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42 僕の機嫌が悪い理由 ①

夏の第二の月、盛夏。


一年を通して温暖な気候に恵まれ、常に人口の倍近くの観光客を抱えるこの都市エムローザが最も賑わう季節。

都市警備隊が一年で最も忙殺される季節シーズンでもある。





僕は今、物凄く気分が悪い。


夏の暑さは人間をダメにする。

毎年の事だけど、気分は最悪だ。

元々開放的なお国柄のミスルギで《享楽の都》と謳われるだけあって、この時季のエムローザは毎日がお祭り騒ぎだ。


毎夜何処かしらで宴が催され、街の中心部から灯りが落ちるのは夜明け前のほんの一瞬だけ。


ある者は酒に、またある者は女に溺れて夜を過ごし、気が付くと翌朝無一文で通りに転がされている、なんて此処では珍しくもない話。


そのくらいならまだマシな方で、賭博場で全財産スッた挙げ句に他人の懐を狙い、犯罪者として“御用”になる輩も多い。


とにかく、他人のトラブルに首を突っ込むのが仕事の自分としては、厄介事激増で面倒臭さ十割増しの期間シーズンだ。




「ホンっとに俺は何も覚えてねぇんだって!言い掛かりもいいとこだぜ!」


「てめぇ…っ、よくも白々しい寝言を!妹にあれだけの真似をしておきながら!!」


「夜にフラフラ一人で出歩いてる女の方ががどうかしてるぜ。案外あんたの妹は男でも買いに出てたんじゃないのかぁ?」


「あいつはまだ12だ!そんなわけあるか!!」



婦女暴行未遂の通報を受けて、とある現場にやって来てみれば、一番苛つく展開が繰り広げられていた。


被害者の身内に取り押さえられた加害者の男は酒を理由にシラを切り通し、のらりくらりと逃げを打ち続けている。

警備隊が駆け付けているにもかかわらず、あまり焦る様子は見られない。

この“慣れた”感じ。絶対初犯ではあり得ない。

加えて被害者の少女は明らかに一目でまだ幼いと分かる顔立ち。

すっかり怯えきった様子で警備隊うちの女性隊員にすがり付いている。


………クサレ外道が。狙いやがったな。


「――――話は詰所でくぜ。とっとと歩いてくれ」


相棒ノッティが慣れた手付きで男を後ろ手に縛り上げ、逃走防止の腰縄をすぐ横にいた大柄な隊員の腰と結び付ける。


「おいおい勘弁してくれよ!どうせ拘束されるんだったら、そっちのキレイな姐さんの方に繋がれてぇや」


この期に及んで何ふざけた事を抜かしやがる。

そして、何故僕を見る?

そうかそうか、そんなに――――――命が要らないのか。


暴行未遂犯の男の能天気な発言に、警備隊員なかま達がビシリと恐怖の表情を張り付けた。


「あいつ…終わりだな」


「馬鹿が…」


ふふふふふふ。

よく分かってるじゃないか。


僕がゆっくりと手を伸ばせば、勘違いしたままの男はニヤニヤと鼻の下を伸ばしている。


「何だ姐さん…あんた随分でっか――――」


『バチッ!!』


夜だから思いっきり火花が飛んだ。


剣に触れた手で肩をひと撫での即席スタンガン。

威力は押さえてるからたいしたあとも残らない。


「あちゃー…」


仲間はそれなりのリアクションを取ってるけど、通りすがりの野次馬には男がいきなり倒れたようにしか見えなかったと思う。


「“それ”丁寧に担いでやる事なんかないよ。足掴んで引き摺ればいい」


「詰所に着く頃にゃ頭ボッコボコだな…」


「彼女の“傷”に比べたらどうってこと無いだろ」


この下衆野郎の行いが年端もいかない少女の心に、生涯消える事の無い傷を負わせたのは間違いようが無い。



「そりゃま、そうだ」


「こいつ、絶っ対楽には殺さない…」


((( 殺すんかい! )))


「………まずは取り調べだスォード。多分叩けばホコリが出る」


被害者の少女を女性隊員に任せると、僕らは一先ひとまず夜の街角を後にした。



















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