1 切望するもの
久々の投稿作です。ひたすらイチャイチャする話が書いてみたかったんです…!
まだ道は遠いですが。
可愛いは正義。
―――――――自分は『可愛いもの』が好きだ。
さらにそれが小さくて柔らかくてふかふかだったりしたら、もう無敵だと思う。
きゅうっと抱き締めて、頬擦りして、思う存分撫でくりまわして。
自分がそう言うと大抵の人間がドン引きするから滅多に口にしないけど。
『似合わない』
これが大方の身内や友人の見解であるのは知っているけど!
いいじゃないか!女なんだし!
可愛いものが好きで何が悪い。
たとえ183センチの巨女だろうと、体育会系の筋肉女子だろうと!
『私』は、可愛いものが大好きだ。
季節は秋、台風一過の翌朝。
昨日の大荒れが嘘のような、憎らしいまでに晴れ渡った空。
今朝はいつもの朝稽古の変わりに道場の掃除と庭の片付けを手伝わされ、登校時間ギリギリになって家を飛び出す破目になった。
「うわっ!ヤバい遅れる」
年代物の木造の家屋が恨めしい。
近年リフォームした母屋はともかく、爺さまが趣味でやってる空手の道場は昭和初期そのままの佇まいで、とにかく古い。
嵐の度に瓦が飛ぶため、当然の如く雨漏りがするのだ。
毎回その後片付けに駆り出されるのは、あまりありがたくない。
玄関を出た辺りで「蘇芳~弁当忘れてるぞ」とか呼び止める声が聞こえたけど、この際諦めた。
毎朝バス停で待ち合わせしてる幼なじみが気にかかる。
体育会系一家に生まれ、ことごとく脳筋と化した兄三人に囲まれて自らも立派な筋肉女子に育った自分とはかけ離れて、あの子は小さくて華奢だ。
ちょっと目を離すとすぐに男どもがちょっかいをかけたがるから困る。
だから虫除けのつもりで一緒にいることが多いんだけど、お互い私服の場合ほぼカップルに見えているらしい。
………デスヨネー。
広い肩幅、筋肉質で柔らかさの欠片も見当たらない身体。
わりと濃ゆいパーツが揃った顔はクラスメイトには『イケメン!』と好評を博しているものの、女としてはどうよ?と泣きたくなる代物。
おまけに女子高とあっては日々浮きまくり、というか最早晒し者でしかない。
183センチの身長で可愛らしいスカートの制服は痛いコスプレにしかならず、女装男子疑惑が常について回る。
せめてもの抵抗に肩まで伸ばした髪も、イマドキのチャラ男なら珍しくもないスタイルで、何ら女らしさの追加ポイントにはなっていない。
くそぅ。
御門家の遺伝子が憎い!
自分だってちっちゃく可愛く生まれたかったさ!
生まれ変われるなら、今すぐにでも!
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「おい、スォード」
不意に肩を軽く揺さぶられ、仕事中についうとうと居眠りをしかけていた自分は一気に覚醒した。
「うぁ…眠ぃ………。臨界点超えそー…」
「は?ナニわけの解んない寝言いってんの。限界なら他の奴と見張り交代すれば?長期戦なんだし」
というか、今一瞬爆睡してなかったか、自分。
なんか変な夢まで見てた気がするし。
春眠暁を覚えず、というやつか。
「……いい。いま寝たらいざというとき起きられる自信が無い」
「勘弁してくれよー。今回の捕り物はお前が真打ちなんだからさぁ。他の隊の連中に手柄横取りされたら今までの苦労が水の泡じゃないか」
それはそうだ。
大小様々な国が乱立する現在の大陸中央諸国の中においても、このミスルギ国は小国ながらわりと重要な位置を占めている。
交易で財を成した商人が建国の祖となり国を興して以来数百年間、一度も他国に膝を折った事が無いのだ。
戦の度に領土が書き換えられることも珍しくない世の中で、生粋の商人である王族たちはその財力知力の持てる限りを尽くして自治を守り通し、国民からは海千山千の強者と讃えられている。
一方で他国からは“煮ても焼いても喰えない狸の親玉”と評されているのも国民納得の事実だ。
そんなこんなで栄える場所には人も物も集まる。
そして人が集まれば厄介事も増える。
そのためミスルギ国の主だった商都には治安維持と犯罪取り締まりの為の組織として『都市警備隊』が置かれていて、自分は現在国内五大商都の1つであるここエムローザの都市警備隊に平隊員として所属している。
只今絶賛任務中。