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過去と未来を繋ぐ者達へ  作者: 卵飯好男
【バルカン王国編】第1章「知らない世界」

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第1話 いつも通りの日

自分とは一体何なのか。その答えを探すために僕たちは今も歩み続ける。

「なあ朝陽、今日どうする?」


「どうするって?」


「このまま帰んのも暇じゃね?」


 夕方の駅のホーム。


 学校帰りの高校生や仕事帰りの会社員が行き交う中、高田瑞輝が俺の隣でそんなことを言った。


 俺――真白朝陽は、スマホから顔を上げる。


「いや、俺は帰るけど」


「は? 付き合い悪っ」


「昨日も付き合っただろ」


「昨日は昨日。今日は今日」


「無茶苦茶だな、お前」


 瑞輝は昔からこうだ。


 思いついたら、とりあえず口にする。


 その後のことなんて大して考えていない。


「カラオケ行こうぜ、カラオケ」


「また?」


 少し離れたところから、木内麗奈が呆れた声を飛ばした。


「昨日も行ったじゃん」


「だから昨日は昨日だって」


「それ朝陽にも言ってたけど、全然説得力ないからね」


「じゃあボウリング」


「もっと嫌」


「なんでだよ!」


「瑞輝、うるさい」


 麗奈の隣に立っていた村井瑠奈が、小さく笑う。


 その横では河野京介が我関せずといった様子でスマホを触っていた。


 いつもの五人。


 特別なことなんて何もない。


 学校が終わって、駅まで一緒に歩いて、電車を待つ。


 誰かがくだらないことを言って。


 誰かがそれに突っ込んで。


 そんな毎日。


「京介は?」


 瑞輝に話を振られ、京介がスマホから顔を上げた。


「帰る」


「即答すんなよ!」


「明日提出の課題あるだろ」


「あ」


「忘れてたの?」


 麗奈が半眼になる。


「……朝陽」


「見せねえぞ」


「まだ何も言ってねえだろ!」


「顔に書いてある」


「友達だろ!?」


「友達だから言ってんだよ。自分でやれ」


「瑠奈ぁ」


「私も見せないよ」


「麗奈」


「絶対嫌」


「京介」


「断る」


「俺、友達いないかもしれん」


「四連敗だな」


「朝陽お前、覚えとけよ」


「なんで俺だけ」


 思わず笑う。


 たぶん明日になれば、また同じような話をする。


 瑞輝は結局課題を忘れて、京介あたりに怒られて。


 麗奈がそれを見て笑って。


 瑠奈はその隣で困ったように笑う。


 俺も、そこにいる。


 それだけだ。


 ホームにアナウンスが流れた。


『まもなく――番線に、電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください』


 周囲の人たちが少しずつ動き始める。


 俺もスマホをポケットへしまった。


「結局、今日は解散?」


 瑠奈が聞く。


「だな。瑞輝も課題思い出したみたいだし」


「思い出させられたんだよ」


「同じだろ」


「全然違う」


 遠くから、電車の走行音が聞こえてくる。


 風が吹いた。


 ホームへ滑り込んでくる電車のライトが見える。


「じゃあ、また明日ね」


 麗奈が言った。


「おう」


「また明日」


 京介が返す。


 瑞輝も軽く手を上げた。


「朝陽、明日こそカラオケな」


「まだ言ってんのかよ」


「いいじゃん。行こうよ」


 瑠奈が笑った。


「瑠奈まで……」


「たまにはいいでしょ?」


「昨日行ったんだけどな」


 まあ、いいか。


 どうせ断ってもこいつらはしつこい。


「分かったよ」


「よっしゃ」


「ただし課題終わってたらな」


「お前は俺の母ちゃんかよ!」


「瑞輝の場合、それくらい言われた方がいいんじゃない?」


「麗奈まで!?」


 また笑い声が上がる。


 電車が近づいてくる。


 何気なく、俺は線路の方を見た。


 そのときだった。


「――え?」


 背中に、何かが触れた。


 強く押されたような気がした。


 身体が前へ傾く。


 反射的に足を出そうとした。


 けれど、そこに床はなかった。


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。


 視界が傾く。


 誰かの叫び声。


 ホーム。


 線路。


 こちらへ迫ってくる、大きな光。


「朝陽ッ!!」


 瑞輝の声だった。


 まずい。


 そう思った。


 逃げないと。


 身体を動かさないと。


 なのに。


 何もできない。


 甲高いブレーキ音が耳をつんざく。


 誰かが俺の名前を叫んでいる。


 最後に見えたのは――


 ――――。


「…………」


 寒い。


 最初に感じたのは、それだった。


 頬に触れているものが、冷たい。


 硬い。


 コンクリート……じゃない。


「……ん」


 ゆっくりと目を開ける。


 暗い。


 ぼんやりとした光が、どこかから差し込んでいる。


 頭が痛い。


 何があった。


 確か俺は駅にいて。


 瑞輝たちと話していて。


 電車が来て――。


「……電車」


 身体を起こそうとして、腕に力が入らず、その場へ手をついた。


「いって……」


 頭を押さえる。


 記憶が曖昧だ。


 転んだ?


 いや。


 ホームから落ちた。


「……は?」


 そこまで思い出して、心臓が跳ねた。


 俺、線路に落ちなかったか?


 しかも電車が来てた。


「……いやいやいや」


 慌てて自分の身体を見る。


 腕。


 ある。


 脚。


 ある。


 腹にも胸にも、少なくとも大きな傷はない。


 血も出ていない。


「…………どういうことだ?」


 事故に遭った。


 そう思った。


 でも、身体は無事。


 なら助けられた?


 救急車で運ばれて――。


 そこまで考えて、ようやく周囲を見る。


「……どこだよ、ここ」


 病院じゃない。


 どう見ても違う。


 俺が倒れていたのは、冷たい石の床だった。


 周囲には巨大な石柱。


 壁も天井も石で造られている。


 ところどころ崩れ、隙間から植物の蔓が入り込んでいた。


 長い間、人の手が入っていない。


 そんな場所に見える。


 空気は湿っている。


 土と苔のような匂い。


 耳を澄ましても、人の声は聞こえない。


「……夢?」


 自分で言っておいて、頬をつねる。


「痛っ」


 痛い。


 夢じゃない。


「いや、夢でも痛いことあるんだっけ……?」


 分からない。


 そもそも夢の中で「これは夢か?」なんて真面目に考えた経験がない。


 もう一度、周囲を見る。


 見覚えはない。


 本当に、まったくない。


「駅は……?」


 当然、返事はない。


「瑞輝?」


 声が石壁に反響する。


「京介!」


 返ってこない。


「麗奈!」


 自分の声だけ。


「……瑠奈?」


 静寂。


「…………」


 嫌な汗が背中を伝った。


 何だこれ。


 意味が分からない。


 スマホ。


 そう思って、慌ててポケットを探る。


「あった……」


 少しだけ安心した。


 画面を点ける。


 時刻は表示されている。


 だが――。


「圏外……」


 当然のように、アンテナは立っていなかった。


「いや……どこだよ」


 もう一度、周囲を見る。


 石造りの巨大な空間。


 崩れた柱。


 見たこともない紋様が刻まれた壁。


 人の気配はない。


 スマホは圏外。


 駅のホームから落ちたはずなのに、傷一つない。


 分からない。


 何一つ分からない。


 怖い。


 ようやく、その感情がはっきりした。


「……落ち着け」


 誰に言うでもなく呟く。


 こういう時に焦って動く方がまずい。


 少なくとも、今すぐ死ぬような怪我はしていない。


 スマホもある。


 ここがどこかは分からないけど、出口を探せば誰かいるかもしれない。


「……そうだ。まず外だ」


 立ち上がる。


 少しふらついた。


 壁へ手をつきながら、ゆっくり身体を起こす。


 もう一度だけ振り返った。


 自分が倒れていた場所。


 そこには何もない。


 ただ、ひび割れた石の床があるだけだった。


「…………」


 どうして俺は、ここにいた?


 考えても答えなんて出ない。


 なら今は、分かることから確かめるしかない。


 スマホのライトを点ける。


 白い光が、暗闇を照らした。


 その先には、奥へと続く石造りの通路がある。


「……行くしかないか」


 怖くないわけじゃない。


 むしろ、普通に怖い。


 でも、ここで座っていたところで何も変わらない。


 俺はスマホを握りしめ、一歩を踏み出した。


 このときの俺は、まだ知らなかった。


 ここがどこなのか。


 どうして自分がここにいるのか。


 この先に、何が待っているのか。


 何一つ知らないまま。


 ただ俺は――


 知らない世界へ、最初の一歩を踏み出した。

書き溜めている分があるのでまとめて出していきます。

初めての投稿になりますが暖かい目で読んでくれたら嬉しいです。

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