70 戦闘 ②
残るヒクイドリは2羽。
奴等は弩を警戒して射程内には触れない距離で街の上を飛び回り始めた。
あれ、逃がすと追うのが面倒臭いよね。
「叩き落とそう」
どういう訳だか共闘を重ねるうちにお互いの考えが何となく伝わるようになっていて、僕の呟きに反応したライディーンがヒクイドリを捕捉しにかかる。
空中で巨鳥の胴体を鷲掴みにしてそのまま地上に。
このまま引き裂いてしまえば今度は血に酔ったライディーンが大暴走しかねないから、それは無しの方向で。
「ライディーン!」
地面に巨鳥を叩きつけたところでライディーンが身を翻し、周りからは勢いで僕が振り落とされたように見えただろう。
―――――だけどそれも計算のうち。
空中に放り出されながら、なんだか軽業師にでもなったような気分ーとか思いつつ体勢を調え、剣を抜き払った。
落下の勢いを利用して巨鳥の首の付け根に渾身の一撃を叩き込む!
そのまま直接体内に雷を放てば仕事は完了。
ふー。周囲に被害も無く仕留められて何より。
周りにいた人間があんぐりと目を剥いて動かなくなったヒクイドリと僕を見比べ、次いでドスドスと足音も荒く近付いてきた飛天に驚いて「ぎゃあ!」と叫び声を上げて遠くへ飛び退いた。
「…あと一羽。チッ、しまった!姿が見えない」
早く乗れ、とばかりにぶるりと首を振るわすライディーンに飛び乗り三度空へ。
一旦上昇して市街を見渡せば何やら慌ただしい動きをする一画がある。
「……うそだろ…!」
嫌というほど見覚えのある場所。
そして今やほぼ殆どの隊員が出払い、戦える職員など残されていない警備隊の支部。
何故あんなところに!
それとも初めから狙っていたのか――――あの子を!?
どれだけ執着してるんだ!!
地上でも最後の1羽を追って隊員達が駆けずり回っているのが見える。
急げ、とは言うまでもなかった。
気付けばライディーンはかつて僕が味わった事のない体感速度で空を駆け出していた。
そしてヒクイドリにあと僅かな距離と肉薄したところで、僕らの目の前で信じられない事態が起きた。
建物の奥に隠された筈の少女の姿が何故か詰所の出入口に現れ、それに気付いた巨鳥によって一瞬にしてその身が奪い去られてしまった。
「――――――シュシュ!!!!」
恐れていた最悪の事態。
これだけは避けたかったのに、どうして!
ギリ、と歯軋りをした瞬間、飛び立った巨鳥の爪の間でもがく小さな手足が目に入った――――まだ生きている!
ライディーンが怒りに我を忘れて雷を放ちかけるのを、慌てて制止する。
「よせライディーン!あの子を殺すつもりか!!」
力任せに雷を振るえばあの子もただでは済まない。
さりとてこのまま逃がせば確実にあの子が餌食になる。
――――――あの子が翔べたなら。
今こんな場面で思っても仕方のない事が頭を過った。
下手に仕掛けてあの子を落とされでもしたら一貫の終わりだ。
巨鳥はシュシュを手に掴んだままどんどん高度を上げてゆく。
『高度』―――――…。
「一か八かだライディーン!僕がヒクイドリの背に移るから君はその真下を飛んで、あの子が落ちた場合受け止めるんだ!」
ぐるるる。
了解の合図はごく短かった。
飛翔の速さは元より飛天の方が遥かに勝っている。あっという間にヒクイドリに追い付くとその真上を重なるように飛行、僕が乗り移るタイミングを計り始めた。
ギリギリまで身体を寄せてライディーンが前肢で巨鳥の尾羽に爪を引っかけた瞬間、僕が勢いをつけて赤い巨鳥の背に飛び移る。
風圧で自分の身体が流された瞬間死ぬかと思ったけど、どうにか踏ん張った。
一方ヒクイドリは突然背中に乗った異物を振り落とそうと激しく暴れだし、飛び方が酷く乱れ始めた。
この状態が長引けばあの子の体力が持たない。
高度が充分に足りている事を祈りつつ、僕は次の手段に移る。
腰の剣に軽く触れてから巨鳥の背に手を当て、得意技の“スタンガン”を浴びせる――――極力威力は落としたやつだ。
巨鳥がぶるりと震え、僅かにその飛行が乱れた。
巧くいったか――――?
あの子を掴んだままの状態で落ちるのだけは勘弁してくれ。
狙い通りヒクイドリは一気に墜落する様子も無く、痺れた身体でフラフラと辛うじて飛行を続けている。
僕の位置からだと爪に捕らえられたシュシュの姿が確認できないのが心配だ。
あと一押しか。
細心の注意を払い、触れた掌から微弱な電撃を流し込む。
暫くして、ふ、と掌の下の筋肉に弛みを感じ
、その巨躯が傾いだ。
赤い羽の合間から見えた、こぼれ落ちる白い小鳥。
「―――――――シュシュ!!」
間に合ってくれ――――!!
《 ぐおおおおおおおぉ―――――ん 》
雄叫びに含まれる喜色。
よし、やった!
……………は、いいんだけど。
自分の事まで考えてなかったよ、どうする僕。




