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67 君に告げる想い

それから僕は何度かライディーンと組んで夜の狩りを行った。


巷では『ヒクイドリ謎の墜落死事件』が相次いで、何か異変の前触れかと一時世間が騒然となったものの、王立の研究機関が乗り出して異変の兆候は見られないと断言したため、さしたる混乱も起きなかった。




暦は夏の第3の月、下旬。


一月以上に渡って続いた猛暑にも漸く終りが見え始めていた。


殿下は僕がライディーンと組んでせっせと夜の討伐に勤しむようになると、『ヒクイドリ謎の墜落死事件』の報告とその後始末をするべく中央に帰還して行った。

飛天の存在を公にしないままの、あくまで水面下での活動だったから色々と手回しが必要になったわけで。


そりゃ、あんな巨鳥もんがボタボタ落ちて来たら普通は恐慌状態になるわな。


救いだったのは南支部の連中が異様に図太い神経の持ち主揃いで、度重なる通報にも動揺を見せず冷静に対処したお陰で、市民も必要以上の不安を抱かずに済んだ事だ。





ほぼ平常通りの業務に戻った夏の昼下がり。

いつもの昼の休憩時間を中庭で膝の上の天使を愛でつつのんびりと過ごす。

暑苦しい真っ黒い巨体をなるべく視界から外すようにしながらひたすら癒しを求めていると、すぐ横にいた相棒がボソリと呟いた。


南支部うちの連中は色々と耐性がついてるからなぁー」


何の事かな?


「ひたすら剣で語りたがる戦闘狂の副長フクチョーとかニッコリ笑って外道な報復が常識な誰かさんとか、そこの四つ足最終破壊兵器とか」


………人間には柔軟性が必要なのだよ、相棒ノッティ


そして時には癒しも。


ヒクイドリの件以来めっきり笑顔が少なくなったシュシュ。

あまり表に出たがらず、たまに連れ出せば僕の傍を離れたがらない。今も膝の上でシャツの胸元をギュッと握り締めている状態だ。

いや、僕としては大歓迎なんどけど。まだどこか怯えが抜けきらない感じが心配だ。


ライディーンはシュシュのこの様子にすっかり消沈してジメジメと湿度の高い気配を漂わせ、鬱陶しい事この上ない。


一週間程前に最後の狩りをしてからこの方、ヒクイドリを見かけたという話は聞かない。

通常今の時季には南下しているものらしいから危険は去ったものと捉えていたんだけど。


――――未だに君を脅かすものがあるのだとしたら。

それこそどんな手を使ってでも、僕はそれを払う。


「…少し気分転換しようか、シュシュ」


視線だけで黒い獣を呼べばそれはトテトテと近付いて小さな少女の目の前で四肢を折った。

黒曜石のような翅がふわりと広げられ、騎乗を促すようにぐるる、と喉が鳴る。


「……おい。昼間からソレで飛ぶのか?すんげー目立つぞ」


「高度を上げれば平気さ」




黒い翅がブワリと風をはらんで、一瞬の後。

僕らは都市のはるか上空にいた。


「―――――――下を見てご覧、シュシュ。綺麗な街並みだろう?ずっと向こうに見えるのがルネス湖。前に行った所だよ」


小さな身体を腕に抱き込むようにしてしっかりと支える。ライディーンは間違ってもシュシュを落とすような真似はしないだろうけど、あんまり軽すぎる身体は風にさらわれてしまいそうだ。

――――姿形だけを捉えるなら幼い少女そのもののシュシュ。

だけど時折不意にかいま見えるかげりを帯びた表情かおは、この子がただ幼いだけの少女ではないと僕に教えた。


何より僕自身とっくに、シュシュが“子供”だとは思えなくなっていたし。


だからきちんと伝えなければならない。


『シュシュ……僕は、君が好きだよ』


腕の中の身体がピクリと跳ねた。

大きく見開かれた瞳が驚きに染まっている。


『君が誰でも―――――僕が誰でも、君が好きだ。これからもずっと一緒に暮らしたいんだ。…………傍にいてくれる…?』






































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