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才能という名のファンタジー


昨今、ファンタジーというのがどこか御都合主義の権化的な使われ方をしている気がする。別段それが何か問題になっているわけでも、不利益があるわけでもないのだがやはりそれはただの幻想であり、現実ではないのだということだ。

何故俺がそんなことを考えているのかといえば目の前の少女が原因である。


「むむむ…」


冴え渡る魔力操作は膨大な魔力を完璧に収束しその体に行き渡らせる。それは体全体から腕へ、そして手へと末端に押し出されていきその手が触れている魔法陣へと押し込まれていく。


「ぐむむむ…」


魔法陣はその上に乗った物質に魔力によって編まれた仮初の命を吹き込む…そうなる手前、突如として今まであった魔力の奔流とそれによって引き起こされて居た輝きは失われ魔法陣の上には命のないただの人形が有るのみであった。


『ちょっとこれは…これは想定外だったわ…』

「(正直言ってある種の才能と言えなくはないが…そういうには些かなぁ…)」

「あー!またダメだったー!」


天才と、秀才ともてはやされ高名な王家に仕える宮廷魔法師も家系に生まれた彼女はおおよそ魔法使いとしての才能と言えるものの全てを生まれ持った少女だった。

少なくとも魔力量、魔力操作は俺のような例外を除けば現段階でも最高レベルであるし俺と同じだけの時間をかければもっと高い才覚を表すだろう。四元素の異なる魔力を内包したその体はそれぞれが相殺しあい白くなった髪が特徴的だ。

だがそれだけならただのアルビノかもしれないが瞳まで銀に近い白で魔力の影響でまるで虹のように色を変えるとまでなると最早彼女しか居ないかもしれないというレベルの代物だ。

そんな完璧な環境に完璧な才覚を持ったなるべくしてなりタイプの天才に見える彼女だが彼女には致命的な欠陥があった。

それは彼女の魔法という魔法が全てあまりにも破壊に特化した魔力を秘めているというものであり、そんな魔法を使う彼女の魔力は四大元素の魔力が反発し合うことで生まれる破壊的なエネルギー『滅び』とでも言うべきそれを備えた。

ここまで言えばわかると思うが実は彼女が使い魔を生成できないのはその魔力の宿す大きな力が彼女の操作や魔力量に関係なく魔法陣を焼き切りその魔力を宿そうとした命ある物を破壊してしまうからなのだ。


「ふぅむ…」


この世界ではというよりもいつの世も形と命は密接な関係を持ち、時には同一視されがちであるし魔法という世界への働きかけでありつかいう本人の持つ意識の改変である技術においてはそれはほぼ同一のものとみなされる。

人間の思考をトレースさせまるで本人のように振る舞う人工知能や細胞単位で同一存在として生み出されたクローンなど、様々な形で人間の本質的なものがなんであるかという研究は進んだが、それでもなお自らの人型を捨てきれずそれ以外を異物とする人間である。どの世界でも、というかどんなファンタジーでも主人公やその周辺に人型やそれに近いものがあるのはそのせいなのだろうが…まあ、なんであろうと形というのは生命や認識といった常識や世界法則において重要な役割を持っている。


「あっ…」バキン!


彼女のそれは命を直接壊しているわけではないが触れたものの形を崩してしまう。実際には崩すというよりも消滅させているのだがどちらにしても魔法生命体という不確かで魔力というエネルギーのみを頼りとするあやふやな存在においてその身の形を崩されるというのは致命的である。

…というか誰だよ魔法使いとしての才能の集大成とか言ったバカは、異なる属性の魔力が、それも相反する物まで一緒くたに同じ導管を使ってれば自ずと混じるしもっとひどいことになるなんて分かって…わかって?


俺は少しだけ気分が悪くなった。


「すまん、ちょっと確認したいことがある。もしかしればすぐに魔法生物の生成が出来るようになるかもしれない。」

「え!?」

『…ああ、そういうこと。』




この世界の魔法というのは単純なようで難しい、より正確にいうのなら生命の持つ魔力という凡ゆるエネルギーと互換性のある万能の力を何某かの力に変換して外界へ放つのが魔法だというのなら今彼女がやっている魔法生物の生成は魔法ですらないのだ。

これは術式の起動をしているだけ、電線を使って電気を任意方向に送った結果装置が動いたりするような単純なものだ。

だが、魔法は違う。魔法は魔力の持つ本質を引き出しそれに応じた型に嵌めてそれを想像通りに放てるようになって漸くそれは魔法となるのだ。


「俺みたいな凡人は普通様々な属性の魔法を使えず単一の魔法のみしか使えない。」


俺はそう言いながら俺は水の球を浮かせる。マリアはそれを見て眉をひそめる。


「そんなことないよ!アビス君は私よりも魔力を編むのが上手じゃない!」

「ふむ、今はそうだけど…これからはどうかなぁ…」


彼女の賞賛を聞き流しながら溜息のような、彼女には聞こえないような声量での俺の呟きはネロの愉悦を深めるばかりだった。

まあ、そんなことは気にせずにせっかく放課後の教室からクラブ活動盛んな広大すぎる校庭に出てきたのだこんな水の塊を見るためだけならば教室でもできた。


「さて、普通はと言った理由、わかる?」

「うん!魔力に宿ってる属性が一つだけだからだよね!」


そう、その通り、彼女のように全属性が揃っていてしかもそのどれもがその属性しか宿していない上位の魔法使いが宿すものと同じなんていう反則は一般的ではない、そもそも2属性あっても持て余すような魔法使いが多い中五大元素を宿しその強度がなんの手を加えていない時から上位魔法使い並みとか改めて彼女のデタラメさを感じた。


だが、本題はこれからだ。


「その通り。だが、世の中には君やダブル、トリプル、セクスタプルなんかの複属性使いが存在している。これがどういうことか…わかる?」

「ニェへへ…ありがと!でも、私は違うよ?だって私に使えるのはこの『消滅』と『破壊魔法』だけだもん。」


彼女は俺のわかりやすいヨイショにこそばゆそうにしつつ…少し表情を曇らせた。しかし俺は続ける。


「まあ聞けよ、彼らのうち何人かはマリアのように相反する属性を身に宿しながらも魔法生物を使役する魔法使いも、熱と冷気の両方を自在に操ったりする。」

「むぅぅ…なんなの?それがどうして私に関係あるの!?」


あらら、我らが姫さまのご機嫌が急降下しちまった。まあ、そりゃあそうだろう。恵まれた才能を持って産まれたのは彼女だけでは無いし彼女の先を進み彼女に間接的に魔法使いになるように促している原因はその複属性使いにあるのだから。


「どうどう、落ち着けよ、別に変に話を拗らせてるわけじゃないんだ。俺は彼らにあって君にないもの、それを君に伝えたいだけさ?」

「…私に無くて…お兄様にある物?」


彼女は深い思考に入りしばらく浮上してこないだろう。俺は正解にたどり着くであろう彼女をにこやかに眺めながら水球の中に僅かに混じる他属性の魔力を濾過した。


『…人の情動に憧れた私だけど、こういうところは好きになれないわ。』

「(精霊にとってはそうかもしれないが劣等感や誰かを蹴落としてやろうっていう気概がなければ人間はもっと面白くない息もになっただろうさ。)」

『そういうものかしらね〜?』


そう、彼女の魔力から放たれるそれは相反するエネルギーを持つ属性同士の接着点において発生する虚無、無の力だ。だが魔法使いの中には複数ある魔力を一つ一つ解しその研鑽に研鑽を積んだ魔力操作を使い複数の属性を魔法として放つことができるような…複属性使い『エレメントマスター』という称号を得るような超上位魔法使いがいる。

…まあ、それ以外の人が本当に単一属性の魔法しか使えないのかといえば…


「わかった!」


…今は説明しなくても良いだろう。なにせ俺は目の前で輝くような笑顔で五つの異なる色彩の輝きを操る彼女を見て引きつった笑みを浮かべていたのだから。


『さっすが!世界を救うポテンシャルがバリバリ発揮されてるわね!』

「全く…気づいたからって一瞬でできるのか?」

「ふふーん、そりゃあ私だってお父様達と同じ偉大な魔法使いさまの血筋に生まれた娘ですから!」


ネロの声はマリアには聞こえていないが俺は両方に対応できるように喋らないと面倒くさい、ていうか内心と喋りを乖離させるとか無理だから。多少のラグはあれど両方に通じる方が楽だ。というかそんなことよりなんでこの天才は『意図的に』魔力操作や魔力の純化を覚えさせられていなかったはずなのに既にそれができているんだろうか?俺は疑問とともにネロに話しかけようとした瞬間…背骨に氷を詰められたような、そんな恐ろしい悪寒を覚えたと同時に背後から何かに語りかけられる。


『それは駄目だ。さすがの僕らも本気を出さないといけなくなるし…ネロが庇える範囲から逸脱しちゃうよ?』


それは闇が擬人化したような、凝縮された闇ともいうべき何かで、俺は頭の中で燻る何かを感じながら小さく頷く。


『賢い賢い…頑張ってね?僕の愛し子くん?』

「っ…!?」


気配は一瞬でなくなり振り返ってもそこには校庭があるだけだった。


「ん?どしたのアビスくん?」

「…いや、なんでもない、それより魔法生物の術式を先生にもらいに行こう。」


うん!と輝くような笑顔を見せる彼女の精神は元の安定と快活さを取り戻したが俺の心には暗い影が落ちるのだった。

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