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69 戦闘 ①

「―――――目を瞑っておいで、シュシュ」


“飛ぶ”というより完全に“落ちる”と表現した方が合っているような飛行の仕方で僕らは地上を目指した。

途中風圧で呼吸を奪われながら青息吐息で果たした帰還を、仰天して駆け付けた相棒が出迎えた。


「なんだ、どうした!?」


「……ノッティ…シュシュを、屋内に。…あれが出た」


「うわ、マジで!!――――数は!?」


「まだわからない…だけどライディーンが反応した。外れは無しだ。下の対応を隊長に―――僕は上に戻る!」


「………っ、了解」


シュシュは後から駆け付けたハナに抱き抱えられて建物の中へ。

取り敢えず此方は一安心か。


僕はふらつく身体を立て直し、黒い獣と向き直った。


「悪いけどもう一仕事だ。今度こそ―――――ツブす」




蜜を好む蝶や蜜蜂が花に集まるのは仕方の無い事だろう。

それが本能というやつで、それ無しでは生きられないものなのだから。


だけど『花』があの子だとして、寄って来るのが狂暴で尚且なおかアタマの悪い巨鳥とりとくれば話は全く別物だ。


今までの天馬や鳥の例から予測すると、天翅には眷属を惹き付ける特質が備わっているとも考えられる。

それが種族的なものかあの子限定のものかは分からないけど。

だけど相手が惹かれて来るだけなら未だしも、捕食対象として付け狙われるとあっては迷惑極まりない。

あの子も気が休まる時が無いだろう。


僕を背中に乗せたライディーンが一気に空へ翔る。

毎回思うんだけど宇宙飛行士ってこんな感じ?

重力に半端なく負荷がかかるし、オマケに鼓膜が破れそうなんだけど!


「君ね……あの子が乗ってないとホント容赦無しじゃないか」


ぐふぅ。


『何言ってやがる』とでも言いたげに、短い返事が返る。

はいはい、オスに優しくする趣味はないよね。

そこ、基本だから。


僕らはエムローザの街並みが模型サイズに見える上空で緩やかに旋回する。

さっきは見えなかった巨鳥の影が次第に視認出来るようになり始めた。


「5……6、7羽。しっかし派手な色彩いろだなぁ。―――――狙い易くて良いけど」


ライディーンの身体が徐々に雷を纏い臨戦体制に入る。

その雷を一旦僕の身体を通して剣に集め、調整して放つ。

この一月ですっかり慣れた作業だ。

大型発電機のライディーンが好き勝手暴れると大惨事だけど、僕という変電器を通せば微妙な力加減が可能になる。

勿論ライディーンだって冷静ならそれくらいの事は朝飯前だけど、哀しいかな獣の性というやつで闘争本能に火が着くと、きれいさっぱり理性が飛ぶから始末に困る。


本来ならこんなまだるいやり方は飛天の流儀じゃないんだろうけど、今はどうにか辛うじて「シュシュの為」という一事で共闘を受け入れて貰っている状態だ。


雷でボロボロに荒れた街並みなんかあの子に見せられないしね。


力を絞ってピンポイントで巨鳥の胴体を狙う。

落下地点に注意しながらの作業は予想以上に神経を使う。ただ闇雲に撃ち落とせば下の人間にも確実に被害が出るだろう。

いっそ全力投球で殺れたら簡単なのに。


3羽を落としたところで残りが急降下を始めた。

真っ直ぐに市街地を目指しているのは、狙いが人間に移った為か。

日中の街中はそれなりに人出がある。ここ最近暑さが和らいだ事も手伝って、表を出歩く観光客の数も多い。


「ライディーン!!――――警告!!」




『ぐおおおおおおぉ――――』




突然の怪音――――というか獣の咆哮に、道を歩く人々がビクリと足を止めたのが見えた。

揃って上を見上げ、次いで迫る赤い巨鳥に気付いておののき逃げ惑う。

こうなったらモタモタしてはいられない。


「ライディーン雷はもうダメだ!人間に近過ぎる!」


せめて周りに人がいなければ。

チラリと周囲を窺えば遅まきながら警備隊や騎士が市民を屋内に誘導し初めていた。

その中には珍しくヴォルグの姿があり、いしゆみに似た武器で応戦中だった。

槍程もある大きさの矢を打ち出すタイプで砦攻めによく使われる強弓だ。


どっから持ってきたんだ……。


ヒクイドリは巨体のわりに動きが素早く急所を狙いにくいのが難点だけど、以外にも翼を射抜かれるとバランスを崩してそのまま2羽が地上に墜落。

致命傷に至らない巨鳥は激しく暴れて人間を威嚇し、誰もが到底近付けないと思われた。

でも矢張そこは戦闘狂。得物片手に嬉々として挑み、実に愉しげに大剣を振るい始める。


……もう、あれは放っとこう。


地上に落ちた個体は騎士が何とかするだろう。




残り2羽。





























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