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眷属少女のブーケット  作者: クダミ
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ザシュッ!だーれだっ

「さぁて、どうしよ……」

 

 顎をさすりながら、紙と睨めっこする。

 あの占いから数分後。今日はひとまず解散と、それぞれ寮に戻る皆んなに手を振ってから今後について考えている最中だ。

 ミリガンの言うとおり、他のクラスの振り分けは隙が無い。競技ごとに個々の生徒が得意で、活躍できる魔法を使えるよう割り当てられている。いくらCクラスが下に見られているとしても、慎重になった方が良いだろう。

 

(とりあえず棒倒しの面子はほぼ決まりつつあったし、他の競技も私が仮で作戦立てて組み合わせて……うん、また皆んなの意見を聞く感じでいこうかな)

 

 だとしたらどの競技から手をつけるべきか。まぁ競技人数の少ない魔撃かリレーか。

 明日の作戦会議はクレープス先生も参加できるそうだから、積極的にアドバイスを貰いに行かないと。

 

「ザシュッ!だーれだっ」

「——」

「あれ、わかんない?残念だなぁ、テスタちゃんなら絶対にわかってくれると思ったのに」

 

 右頬にめり込む人差し指。

 耳元の笑い声。

 左肩を抱く手。

 

 なにが起きた理解できず、反射的にもがき離れる。あまりにも突然すぎた接触に、今のが攻撃だったらと恐ろしくなった。

 

「じ、ジンジャー」

「正解!ってあらら、息上がってるけど大丈夫?」

「大丈夫……えあぁてっきり皆んなと一緒に帰ったもんだと」

「テスタちゃんと話したくて、残ってずっと隣にいたんだよ。でも私影が薄いから、気付いてくれるようにってちょっかいかけちゃった」

 

 驚く私にそう言って、ジンジャーは「びっくりさせてゴメンね」と微笑む。

 影が薄い?本当にそうか?

 私が鈍すぎるからと言われたらそこまでだけど、ジンジャーの気配を全く感じなかったのは他に理由がある気がする。

 

 例えばそう、魔法を使っていたとか。

 しかしただ私と2人で話したいだけでそこまでするのは、ちょっと怪しい。

 

 訝しんでいると、いきなり腰まわりにドンっと勢いよく誰かに抱きつかれた。強い力で、さっきと違って簡単には振り解けない。背筋に冷たいものが走るのを感じながら見下ろせば、そこにいたのはマイオだった。マゼンタの両目をキラキラと光らせ、ニイィっと上がった口角からはノコギリに似た歯を覗かせている。

 

「ごめんその顔はちょっと怖いかも」

「抉るぞ。抉るぞ抉るぞ抉るぞ抉るぞ抉るぞ〜」

「マイオ。飴ちゃん欲しいならコレあげるから、ちょっと向こうで遊んでて」

「ガバババ!あ目ん玉!あ目ん玉!」

 

 ジンジャーが懐から、個包装された濃いピンク色の飴玉を取り出し遠くに投げる。奇声を上げてそれを追うマイオの後ろ姿は、ボールを追いかける犬によく似ていた。

 

「よく言いたいことがわかったね」

「古い付き合いだから。私は勝手に家族だと思ってるの」

 

 そう語るジンジャーの横顔は、なぜかいつもの笑顔よりも穏やかに見える。オヤと思ってよく観察しようとすれば、すぐにこちらに振り返っていつも通りの笑顔に戻ってしまった。

 

「で、話したいことなんだけど。テスタちゃんの中でもう棒倒しのメンバーって決まってるの?」

「いや、まだ。今日の話し合いだとトキヨシとヴァンとラジャイの三人は決定として、あと二人についてはまだ考えてすらない」

「じゃあその二人にさ、私とマイオを選ばない?」

「ええっ!?」

 

 全く想像していない提案だった。だって二人共、私の中では別の競技に出たいんじゃないかと思っていたからだ。


 実はジンジャーはCクラスで一番足が速い。

 準備運動で走る時はのんびりしているけれど、タイムを測る時には瞬きし終わる前にゴールして記録し損ねるなんてことがしょっちゅうだった。

 

 逆にマイオは力持ちだ。

 Cクラスの『力自慢ランキング』では、毎回『腕力のルチャル』と『ウエイトのヴィオレラ』に並ぶ『なんでも砕くマイオさん』として競い合っている。


 そんな二人だから、ジンジャーはリレー、マイオは綱引きか騎馬戦に出たがると予想していたのだが……

 

「予想外って顔だね。でも私達、必ず役に立つよ。特にSクラスの攻略では」

「Sクラス?ええと確か……あいたいた。確かノンジュ・コトタケって子が厄介なんだっけ?結界魔法の使い手だとかなんとかで」

「そうそうソイツ!偉いね、ちゃんと調べてるんだ」

「まぁこの子は嫌でもよく噂を聞くから」



 ◇

 


『ノンジュ・コトタケ』——由緒正しい家柄のウィザード種と、玉兎種と呼ばれる珍しい種族との間に初めて産まれた少女。生徒会では会計を務めており、ノイたんの許嫁候補の一人だったとかなんとか。

 

 そこら辺はまぁ置いておくとして、凄いのは彼女が使用する『結界魔法』だ。

 

 これについては以前、クレープス先生の居残り授業で習ったことがある。

 

 その場から移動できない代わりに、自身だけにバリアを貼る防御魔法よりも大人数を囲うことができ、ただ単に壁を作って操る障壁魔法よりも頑丈……と言うと「じゃあもうわざわざ防御とか障壁とかよりもその魔法だけで良いんじゃ?」と質問する私に、クレープス先生は静かに首を振った。

 

「残念ながら結界魔法は、ごく一部のウィザード種の血族にしか習得できないんだ。頂点に立つ真祖なら、仕組みを理解して使用できる奴もいるけれど……それでもやっぱり難しい方だね」

「ほほう、じゃあノイたんは使用できる、と」

「あーーーーそうだね。じゃあ次は、図に描いて説明するよ」

 

 言い終わるよりも早く、先生は黒板に棒と丸だけでできた人と、それを覆う三角タイルがあしらわれたドームを描いた。

 

「わかりやすく描いちゃったけど、この三角は肉眼だと実際はもっと見えづらい。と、言うわけでここで問題!」

「デーデレッ!」

「この特徴的な三角。結界の強度を上げるだけでなく、他にもう一つ意味があります。さぁそれはなんでしょうか?」

「えあー……内側から押したら、棘になって攻撃できる?とか?」

「——————残念!正解は、空気穴を絶えず移動させるためでした」

「なんだってー!って、へ?これ空気穴とかあるんですか!?」

「あるよ。そこがまた、防御魔法と違うとこだね」

 

 先生が言うには、防御魔法を長い時間使いづけるとバリア内の酸素が減ってやがて呼吸困難に陥るのだそうだ。酸素を作り出す魔法はあるけれど、複雑すぎて防御魔法と同時に使用するのはリスクが高くて推奨されていない。

 

 その点、結界魔法の空気穴は例え大人数を囲ったとしても、充分な換気ができるんだとか。

 

「空気穴の位置だけ強度が弱くなるってデメリットはあるけど、三角の量が多ければ多いほど位置の特定が難しいから攻略も難しいんだ。因みにSクラスのコトタケさんは、この三角が千二百兆個もあるらしいね」

「でもその分、的も小さくなりそうですから大きな攻撃を連続でぶつければいけるんじゃ」

「自分の魔力量に自身があるならそれも良いけど、少しでももたついたら逆に攻撃されるから厳しいね。あの子の魔力量は校内でも5本の指に入るから、挑むなら別の方法を考えた方が良いよ」

「はーい……なるほど……メモメモ」

 


 ◇

 


 と、まぁこんな感じでノンジュは手強い相手なのだった。


 だからこそ、焦って攻略法を考えるよりも後回しにしようとしていたのだけど。

 

「クレープス先生の説明ね〜本当にその通りなんだけど、やっぱ『結界破り』までは先生も知らないか」

「わり?」

「空気穴に集中攻撃するっていう意味じゃ一緒なんだけど、その時に穴の向こう側、つまり結界の内側じゃなくて結界自体を攻撃する技があるんだ」

 

 クレープス先生が黒板に描いてくれた絵と似たような絵を、今度はジンジャーがイキイキと地面に描いた。ただ違うのは外側から結界を殴る人と、三角が震えてバラバラに崩れてゆく様子が追加されている。

 

「こうやって、微細な振動を起こして結界を構築している三角をバラすのが『結界破り』。一度こうして結界を破るとね、使用者は三十秒間は必ず思考が停止するからその間に首でもへし折るか詠唱できないよう喉を潰すかするともう後は煮るなる焼くなり刺すなり砕くなりすると良いってわけ!ね、シンプルでしょ!」

「なるほど。でもなんで?」

「ん?」

「なんでジンジャーは、クレープス先生が知らないことも知ってるの?」

「——」

 

 ただの、ちょっとした疑問だった。先生が知らないことを知っているだなんて凄い、どうやってそういう知識を蓄えてるんだろう。くらいの、純粋な疑問。

 

 ところがジンジャーは私の質問に対し、顎に手をやり「ン〜〜」と視線を彷徨わせている。

 

「あともう1つ質問。なんかさっきからノンジュに対してやたらと殺意が高いけど、何かされたの?」

「……もう良いや。巻き込んじゃえ」

「んぁ?」

 

 明後日の方角を向いていたジンジャーが、いつも以上の満面の笑みでパッと耳元に顔を寄せてきた。なるほど、内緒話か。「秘密にしておいてね」という前置きにうんうん頷く。

 

 

 

「私ね、アイツの一族に命狙われてるんだ」

 

 



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