59 先触れ
すみません、短いです…。
その瞬間、都市の遥か上空の空気が一瞬ざわりと蠢くのを感じ取ったのは唯一飛天のみだっただろう。
今の今まで上機嫌で天翅の少女を背にトテトテと歩いていたライディーンが、唐突にピタリと動きを止めた。
「ライディーン?どうかしたのか」
傍にいた殿下が声を掛けると何かを促すように身体を寄せた。
その眼には幾分鋭さが混じり、睨むように上を見上げて微動だにしない。
それでいて僕には馴染みのある感覚が徐々に膨れ上がるのが感じられる。
いけない―――――――このままでは。
「ロード!!その子を下ろせ、ライディーンが翔ぶ!!」
執務室の窓から身を乗り出すようにして大声で叫んだ。
―――――――臨戦態勢…何故!?
そのまま窓から表に飛び出せば、殿下がシュシュを受け止めるのとライディーンが飛び立つのがほぼ同時だった。
「――――何があった、ロード!ノッティ!」
「……それが全くわからないんだ。あの馬モドキの様子がいきなり変わって…」
訳が分からないといった感じで首を横に振る相棒。
殿下は呆然とした状態でシュシュを抱き留めている。
空を見上げれば黒い影が矢のような速さで駆け上が
って行く。
僅かな間があった後、雲ひとつない青空に飛天が放った雷が轟音と共に幾つも鋭い軌跡を描いた。
まさに青天の霹靂というやつだ。
「ロード、シュシュを連れて屋内に」
「…あ、ああ。分かった」
突然の雷に驚いた他の隊員や職員達も何事かと上を見上げている。
この分では街の方も似たような状況になっているだろう。
昼日中の空の上であれだけ暴れれば、既に多くの人目に触れてしまったのは間違いない。
遠目には天馬だと言って言い張れない事もないけど、あの雷だけは説明のしようがない。
数分後、市街地のど真ん中に空から大きな赤い鳥が落ちてきたと市民からの通報があった。
「これはヒクイドリ……!」
通報を受けて調査に出向いた隊員が、更に応援を呼んで回収してきたそれは僕が今まで見たことのない巨鳥だった。
人力では到底運べず、数人がかりで台車に乗せてから馬に引かせたらしい。
年長の隊員が呆然と呟くのを耳にして、僕は嫌な予感が的中した事を悟った。
「やっぱり北上してたのか……!」




