66 事後報告
「―――――――夕べ東支部の受け持ち区域で日没直後にヒクイドリによる襲撃があったようだ。11番隊の隊員二人が遭遇したと報告が来てる」
朝の顔合わせでクリムヒルトがそう話を切り出した。
今朝の顔触れは3隊長とその副長。それと何故か殿下とノッティが同席。
15番隊副長の不在についてはもう誰も突っ込みやしない。
「被害状況は家畜が二頭。それと牧場主の男性が腕に軽傷を負ったとの事」
「本当にたったそれだけの被害で済んだのか。居合わせた隊員はどうした?」
「二人とも無傷らしい。―――――その彼等がね、何だかおかしな事を口走っているそうなんだ」
「あぁ?」
クリムヒルトの勿体振った言い回しにガレの片眉が上がる。
さっさと言え――――と。
「ヒクイドリの対処に二の足を踏んでいたら突然雷が落ちて―――――この世のものとも思えない恐ろしげな生き物が現れた、とね」
小会議室に集まった面子の顔が一斉に硬くなる。
「姿が視認出来たのはほんの一瞬だったらしいが、それは馬に似た大きな黒い獣でヒクイドリを易々と引き裂いて屠り、てっきり次は自分達の番だと死を覚悟していたら、いつの間にかそいつは消えていたそうだ」
クリムヒルトの説明が進むたび次々と生暖かい視線が此方に向けられる。
「夜が明けてみたら実に十数羽の巨鳥の死骸が農場に散乱していたそうだよ」
あああ………視線が。
「……恐怖の余り幻覚でも見たんじゃないですか?」
「それじゃあ、南支部の人間は一夏中幻覚を見てるって訳だな」
「………………小僧……」
素直に白状するのも何だから適当に混ぜ返したら、ガレ隊長の突っ込みと追及するような爺っつぁまの視線が返ってきた。
………まあ、バレるよね。
どのみち隠せるとも思ってなかったけど。
この流れだと初めから飛天がらみと確信して殿下を同席させたのはクリムヒルト隊長で間違いないだろう。
手回しの良い人だ。
「…お前、昨晩は夜勤から外れていたな」
「昨日は日勤です。ズルはしてませんよ隊長」
寧ろ完全奉仕活動だ。しかも極力目立たないようにコソコソと。
「隊長殿…実は自分がスォードを焚き付けました」
「殿下が?」
「はい。なのでこの件に関して上から咎めが来ることはありませんから、ご心配なく」
ロードめ“焚き付けた”っていうのは騎士証の事か。
「別に焚き付けられたつもりも無いけど、利用はさせて貰おうかなと。ライディーンとも利害が一致した事だし」
「「「 利害… 」」」
複数がハモった。
「あの馬モドキとこいつの利害が一致する理由なんか一つきりっスよ」
「お嬢か…」
「大方怖がりな小鳥ちゃんの周りをうろちょろする蝿を追っ払ったぐらいの感覚なんじゃー?」
流石に相棒、鋭い。ほぼ正解だ。
「それにしてもあの巨鳥を十数羽一度に片付けるとは……流石は最終兵器とでも言うか。触らぬ神に祟りなしというやつだな!俺は金輪際絶対アレに近付かんぞ」
思わずガレが漏らした呟きに一同はすぐさま青い顔で首を縦に降り下ろす。
そこで話をシメておけば良いものを殿下が余計な一言を付け加えた。
「あれやったの多分スォードだと思うよ」
「……何…?」
全員が驚愕の表情で固まった。
「ライディーンが暴れたのならそれっぽちの被害で済むわけない。少なくとも辺り一帯焼け野原になってなきゃおかしいんだよ、そういう生き物だからね。スォードが手綱をとっただろ?」
「……人聞きの悪い。少しばかり手加減を交渉しただけですよ。お陰でアレが欲求不満起こして巨鳥の死骸に八つ当たりしまくって大変でした」
千切っては投げ、千切っては投げ。猫が獲物をいたぶるが如く執拗に引き裂いて。
息の根は一撃で止めてたから、死骸を散らかしたのは完全に欲求不満を発散させた結果。
僕の仕業じゃないし。
なんだか現場が余計に凄惨な感じになった気もするけど、実際の被害は抑えられた筈。
「………今頃現地ではどんな怪物が出たのかと大騒ぎになってるだろうよ」
「はぁ…スミマセン隊長」
だってしょうがないじゃないか。
下手に止めたりすれば此方の身が危ないんだから。
「バレたところで暫く単独行動の許可を下さい」
「まだやる気か…」
「次はもう少し上手く片付けますから」
「………いつまでだ」
「全滅させるまでです」




