ◇



「どういうつもりだ」

 

 部屋から出てすぐ、廊下全体に消音魔法をかける。いくらテスさんにリッター達の声が聞こえていなくても、気を遣わなくて良い訳じゃない。

 

 目の前にはゲンゼ(デイジー)・トゥルぺ(チューリップ)・リンゲル(マリーゴールド)の三輪が横並びに整列している。てっきりトゥルぺとリンゲルだけだと思っていたのに、まさかゲンゼまで覗きに来ていたとは。

 

「あの霊獣すら、空気を読んで黙っていたというのに……お前達ときたら」

 

『わ、私は止めたんですよ!それなのにこの二輪が無理矢理っ』

『アエーーッ!?ゲンゼも最終的には行くって言ってたじゃん!裏切る速度早すぎっ、これだからキク科はさぁ』

『私はただ、マスターと奥様が心配だから近くで待機していただけだ。そんなことも伝わっていないだなんて、本当にユリ科ときたら』

『オーン、トゥルぺわかんな〜い。私は奥様といっっつも一緒にいるから、お屋敷待機のリーダーの気持ちなんて一クロロプラストもわかんな〜い』

 

『『ガアアアアアアアッ!!』』

 

 また始まった。何故覗き見をしていたのか、聞きたかっただけなのに。

 殴り合う二輪に対し、こうなると怒るよりも呆れる気持ちの方が勝ってしまう。溜め息を吐いて眉間を拳で揉んでいると、リンゲルがスッと近寄って来た。

 

『私もね、マスターと奥様が心配だから見に来たのよ』

「さっきからなんです?その心配って」

『アラやだ、トボけちゃって。いつ受粉するかに決まってるじゃない』

「はぁ?……はぁっ!?」

 

 流石のボクでも理解するのに数秒かかった。とんでもないことを言い出したリンゲルに「まさかそれっ!テスさんには言ってないでしょうね!?」と両肩を掴む。


『言えないわよ〜奥様に私達の言葉が聞こえないのは、マスターも知ってるでしょ』

「だとしても絶対に、テスさんの前で言わないように!もし何かの拍子で聞けるようになったら大変ですから」

『は〜い。で、いつやるの?』

「しません!まだ、当分は、でもいつかは」

 

 驚きから、変な汗が背筋に流れてゆくのを感じる。まさか自分で作った使い魔に、これほど手を焼かされる日が来るとは。

 ブルーメリッターも、元々はこんなに個性溢れる使い魔じゃなかった。

 命令を淡々とこなすだけの存在。ところがテスさんと接するようになってから、どんどん自我を持つようになった。言う事を聞かない訳ではないが、今夜の覗き見のような自発的な行動が増えている。

  

 使い魔は、生物に自身の魔力を分け与えることで作り出すことができる存在だ。眷属との違いは主が死んでも死亡せず、ただ元の生物に戻ることと、主人の魔力を勝手に引き出して使用することができないこと。


 そういえば、今日屋敷に近づいてきた連中も使い魔だった。原則として種を問わず、同じ魔人族の使い魔化は禁止されているはず、それなのに——

 

(なんだ。堂々とテスさんを眷属化させたボクよりも、影でコソコソと何人もの魔人族を使い魔にしているあの男の方が、よっぽどタチが悪いじゃないか)

 

 余計に苛立ってきて、顔がしかむ。

 いけない。それよりもせっかくテスさんから良い話を聞けたのだから、早いとこ例の計画について考えないと。

 

「ハァ……今夜は見逃しますが、次にボクとテスさんの触れ合いを邪魔したら、その時は容赦なく燃やしますからね」

『く、茎に銘じます!』

『そんなに怖いと奥様に逃げられちゃいますよ』

『わかったわ〜』


「待ちなさいトゥルぺ。今、なんと」

 

 小声で早口だったが、聞き逃しはしない。自室に戻ろうとした足を止め睨み付けると、トゥルぺは慌てた手振りで言い訳しだした。

 

『だ、だってぇ!マスターって結構奥様に対してドロドロすぎるって言うかぁ。トゥルぺ的にはもっと、ルチャル君みたいに爽やかな感じを目指した方が良いって言うかぁ』

「ルチャル君?なんなんですか、ソイツは」

『学院襲撃事件の際に、奥様と共にグロンスキンと対峙した生徒の一人です。確かフルネームは「ルチャル・ルプトゥラ」だったかと』

『そうそう、その子その子!トゥルぺ最近、ルチャル君がお気になんですよ!ムキムキだし優しいし』

『話に聞いてる限りじゃ、可愛い子よね〜』

「ほぉ……」

 

 あ、思い出した。確か以前テスさんが「友達ができた」と嬉しそうに話していたんだった。

 テスさんの顔を眺めるのに夢中で聞き流していたが……まさか、ボクが思っている以上に、仲が良いのか?

 

 ——何故だろう。胸の奥から、黒い泡のようなナニかが生まれてくるのを感じる。


 不愉快だ。とても、不愉快だ。

 

『主よ、今戻り申した』


 地の底を滑るような、低い声。

 一陣の風と共に、片膝をついたバローンが廊下の暗がりに現れる。

 夕方に処した襲撃者達がどうなったか、確認するよう使いに出していたのだった。

 

「連中、どうでした?」

『仲間を回収し、帰られたようです。某とゾンネン殿が調べた限りでは、姿を変え潜伏している可能性は無いかと』

「ご苦労。ところで、ゾンネンはさっきから何をしているんです?」

 

 バローンの背後で、ゾンネンが何かをブツブツと言いながらひたすら壁に頭を打ちつけている。黄色い花弁は萎れ、元気がない様子は枯れかけに見える。

 

 とはいえ使い魔なのだから、普通の植物のように枯れたりしないはずだが。

 

『最近、日が落ちると毎晩こうやって鬱々としております。太陽が見えないのが、辛いとのことで』

 

『昔々遙か一昨日だって聳え立つ平屋の真ん中の両端には屈強なモノノンキーがいたし五番目からひたすら伸ばして乳鉢の中に月の石が食べちゃった。また彼女の彼氏の兄の鼠蹊部はカニだったっけ蟹だったっけ?リタルダンドはえらい早さでナウマンゾウに入電を』

 

「困りますね。これ、ちゃんと仕事は出来てます?」

『問題ござらぬ。なんならこの状態の方が、昼間よりも真面目故』

 

『あの破れかぶれを撃て。恋人を誰に変えたくないのなら』

 

「そ、そうですか。なら引き続き、屋敷の警護を頼みます」

『御意』

『パレードは私のために来なかった』

 

 スゥッと、バローンとゾンネンが暗闇に紛れて消えゆく。

 

(あ、しまった。今日こそはバローンに「何故お前だけ、他のリッター達と違って声が低いんだ」と聞こうとしていたのに。ボクったらつい)

 

 とはいえもう、夜も遅い。急いでいない用事は、明日に回すとしよう。

 

「お前達も仕事に戻りなさい」

『かしこまりました』

『押っ忍!』

『は〜い』

「トゥルぺはその『ルチャル君』について、これから詳しく報告してもらいますよ」

『ええっ!?それって、オールナイト夜勤コースってこと!?トホホーーーーイ!!』

「どうしてそんなにテンションが高いんだ……」


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