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ファンタジーな異世界でも勉強は大事


季節はもう直ぐ夏…と言いたいところだがまだまだ涼しく過ごしやすい、梅雨もまだまだ先な春と夏の間である。

昨日のうちに母親に今日の授業に必要そうな物を聞いてみたが『自分を信じろ』という返事をもらい俺は途方に暮れながらいくつかの材料?のような物を手提げに入れて家を出る。

もちろん妹を連れてである。


「お兄たまはどんな使い魔を作るんですか?」


マイスイートエンジェルは俺の目が潰れそうなくらい純真で純白で可愛らしい、だがその質問には明確な答えが出せなかった。


「よくわからないな…できるだけ頑張ってみるけどあまりとくいじゃないからね。」


俺がそういうと彼女は首を傾げる。だがその後に続く言葉を俺が聞くことはなかった。


「でもお兄たまは…「アービースくーん!」」


朝七時から超絶元気なタックルをかましてきたのは我らが幼馴染である『マリア』超絶美少女である彼女に釣り合う容姿を持つものは未だに見たことがないが少なくともその可憐さが俺に向けられる嫉妬やらなんやらを生み出しているのはたしかである。

ついでに彼女は非常に高い魔法使いとしての才能がありその膨大な魔力と天才的な魔力操作、そして恵まれた属性適性がある。その溢れる魔力によって発生する物理的な肉体強化はただの童女であるはずの彼女のタックルを成人男性レベルのものにまで引き上げ俺の腰を軽く粉砕しにかかる。


「『うごああ!?』」


痛みに喘ぐ俺と精霊、だが喘いでいるだけじゃ何も始まらない、吹き飛びながらも魔力を操作し自身の肉体を精査、故障部分を治癒する。だが吹き飛んだ勢いを殺すには少しばかり時間が足りない、そして俺がこけた先には道路標識っ!


「ッ!(ネロ!頼む!)」

『もうっ!精霊使いが荒いわね!』


小学生ボディ…というかこの世界は子供に優しく無いのは重々承知済みだがいささか厳し過ぎじゃないですかね?そんなことを思いながら俺は水精霊であるネロの力を借りてどうにか受け身を極めながらゴロゴロと転がって勢いを殺した。


「あわわわ!?ゴッ!ごめんなさい!アビス君!」

「お兄たまっ!?」

「だ、大丈夫だ。問題ない。」


事故というのはその中にどんな意思があろうとも事故であり、聖人君子でもなければ美少女の全てを肯定できるような超人でもないので色々と言いたい気持ちにもなるが敢えてしない、彼女がまだ小学生低学年ほどの年齢なのもあるが魔力や魔法というのは基本的に本能によって発動する無意識下のものが多いそれも防衛本能などの強い子供の頃は尚更である。

そしてそういった魔法は身体能力の強化や肉体の硬化など自身の防衛や事故への反応など自身の生命の危機に関するものが多い、魔法使いというのは魔法を専門に使う者のことを指す言葉だがこの世界の生き物は例外なく魔力があり魔法を使えるのだ。剣士も肉体強化するし弓使いだって魔力による補助をする。

そしてそれは人間の使う技術であるが為にやはり力加減を間違えることやうっかりと言うことが多々ある。


…それに精霊であるネロとの契約に彼女たちにとって何やら重要な存在であるというマリアを邪険にしないようにという契約内容にしてはなかなか曖昧なことを組み込まれている。


「(というかそういうのはそっちでなんとかできないのかよ?)」

『クフフ…やっぱり君は愚かだね?人に寄り添うのは人の役目なんだよ?』

「そういうもんかなぁ…」

「お兄たま!学校に遅れちゃうよ!」

「大丈夫?アビス君…やっぱり私が吹っ飛ばしちゃったから…」


おっと、精霊との念話が口に出ていた。

俺は妹と幼馴染に大丈夫であるという旨を伝え学校に遅れないように少し早足で道を進んでいった。



さて、小学校である以上そして魔法というのが人類の持つ技術であり学ぶべき必須技能である以上それにまつわる勉学というのがついて回る。

魔力量が多くて操作も完璧で魔法の発動も問題なくできる程度で飛び級やらなんやらできるほどこの世界の社会制度は緩くないしそもそも才能だけで上っていくような人物が歪んでいない訳が無い、できることだけやっていればいいのは社会不適合者だけなのだ。

みんな違ってみんな良い、長所と短所で補え合えば問題ないは言い訳だ。魔力が多く操作が難しくても努力次第でなんとかなるし、魔力が少なくてもその身に魔力が宿せなくても魔力を操作する訓練と効率化によって魔法使いとして一流になることだってできる。

それに今の社会で生きてきた若者が異世界に行ってどうして知識チートを使えるか、その根元には幼少の頃に一通りの基礎を叩き込まれているからでありそれが無ければラノベ主人公にもなれないただのバカがその辺でのたれ死ぬだけだ。


あえて言おう。『勉強から逃げても良いことなんてない!』と!


「今日は簡単な魔法生物を産み出す実験をしてもらうぞー」

「「「わー!」」」


この年頃の子供はどんな世界でも元気いっぱいである。

それを煩わしそうに見る白衣と無精ヒゲの似合う我らが担任は何故小学校の先生になったのか…疑問に思うのだが向いていない訳ではないのだろう。煩わしそうに顔を動かしはするが子供の扱いはそれなりであるし何より知識は凄まじくこの学校で教えられることや下手をすればもっと深いものまで質問すればなんでも返してくれるのだ。


さて、ぼっちには辛いと評判の四人組を作るアレだが…なんとこの教室には四人のボッチがいる。俺と、その隣の一応女子とその他男子2名である。


「ひでえなぁアビスは〜ボッチ仲間はその他じゃないだルォ?」


少し痩せ型なボッチ1号が妙に巻き舌風に喋りながら肩を揺さぶる。


「…ボッチ仲間という以外に言うことがないからその他なんじゃないか?」


向かい側にいるメガネをかけたこの歳にして教科書と添い遂げそうな男子がため息を吐く。


「ていうか一応女子ってなんなのよ!性別的にも見た目的にも可憐で純情な乙女でしょうがよ!」


彼女が机に手を叩きつけるとその力は余さず衝撃になり音もなく机が崩壊した。机36号(俺が数えているうちでは)の短い机生が終わった。


「…1年次から数えて記念すべき300個目の粉砕です。おめでとうというべきですかね?」


メガネ君の言葉にちょっと愕然としながら俺は粉砕された机の残骸を魔力を使って再構成する。これは土属性に類する錬金術の魔法だ。ついでに言えば今回のは修復という目的だったので机だったものとは言え元は机だった材料があった為に魔力消費は少なく済む。


「おおっ、相変わらず教本のような素晴らしい魔力効率と復元率です!」

「まあね、これくらいしかできないからね。」


その言葉通り俺は通常時、少なくとも命の危機がない限り我らが精霊殿との契約の関係上平均以下の魔力しか持てない、普通なら頭痛と腹痛が混ざったような凄まじい倦怠感と痛みに喘ぐことになるような契約内容らしいが生憎俺は魔力を受け入れる量を自力で調整できる関係上自身に宿る魔力が少なくても体調に問題がない、それに魔力が少なければ操作能力と効率を上げるだけだ。

…まあ、それが原因でクラスにはなかなか馴染めないがね。


「うう、ありがと、アビス君。」

「どういたしまして…相変わらず魔力操作が大変そうだね?」


そしてそれはここにいる俺以外の三人にも言えることだし、彼彼女らの方がよっぽど大変だ。なにせ俺のは原因も期限もはっきりしているが彼らのそれは間違いなく特殊な体質や性質からの物でありそれ以上に現代の魔法技術でも克服が困難な物だ。


「オラー、全員班になったらプリント配るぞー。」


さて、アクシデントに見舞われたのは俺たちの班だけだったらしく先生は俺たちの班の様子をひとしきり見た後魔法陣の描かれたプリントを配り始める。

ちなみに手に魔力の渦巻いた残滓があったので助けてくれる予定はあったようだ。

…というかなんだか出しゃばってしまった感がある。今のは先生と生徒との間に絆を作る的なイベントだったのではないのだろうか?

いや、まあそんなことを気にしても仕方がないのでどうしようもないのだが…


「はいよ。」

「おっと、ありがとう。」


さて、手元に来たプリントは製紙工場で作られた一般的なプリント用紙に判子のような器具をいくつも使って簡単に複雑な魔法陣を描くことのできるこれまた一般的な量産品の魔法陣だ。

基本属性は土、基本的に生命を扱う時は火以外のどれでも良いのだが今回は魔法生物ということで極めて錬金術に近いアプローチの方法をとるらしい、今回のお題はホムンクルスとまではいかないが簡単な命令に従う程度の知性と生物として最低限の機能に魔力を受け取り蓄積する機能のついた魔法生物、教本にも載っている実に基本的で一般的な実験の一つだ。

…ちなみに生命を生み出すといってもそれは単独で存在可能な完璧なものでは無く。魔力によって形作られたものであり広義には術者の写し身である。


それに高性能なものなら自意識などを持つというが、その高性能な物は非常に長い時間と労力と金をかけてようやく作れるかもしれないというレベルのもので当然初等学校でやるようなものではないし、自我を持つ人工生命はもう何百年も作られていない、この世界での最先端は待機中の魔力を内包しそれと食物で動く自律機能付の自動人形という事らしいが…そこまで頑張るのは一部研究者くらいで実際に使う方では岩や石に核を放り込んで作るゴーレムや単純な魔法を繰り返したり膨大な記録を取り続けるなどの反復作業や人間では到底不可能な長時間の稼働が求められる現場で求められる機能に応じた形のものが使われている。


さて、そんなことはいいとして今の俺に必要なのはアイデアと少しのスパイスである。

手提げの中に入っているのはそこらへんにあった石とか家にあった初年度に買うことを義務ずけられている粘土、核のないスライムのみずみずしい粘液など家の周りで拾ったよくわからないものやゴミ…算数や図工に使ったもう使わないであろう物達である。


「むーん。」


魔法陣には最低限の機能を付与する術式が描かれており上に人形を乗せて魔力を通すだけでもそれとなく出来上がってしまうのだが、ここは想像力と手元の材料を使った電撃的な何かを生み出したいところだ。


…まあ、どうして俺がそんなことに頭を悩ませているのかと言えばひとえに初等から中等そして高等の中程までの魔法に関する知識や実験は一通りやってしまったから、というのがある。

端的に言えば予習のしすぎ、しかし精神的に成人していたものの魔法というロマンあふれる趣味が目の前にあって放置するという選択肢はなかったし、ついでに言えばどうせ勉強するんだったらたくさん詰め込めて記憶力も十分にある幼少の頃にやってしまいたいと思うのは今を生きる誰もが思うこと…言うなればセルフ英才教育の賜物であり弊害であった。


魔法というものを学ぶに当たってさまざまな苦行めいた属性相関図の暗記や細分化された相関図の理解、属性ごとのさまざまな違いや魔力操作、古代語と言われる現代のそれとは違う魔法が非常に栄えていた時代の単語や文法などなど…本当に語学もそうだが覚えものはほとんど詰め込んだし優秀な回復役がいるのをいいことに薬草と毒草をむしゃむしゃしてみたり、魔力操作をワザと間違えて爆発したり(2度としたくない)まあ、色々やった。幼児の肉体に鞭打って本当に色々やった。

後悔はしていないしそれらを学ぶごとにやはりこの世界の魔法というのは技術であると同時にあまりに多くのブラックボックスを抱えているのだと思った。科学で解明できなかった事がまだまだあったようにこの世界にも魔法で説明できない不可思議な現象というのはあるし、未だに魔法の原理や魔力というものについての正確な答えは出ていない、魔法陣の法則性やなぜ発動するかだって仮説は多いし、ゴーレムだって謎だらけだ。

しかし、確実に確実にその知識が積み上がっていくのは楽しかった。大人になってからの方が勉強は楽しめるというがそれは本当のことらしい。


「…そろそろ時間か?」

「っ!」


おっと、過去に思い耽りすぎた。仕方がないので今回は簡単に動物を象った物にしよう。

魔法陣の上にクラゲのようにも見えるスライムの死骸を置きイメージを補強しつつ魔法陣に魔力を流す。

結果、うさ耳の生えた無駄にリアルなクラゲのような見た目の跳ねる怪生物が出来上がった。先生のニヒルな笑顔がちょっと引き攣り、マリアには好評だった。

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