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37 ファーストコンタクト

「シュシュ、これは僕の友達でライディーン。ちょっとおっかない面構えだけど君の事が気に入ったみたいだから仲良くしてやって?」


シュシュを腕に抱き上げたまま、獣にあと数歩の距離の所まで近付いて話しかける。

いつものようにゆっくりとした口調を心掛けながら、空いている片方の手で獣を手招きして。


「ライディーン、この子は天翅てんしのシュシュ。事情があって今うちの隊で保護してるんだけど、僕の家族みたいなものだからおかしな真似はしないように」


ぐあぁぁ、ぎゅるるる。


返事だけは良い。

シュシュはまだおっかなびっくりの様子で僕の肩にかじりついたまま、黒い獣をじっと見詰めている。

まぁ、怖いよね。

馬というよりイメージ的にドラゴンに近い感じだし。

ドラゴン自体はこの世でも架空の生物だとされているから、実物を知る人間は居ないんだけど。

昔話や物語で悪役になったり反対に神様になったりもするところは、世界が違っても似ている。

人智を超えた力の象徴、みたいな感じで。


飛天コレも充分人智を超えてて非常識だけどね。


「んー?何か気になる?」


なんだかシュシュの視線がソワソワと獣の上を往復している。


「ライディーンの翅?触ってごらん噛みついたりしないから」


確かにちょっと珍しいかもね。

飛天の翅は羽毛じゃなくて薄い鱗が何層にも重なって出来ていて、艶のある硬質な翼は黒曜石のような耀きがとても綺麗だ。

滅多な事で人間に触らせたりはしないものだけど、寧ろ今は甘えモード。


……ヤンデレ?ヤンデレなのかライディーン。


そろりと小さな手が黒い翅を撫でると、獣の喉から嬉しそうな鳴き声がぐるる、と漏れた。


デレてる―――――――っ!




『怖ええええぇぇ―――――――っ!!

ナニあれエェ!!

不気味過ぎる!さっきまで地獄の使者だったじゃん!!』


うっかりデレる現場を目撃した隊員達の心の叫びが、聴こえてくるような気がした。







日暮れ直前になって朝方飛ばした鷹文の返信が支部に届いた。


王都プラティスで王城の守護の任に当たる白騎士隊の隊長から、何故か僕宛てで。

個人的な面識は無かったように思うんだけどな。

文書にざっと目を通せば、『後生だからなんとか飛天を宥めて王城に戻るように説得してほしい』と切々たる文章が綴られ、なんだったら騎乗も許可するから直接城に届けに来てくれ、とも付け加えられていた。


どうやら未だにライディーンのお眼鏡に叶う騎手はいないらしい。

難儀な事だ。


「それでどうする気だ」


隊長の言葉に執務室のデスク周りに集まっていた副長と相棒ノッティの視線が僕に集中する。


「説得の方向で。アレに跨がって王城に乗り付けたりしたら、えらい面倒な事になりそうなんで」


「だろうよ。正規の騎士が手も足も出せない怪物を、一介の地方役人程度の身分の人間が好きにあしらってりゃあ、騎士団の連中は面子丸潰れだ」


ニヤニヤと面白そうに混ぜ返すな、中年。


「……そもそもアレが人間の思惑通りに動くと思う方が間違ってる気がするんですがねぇ」


「ノッティの言う通りだよ。ライディーンは誰の言うこともきかないし、たまたま先代の王とは気が合っただけで、先代も飛天の力を利用しようと考えてたわけじゃ無い。天災級の力を持つ生き物をただの人間がどうこう出来るわけがないだろ」


「……それを城の連中が解ってりゃいいがなァ」


中年オッサンとは心底気が合わないけど、こればっかりは僕も同意見だ。


因みに中年はまだ電撃喰らった影響で片足を引き摺っていて、そのせいでさっきはシュシュの脱走を阻止し損ねたと見える。


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