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しまなみの魔女〜世界最強のS級魔導師は弟子=仲間と共にしまなみの空を翔ぶ〜なろうVer.  作者: 通りすがりのしまなみライダーTAKA☆
prologue

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Episode 00 『紫電の魔女』

挿絵(By みてみん)


■しまなみの魔女、飛翔


 夜の来島海峡大橋。


 巨大な吊り橋を支える白い主塔が、黒い海面へ淡い光を落としていた。


 瀬戸内海を渡る潮風は強い。


 橋上を吹き抜ける風が、海面へ映る照明を細かく揺らし、まるで無数の星が海へ沈んでいくようだった。


 本来ならば穏やかな夜景が広がるはずのその場所は、今――禍々しい魔導光に侵されていた。


 橋の中腹。


 立入制限区域。


 そこでは、ノーライセンス魔導師集団『斑鳩』が巨大な魔方陣を展開していた。


 赤黒く脈動する術式が、海峡上空に張り巡らされた国家級防衛術式――『海峡結界』へ侵食を始めている。


 青白く安定しているはずの結界光が、まるで悲鳴を上げるように明滅していた。


 術式干渉。


 結界破壊。


 それはすなわち、西日本魔導網そのものへの攻撃を意味していた。


 警報音が鳴り響く。


 『警告。来島海峡第七魔導制御塔、術式崩壊率48%到達』


 『周辺住民は直ちに避難してください』


 『繰り返します――』


 無機質なアナウンスが夜の橋へ反響する。


 その声を嘲笑うように、斑鳩の男が狂気じみた笑みを浮かべた。


 「ハッ! 見ろよ!! 国家様ご自慢の海峡結界が悲鳴上げてるぜ!!」


 巨大魔方陣がさらに拡大する。


 空気が震えた。


 橋全体が低く唸る。


 赤黒い魔導光が主塔を不気味に照らし出し、瀬戸内の穏やかな夜景を侵食していく。


 「これで西日本魔導網は終わりだ。しまなみ海道ごと吹き飛べ――!!」


 その瞬間だった。


 静かな声が、夜空から降ってくる。


 「――干渉術式《マテリアル・キャンセラー》」


 澄んだ声。


 だがその一言だけで、空気が変わった。


 暴走していた魔力の奔流が、一瞬だけ静まる。


 まるで夜そのものが息を呑んだかのように。


 「展開します」


 別の声。


 機械的でありながら、どこか落ち着いた女性音声。


 次の瞬間。


 夜空を裂くように、紫の光が広がった。


 巨大魔方陣へ幾重もの紫電が走る。


 バキン――!!


 まるでガラスが砕け散るような音と共に、斑鳩の術式が一瞬で霧散した。


 赤黒かった魔導光が消え、瀬戸内の夜が再び本来の色を取り戻していく。


 「なっ!? 馬鹿な!!」


 男が目を見開く。


 「ここまで魔力を溜めた術式が一瞬で!?」


 橋の向こう。


 紫の光を纏った一台の魔導バイクが、静かに姿を現す。


 浮遊型魔導機。


 Type-WS。


 漆黒と紫で構成されたその機体は、まるで夜そのものを切り取ったようだった。


 タイヤは存在しない。


 浮遊術式によって橋上数センチを滑るように移動するその姿は、現代に蘇った“魔女の箒”そのものだった。


 機体周囲では、紫の粒子光が尾を引くように漂っている。


 そしてその上に跨る、一人の女性。


 長い黒髪を夜風になびかせながら、彼女は優雅に微笑んだ。


 「うふふ、キャンプファイヤーにしてはいささか派手ねぇ」


 「……っ!」


 斑鳩の男の顔から血の気が引く。


 あの紫の魔導光。


 あの異常な干渉演算。


 知らぬ者など居ない。


 「ま、まさか……!」


 男が震える声を漏らした。


 「S級魔導師『紫電(しでん)』……『しまなみの魔女』かっ!?」


 『紫電』こと水野(みずの)志保(しほ)は小さく首を傾げる。


 「あらあら。私のコードネームは『紫電』だと言うのに、いつの間にそんな二つ名が付いたのかしら?」


 だがその微笑みとは裏腹に。


 その場を支配する圧力は、絶望的だった。


 橋上を吹き抜ける風すら、彼女の前では静まっているように見える。


 斑鳩の男が怒鳴る。


 「うるせぇ!! 紫電だろうがしまなみの魔女だろうが、ここで潰せば問題無ぇだろ! お前達、やれ!!」


 次の瞬間。


 無数の攻撃術式が一斉に志保へ放たれた。


 炎弾。


 雷撃。


 氷槍。


 光弾。


 夜の橋上が、一瞬で戦場へ変わる。


 赤。


 青。


 白。


 無数の魔導光が橋上を埋め尽くした。


 「防御術式(プロテクション)展開」


 黒猫型ホログラムAI――kuroが静かに告げる。


 志保の肩口へ、黒猫のホログラムが淡く投影されていた。


 金色の瞳が静かに輝く。


 だが。


 志保は避けなかった。


 轟音。


 爆炎。


 集中砲火が彼女を飲み込む。


 衝撃波で橋上の空気が激しく揺れ、海面へ巨大な波紋が広がった。


 「や、やったかっ!?」


 煙が晴れる。


 そして。


 そこに立っていたのは――。


 無傷の志保だった。


 紫色の多層障壁が、ガラス片のように空中へ砕け散っていく。


 「やれやれ」


 彼女は肩を竦める。


 「こんな火の粉じゃ、防御すら必要無かったわね。kuroさん、少し大袈裟じゃないかしら?」


 「そうは言っても、マスターをお守りするのが我が使命なので」


 「仕事熱心なのは良いけれど……少しは肩の力抜いた方が良いわよ? うふふ」


 「……善処します」


 斑鳩の面々が絶句する。


 「む……無傷!? だと!?」


 志保はゆっくり歩き出した。


 ヒールの音が、橋上へ静かに響く。


 コツ。


 コツ。


 その音だけで、斑鳩の面々は思わず後退っていた。


 「基本がなってないわね」


 紫の瞳が細まる。


 「私の弟子……いえ、仲間の方がもっとやるわよ?」


 「ま、まだだ!! 攻撃を魔女に集中しろ!!」


 再び無数の術式が放たれる。


 だが。


 志保がパチンと指を鳴らした瞬間。


 全ての攻撃が空中で霧散した。


 まるで最初から存在していなかったかのように。


 「な、何ぃ!? 攻撃が……消えたっ!?」


 「演算妨害よ」


 志保は微笑む。


 「貴方達の攻撃は、最初にわざと当たった時点で既に解析済み。この程度の術式、三世代前の暗号化より脆いわ」


 つかつかと歩きながら。


 「そんな訳で、私にはもう貴方達の攻撃は通用しないわ」


 「マスター、最初から攻撃は効いてませんが」


 「あらあら、うふふ! そうだったわね」


 「舐めるなぁぁぁ!!」


 斑鳩のメンバーは魔導具を捨て、銃器へ持ち替えた。


 無数の銃声。


 火花。


 だが弾丸は全て、志保の周囲で静止する。


 透明な多層防壁が、微かに紫光を放っていた。


 停止した銃弾が、夜空へ無数に浮かぶ。


 「あらあら、最後にそんな物に頼るなんて、魔導師が聞いて呆れるわね」


 そして。


 志保の周囲へ、無数の魔方陣が展開された。


 一つや二つではない。


 数百。


 橋の上空を埋め尽くすほどの超高速多重展開。


 紫の魔方陣群が夜空を覆い、まるで巨大な天蓋のように海峡上空へ広がっていく。


 「じゅ、術式を全方位でだと!?」


 「こ、これを無詠唱で!?」


 「こ、これがS級……!」


 志保は静かに微笑んだ。


 「私に傷を付けたければ、せめてこの位やりなさい」


 「攻撃術式(バイオレット・レイ)」


 次の瞬間。


 紫の閃光が夜空を染めた。


 無数の光線が一斉照射される。


 その光は、まるで夜の海峡へ降り注ぐ紫色の流星群だった。


 橋上が白く染まり、瀬戸内海の海面へ巨大な光の筋が幾重にも走る。


 だが。


 その威力は精密に制御されていた。


 派手な破壊を伴いながらも、致命傷には至らない。


 それこそが。


 水野志保という魔導師の恐ろしさだった。


 「ば……化け物……」


 斑鳩の男達が次々倒れていく。


 志保は静かに目を細めた。


 「ええ、そうかも知れないわね」


 その時だった。


 背後。


 橋脚付近の陰で、一人の男が舌打ちした。


 竜頭の構成員。


 今回、斑鳩を裏から唆していた男だった。


 黒いロングコートを翻しながら、男は後退る。


 「冗談じゃ無ぇ!! ここでS級なんか相手にしてられるか!!」


 男は用意してあった魔導バイクへ飛び乗った。


 機体後部の違法魔導炉が、禍々しい赤光を放つ。


 通常ならあり得ないほどの高出力。


 完全な違法改造機だった。


 「逃がさないわよ?」


 志保が静かに告げる。


 だが男はそのまま橋上から飛び立った。


 重力制御術式によって浮遊した機体が、来島海峡上空へ一気に加速する。


 海風が爆発的に吹き荒れた。


 「kuroさん、中央魔導局に連絡して橋の上の人達を全員拘束して! 私はあの男を追いかけるわ!」


 「ラジャー! マスターも気を付けて下さい」


 志保はType-WSへ軽く手を添える。


 機体表面へ紫色の術式ラインが走った。


 低く澄んだ駆動音。


 空気が震える。


 「kuroさん、これから飛ぶルートにドローンとか無い?」


 「オールグリーン。周辺空域の民間飛行体反応なし。いつでも行けます」


 志保が妖艶に微笑む。


 「Type-WS――飛翔!!」


 「フライトモード起動します」


 次の瞬間。


 Type-WSの外装が展開した。


 浮遊術式ユニットが変形し、紫の魔導光が機体各所から噴き出す。


 橋上へ魔力の風が吹き荒れた。


 そして。


 Type-WSは紫の尾を引きながら夜空へ飛び立つ。


 その姿はまるで、夜の海峡を駆ける流星そのものだった。


 遥か下では、来島海峡を行き交う貨物船の灯りが小さく揺れている。


 瀬戸内海の闇を切り裂きながら、二台の魔導バイクが夜空を駆け抜けていった。


 一方、先行する竜頭の男は背後を振り返りながら安堵する。


 「へへへ……撒いたか?」


 違法魔導炉を最大出力まで回した機体は、既に通常魔導バイクでは追従不可能な速度域へ到達していた。


 赤熱した違法術式炉が唸りを上げ、機体後部から火花混じりの魔導粒子が吹き出している。


 普通なら、とっくに振り切れている距離だった。


 だが。


 次の瞬間。


 男の視界へ、紫色の閃光が映り込む。


 「――速っ!?」


 男の表情が凍り付いた。


 離したはずの距離を、Type-WSが一瞬で詰めてきていたのだ。


 空気を裂くような紫の残光。


 違法改造機すら置き去りにする異常加速。


 Type-WSは海峡上空を滑るように飛行しながら、瞬く間に男の真横へ並び立つ。


 「うふふ、見ぃ付けた♡」


 「なっ!?」


 志保はまるで散歩中に知人を見付けたかのような軽い口調で微笑んでいた。


 だが、その紫色の瞳だけは獲物を逃がさない猛禽のように鋭い。


 「悪ノリし過ぎです、マスター」


 「もう! kuroさんは本当にいけずねぇ」


 男は叫びながら違法魔導具を展開した。


 赤黒い魔方陣が複数展開される。


 次の瞬間。


 無数のホーミング弾が夜空を埋め尽くした。


 尾を引く魔導弾が、まるで巨大な群れとなって志保へ襲い掛かる。


 「マスター!!」


 「大丈夫よ!!」


 そして。


 志保は笑っていた。


 紫の残光を描きながら、Type-WSが夜空を舞う。


 急上昇。


 急旋回。


 急制動。


 常識外れの機動。


 まるで重力そのものを無視したようなマニューバ。


 ホーミング弾がまるで追い付けない。


 その軌跡は、夜空へ巨大な魔法陣を描いているようだった。


 紫の光跡が幾重にも交差し、瀬戸内の空へ幻想的な紋様を刻んでいく。


 「なっ!? 何だあの出鱈目なマニューバはっ!?」


 男の声が裏返る。


 Type-WSは弾幕の隙間を紙一重で擦り抜けていく。


 時には機体を垂直に捻り。


 時には海面スレスレまで急降下し。


 時には弾幕そのものを踏み台にするような軌道で空を舞う。


 その姿は、まさに“空を翔ぶ魔女”だった。


 夜の瀬戸内海を背景に、紫の残光が幾重にも交差する。


 それはもはや戦闘機動ではない。


 空そのものを支配する舞だった。


 「私が逃がさないって言ったら絶対よ!」


 「その言葉を使ったのは今回の件が初めてですが?」


 「もう! kuroさんったらいちいち細かいわねぇ!」


 さらにホーミング弾が放たれる。


 赤黒い光が夜空を埋め尽くし、海峡上空を凶悪な弾幕が覆った。


 だが。


 志保は笑みを崩さない。


 Type-WSはまるで生き物のように空を滑り、ホーミング弾を次々と回避していく。


 紫の光跡が夜空へ円弧を描き、その度にホーミング弾同士が激突し合った。


 爆発。


 閃光。


 衝撃波。


 その光が海面へ映り込み、黒い瀬戸内海を妖しく染め上げる。


 「クソっ!! 何で当たらねぇ!!」


 男は叫びながらさらに出力を上げた。


 違法術式炉が悲鳴のような高音を上げる。


 機体各所から火花が散り始めていた。


 志保は呆れたように肩を竦める。


 「貴方の魔力とその機体、あと数分も持たないんじゃないかしら?」


 「う、うるせぇ!!」


 男は無理矢理スロットルを捻り込む。


 だが次の瞬間。


 機体後部で小規模な爆発が起きた。


 バチバチッ――!!


 赤黒い火花が夜空へ散る。


 「なっ!? 魔力が!!」


 違法術式炉の出力が急激に低下していく。


 浮遊制御術式が乱れ、機体高度が不安定に揺れ始めた。


 Type-WSの横でそれを見ていた志保が、小さくため息を吐く。


 「だから言ったのに」


 男の魔導バイクが失速する。


 海面へ向かって機体が傾いた。


 「う、うわぁぁぁぁっ!!」


 眼下には、真っ黒な来島海峡。


 高速潮流で有名な海域だ。


 この高度から落ちれば、まず助からない。


 だが。


 志保は静かに右手を掲げた。


 紫色の魔方陣が夜空へ展開される。


 「重力制御《グラビティ・コントロール》」


 瞬間。


 落下していた男の機体が、不自然なほどゆっくりと減速した。


 まるで見えない巨大な手で包み込まれたかのように。


 荒れていた機体姿勢すら強制的に安定化されていく。


 男は恐怖に染まった顔で周囲を見回した。


 完全に。


 自分の生殺与奪を、この魔女に握られている。


 その事実を理解したのだ。


 「まぁ、ただでさえ燃費の悪いフライトモードで、更に燃費の悪い違法魔導具連発したらそうなるわよね」


 志保はゆっくりと男へ近付く。


 Type-WSが静かに浮遊し、紫の粒子光を周囲へ漂わせていた。


 遥か後方では、来島海峡大橋の照明が静かに輝いている。


 その幻想的な光景の中で。


 志保は優雅に微笑んだ。


 「さて……私は中央魔導局S級嘱託魔導師『紫電』水野志保よ」


 そして。


 悪戯っぽくウインクする。


 「貴方を魔導テロ幇助の疑いと違法魔導具所持の現行犯で拘束します。もうおいたは駄目よ? うふふ」


⸻


 ■ 戦いの後


 中央魔導局へ竜頭構成員の身柄を引き渡した頃には、橋上の騒ぎもようやく落ち着きを取り戻し始めていた。


 白と青の術式灯を回転させた中央魔導局の大型輸送車が、来島海峡大橋の車道を次々と走り抜けていく。


 拘束された斑鳩のメンバー達は、拘束術式付きの魔導手錠を嵌められたまま、局員達によって回収されていた。


 崩壊寸前だった海峡結界も、現地技術班による緊急修復が始まっている。


 橋上の各所に浮かぶ青白い制御魔方陣。


 点滅していた結界光は徐々に安定を取り戻し、海上へ淡い光を落としていた。


 瀬戸内海を吹き抜ける夜風が、戦闘の熱をゆっくりと攫っていく。


 その時だった。


 遠くから聞こえてくる元気な声。


 「志保さ〜ん!! お〜い志保さ〜ん!!」


 志保が振り返る。


 橋上の向こうから、三条の魔導光が一直線に近付いてきていた。


 ――蒼。


 ――銀。


 ――翠。


 それぞれ異なる魔導粒子を尾のように引きながら、三台の魔導バイクが滑り込んでくる。


 先頭を走っていた結が、ブレーキと同時に浮遊術式を解除した。


 ふわり、と機体高度が下がる。


 その内の一人、瀬戸(せと)結(ゆい)は軽やかに地面へ降り立つと、潮風で乱れた髪を押さえながら笑った。


 「いや〜相変わらずの手並みだったねぇ」


 その隣では、橘(たちばな)凛(りん)が静かに愛機から降り立っている。


 鋭い視線で戦闘跡を見回しながら、彼女は橋上へ残された焦げ跡を軽く蹴った。


 「最後に魔導バイクで逃げた人、涙目だったんじゃない?」


 「そうやなぁ」


 伊吹(いぶき)彩花(あやか)も魔導バイクのサイドユニットを収納しながら苦笑する。


 「敵ながら少〜し同情してしもうたわ。本当にほんの少しやけどな!」


 夜風が吹き抜ける。


 四人の髪と衣装を揺らしながら、海峡の潮の香りが橋上を流れていった。


 つい先程までS級魔導師同士の戦争じみた魔力が渦巻いていたとは思えないほど、そこにはどこか穏やかな空気が流れていた。


 志保はType-WSから軽やかに降り立つ。


 機体周囲へ漂っていた紫の粒子光が、夜空へ溶けるように消えていく。


 「あらあら、うふふ。貴女達来てたのね!」


 「だって悠真くんに志保さんの戦いの撮影の手伝い頼まれてたし。ねぇ」


 結が手にした魔導スマホをひらひら振る。


 その背後では、小型撮影用式神ドローンがまだ数機ほど橋上を飛び回っていた。


 「そうそう。前に志保さん戦った時に威力強過ぎて式神ドローン全滅させちゃったじゃ無い」


 凛が呆れ半分で肩を竦める。


 「中央に提出する記録映像やもんなぁ」


 彩花も苦笑する。


 「あの時撮影中断したから提出出来ないって悠真のヤツお冠やったで〜」


 「あ、ああ……確かそうだったわね」


 珍しく志保の頬へ冷や汗が流れる。


 その姿を見て、三人は思わず吹き出した。


 つい先程まで橋上を支配していた“しまなみの魔女”の威圧感はどこへやら。


 今の彼女は、年下達に少し困らされている優しいお姉さんそのものだった。


 結は魔導スマホを操作する。


 空中へ淡いホログラム画面が展開された。


 「悠真く〜ん、撮影の方はどうだった?」


 その頃。


 水野邸。


 リビングの一角では、複数のホログラムモニターが空中投影されていた。


 そこへ映し出されているのは、先程までの戦闘映像。


 悠真は六壬式盤を模したタブレット型端末を操作しながら、式神ドローンの記録映像を高速チェックしていた。


 彼の周囲では、紙人形型の小型式神達が忙しなく飛び回っている。


 「うん、バッチリ」


 三浦(みうら)悠真(ゆうま)は映像を切り替えながら頷いた。


 「志保さん今回出力抑えてくれてたし、これなら提出出来るよ」


 「私も撮影してたんだけどどうだった?」


 「結ちゃんのだけブレまくってたよ?」


 「あう!?」


 結は思わずスマホを抱き締めた。


 どうやら興奮し過ぎて、術式手振れ補正を切ったまま撮影していたらしい。


 「ご、ごめんね?」


 「大丈夫」


 悠真は小さく笑う。


 「式神ドローンの映像だけで充分提出出来るから。また次回頑張ろう?」


 「……悠真くんって優しいね」


 「!!」


 悠真の手が止まる。


 数秒固まった後。


 「……そ、それじゃ切るね! お疲れ様!!」


 慌てるように通話を切った。


 通信終了。


 静かになった部屋で、悠真は深くため息を吐く。


 「……あの子は本当に心臓に悪い」


 小さな式神達が、そんな悠真を見てくすくす笑うように周囲を飛び回っていた。


 その頃。


 来島海峡大橋では撤収作業が終わり始めていた。


 橋上の警告灯が一つ、また一つと消えていく。


 海峡結界の光も安定し、夜の瀬戸内海へ静かな輝きを落としていた。


 志保は空を見上げる。


 「さ、結さん。帰ってお茶にしましょうか」


 「うんっ!!」


 四人は再び魔導バイクへ跨った。


 浮遊術式起動。


 橋上へ魔導光が走る。


 ――紫。


 ――蒼。


 ――銀。


 ――翠。


 それぞれ異なる光が、夜の来島海峡大橋を滑るように駆け抜けていった。


 遥か下では、貨物船の灯りが小さく揺れている。


 潮流の音。


 風を切る音。


 そして魔導バイクの低い駆動音だけが、夜の瀬戸内へ響いていた。


 「……それにしても、毎回毎回中央に記録映像提出って面倒ねぇ」


 志保がぼやく。


 「……それは仕方が無いんじゃない?S級って言ったら国家戦術クラスだし」


 凛が冷静に返す。


 「そうやなぁ。まぁそれだけ責任が重いと思うて諦めい。ましてや姉さんが今治に住む為の条件なんやろ?」


 「……まぁ、それもそうなんだけどね」


 志保は夜空を見上げる。


 来島海峡大橋の照明が、彼女の紫色の瞳へ静かに映り込んでいた。


 (雄大さん……あなたの故郷のこのしまなみの地で、私は弟子達……ううん、仲間と一緒に生きているわ)


 潮風が優しく黒髪を揺らす。


 (立場が立場だから、スローライフと言う訳にはなかなかいかないけれど――)


 紫の瞳が柔らかく細まった。


 (あなたの愛するこの土地の人々は、きっと守ってみせるから。安心して見ててね)


 そして、話は半年前に遡る。


 これは。


 喪失を抱えた一人の最強魔女が。


 弟子=仲間達と共に、瀬戸内の空を守っていく物語。


 To be Continued...


挿絵(By みてみん)

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