3 天然です
ミスルギ国内で奴隷の売買が禁止されたのはほんの20年位前の事。
だからかつて財産として多くの奴隷を抱えていた富裕層の中には、未だにその決まり事に不服を唱える者もいる。
国によっては公的に奴隷の所持が認められている場合もあるから尚更だ。
欲しがる者がいれば法の目を掻い潜ってでも高値で売り付けようとする者がいるのは、有りがちな話だ。
15番隊ではかなり前から人身売買の摘発に力を入れていて、独自のルートから情報を得たりしながら常に目を光らせている状態が続いている。
取り引きに使われる可能性の高い屋敷に既に何軒か目星をつけ、子飼の情報屋に幾らか金を握らせてそれとなく様子を伺わせていたら、案の定動きがあった。
現場は意外にも華やかな表通りに面した建物の密集地。
情報を得てから数日間張り込みに徹し、漸くはっきりとした動きが表れたのを合図に、日没を待って捕り物が決行される事になった。
「―――――予定通り配置に付け!一人も逃がすな!」
「灯りが落ちたら絶対にその場を動くな!スォードの邪魔になる、奴に任せろ!!」
丸投げな発言はヴォルグ副長か。
珍しく現場で指揮を取るかと思えば……。
良いけどね。実際その方が助かるし。
狭い建物の中で乱戦になると敵味方区別なく被害が増大する。
まして今回は無傷で保護しなければならない対象がいる。
相手に剣を抜く隙を与えずに制圧するのが最善だ。
あらゆる出入口を押さえ、突入と同時に全員が建物内の灯りを片っ端から消して回る。
シャンデリアや燭台はもとより卓上のランプひとつに至るまで全て。
奴隷売買の会場となった場所が建物内の地下ホールだった事もあり、辺りは今や完全な闇に包まれている。
この状態では通常お互い手も足も出せないところだけど、『僕』にはちゃんと見えている。
「――――――灯りが消えた!?」
「いったい何がどうなってるんだ!」
売人側の連中や客が一斉に騒ぎ出した。
室内をぐるりと見渡すと15人ほどの小さな人影が一塊になってしゃがんでいるのが見える。
あれが今回の『商品』らしい。
まだかなり幼い体つきの子供たちばかりだ。
――――間違いなく、ろくでもない手段で連れ去られて来たに違いない。
そう思ったら、頭の芯がスッと冷えた。
絶対地面に這いつくばらす。
ざらつく気分を押さえて、なるべく冷静な声で子供たちに向けて話しかける。
「―――――君たちはちょっと、そのままじっとしててくれるかな?危ないから」
万が一を考えると剣は抜かない方が良い。
ならば、素手か。
野郎なんぞに触りたくはないが、確実に昏倒させるなら急所に一撃入れるのが一番だ。
《ノートルディアから見た事後》
「―――――もう灯りを付けていいよ」
暗がりの向こうから聞こえたスォードの言葉を合図に、隊員達が自ら消して回った照明器具にもう一度灯をともす。
作戦とはいえ完全な暗闇の中は極度の緊張を強いられる。
どこかホッとした心持ちで明るさが戻った室内を見渡せば、かなりの人数が床に倒れ伏している。
予想はしてたけど、これは…。
「スォード、随分当て落とした数が多いけどこれほんとに全部売人側の連中なのか?」
「さぁ?取り敢えず見るからに怪しいのと帯剣してる奴、あと気に食わない奴を沈めといた」
「……気に食わないって………お前さんね」
「優しくしただろ?剣も抜かずに撫でただけ!」
実にイイ笑顔でさらっと外道な発言が!
こーいう奴だよ…!
「因みに気に喰わなかったポイントは?」
「ハゲ。それとデブ」
乙女か、己は!!
ノートルディア⇒ノッティは愛称です。