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近代魔法戦闘のリアル


銃というのはこと対人戦用に調整された人を殺す武器である。特徴としては微妙であるし、殺せるのが人間だけという訳でもないが、まず間違いなく人を殺すために生まれた武器だ。

前世でのそれは火薬の爆発によって対象に弾丸を打ち込むという物だったが、魔法があるこの世界ではそんな事するよりも魔法というインスタントな攻撃方法がある…


「ま、無詠唱で撃てるならなんでもいいんですよ。」

「成る程ね…」


エリート部隊、彼らの特筆すべき点は剣神とまで呼ばれた男の技術のうち、こと対人戦においてを叩き込まれたこの国においても上位に存在する対人選等の専門家である。

そんな彼らの仕事は暗殺ではなくあくまで警護、武器を持つことを許されている。それならば魔力操作という困難な道を選んで一部の初級魔法を無詠唱できるより、もっと別のところに力を入れられる『銃』という武器を選択してもなんの不思議はない訳である。


引き金を引くと銃口から先に加速など様々な術式が仮想砲身として展開されただでさえ高速の弾丸が全てを置き去りにする速さを手に入れる。それに伴い発生する『精霊の悲鳴』所謂摩擦は、風属性の鋭角結界を展開することで発生せず純粋な質量×速さの方程式で展開した敵部隊に襲いかかる。

相手もこちらも装甲車か戦闘用改造車両かの差はあるがそれらを盾にしつつこちらを包囲しようとする動きとそれを食い破ろうとする動きに分かれている。そして、なぜか俺は車両の外に放り出されて制服姿のまま敵陣に突っ込むことになっていた。




「どうやらあの砲弾は虎の子だったらしいですね。」

「当たり前よ、魔導具の特許という特許を全部持ってるのは我が家です。そして最新技術である弾丸への術式魔法付与は一部の技術を『神眼』にも利用している特別製、そう簡単には複製出来ませんわ。」


ドレスの少女と神官服の男が近代的なというよりはマシSFちっくな車内でそんな会話をしているのを見て、奇妙な感じを覚えるのは俺だけだろうか、いや、多分俺だけでは無いは…


「アビスさん、貴方もさっさとあのゴミを片付けてきてくださいませ。」

「え゛、セバス=サン、こっちが優せ「問答無用!お嬢様を誑かしたその力!証明するがいい!」ぐおおあああ!?」



「何を黄昏てるんです?そろそろ剣神様が切れますよ?」

「ああ、いいえ、ちょっとなんでこんな場所にいるのか整理してましてね。」


全く。今回は車内で悠々とやり過ごせると思ったのに!思ったのに!俺は体全体に魔力を満たし強化する。何時もなら内部の強化と加速、硬化、相乗の重ねがけによる単純な破壊力増強なのだが、そんな生半可な強化では一瞬で蜂の巣めいた現代オブジェになってしまう。なので今回は自身の周りの空気を圧縮しそれを魔力でちょちょいと体の周りに纏わせ強化外骨格めいた不可視の鎧を纏う。


『にゅふふ…あのお爺さんやばいね、マヂ怖いわー。』

『…ええ、魔法の術式を切るのはまだいいけれどこっちに剣を向けてきたからね、切られちゃうね。」


別にこいつらの力を借りてもいいんだが、些か恐ろしいと言うか、片方は俺の命を狙ってるし。片方は極端すぎて一周回って結果俺の命の危険がマッハなので頼む気になれない、というか借りてもいないのに自動発動で俺の影が揺らめき弾丸を吸い込んでは吐き出している。


『ああ、それは私の自動防御だから…って、ネロ、君はこんな初歩的な術式すら解除して契約者を殺しにかかってたのかい?ねぇ?ねぇぇ?』

『あっぐ…くひゅっ!』

「(待て待て、今それをやると俺が苦しいやめろ。)」

『おっと、危ない…優しい優しい我が契約者に感謝しろよ?ネロ、君、もし魂ごと融合してなかったら消し飛ばされてたから。』


脳内でサイコパス発病しないでくれ、俺がやばいし俺が苦しい、一瞬遠のいた意識を引き戻し、俺は悠然と銃弾飛び交う戦場に出て行く。


「…」


それを見守る。いや、知っていた様に射撃を緩めるエリート達、


「っ!?」


おうおう、人をそんな化け物を見る様な目で見やがって、というか…


「俺がここにいるのはお前らのせいなんだよなぁ…」


飛んできた魔力弾、弾丸、砲撃すら吸い込み反射する。飛びかかってくるやつらは常人よりも強化された肉体から放たれる打撃によって魔力による防護すら突き破りこの世とオサラバして行く。

手に付いた血肉の生暖かさが、口からを血を吐き、それに容赦なく追撃を加え脳を破壊することで魔法発動を阻止する自分が、どうしようもなく気持ちが悪くて仕方がない、ただただ生きたいだけの一般市民に、世界は何を求めているんだろうか?

…いや、この問いに意味はなかったな、なにせ世界は俺の死を望んでいるのだから。


ゴキリ

「ぐえ?」

グシャッ


この世界は歪だ。魔法という個人の資質が大きいものが社会の根幹にあるからか企業があり、精霊達によって紡がれた神話を鋭く切り取っていっても教会の権威は失われず。王族や貴族はそのままだ。情報統制は国民を国民たらしめ、強大な力を手に入れたものは魔法使いとしてまた別の階級に引き上げられる。

その様は現代のそれに似ている様で、非なるものだが、根幹としては同じものであると感じさせてくる。

俺は今まさに俺の手によってその命を散らした俺たちにとっての敵であり、彼らにとってみれば味方であった塊を投げ捨て無人の魔導装甲車の前に立つ。


「酷いな…」

「ええ、そうですね。」


誰かが呟く。そして俺はそれに同意する。

これをなしたのは自分だし、それに付いて言い逃れするつもりも、否定するつもりもない、俺が生きるために、俺の居場所を守るために死んでいったのだ。感謝はあるし申し訳なさはあるがその存在を否定する様な気は起きない、此処まで一方的になったのは俺に力を貸し始めた闇の精霊の所為もあるが、それ以前に彼らの装備が対人戦用であり、対魔法使い用でなかったことが大きい、いや、対魔法使い用の装備など彼らの様な下っ端には持たされなかったのだろう。


「周囲に敵影…ですが、こちらにくるのはもう少しかかりそうです。」

「ではいかせてもらいましょう。その装甲車は…セバス。」

「御意。」


俺がトラックに乗る頃にはすれ違う様に出ていったはずの執事の剣戟によって魔法に対しても物理攻撃に対しても強固な防備によって護られていたはずの鉄屑が積み上がっていた。


「…やる時はスマートにすませろ、できれば武器を使え、それが効率的と言うものだ。」

「…ええ、そうみたいですね。」


俺が見えたのは彼の持つ剣が音を越えた動きをし一切音を出さずに装甲車をスクラップに変える瞬間だけ、さらに言うなら幾千もの斬撃が放たれた筈の剣の軌跡が全くもって見えなかった位だ。


「まあ、しかし、お嬢様が見込んだだけのことはあるようだ。安心したよ。」


老執事は好々爺とはまた違うがその年よりも幾分か若く見える様に口角を上げ上方向に反り上がった髭を揺らす様にくつくつと笑った。

どうしてかその笑みとお嬢様の前ではちらつきもしない殺意が両方とも俺に向けられている気がするのは…気のせいだろうか?



車に乗り込んだ俺はお嬢様の横でいつも通りの無表情になった老執事を見ることもなく問う。


「一体俺たちは何処に行こうとしてるんだ?」

「教会よ、ま、ちょっと遠回りするだけ、楽しみにしてなさい、あと最低二回は停止するわ。」


楽しみじゃねー、全然楽しみじゃねー。


「ふふっ、全然楽しみじゃなさそうなその顔、少し間抜けよ。」

「酷いなぁ。」


装甲戦闘車両からまたトラックに変形した車は再びエンジンに火を付け外周部を大回りして教会に向かうルートをなぞっていく。


「時よ、捻じれろ。」


そういう風に思ってた時代が俺にもありました。俺は即座に闇精霊の自動防御に介入し一部を使って目の前に突如現れた両腕ともに機械の大男の魔法を包み込み押しつぶす。それと同時に両サイドから聞こえる全く同時箇所を狙ったお嬢様への狙撃音とチェーンソーの回転音に対し周囲にあった水道管から水を拝借して精霊の権能の一部である下級霊獣と呼ばれる精霊の産み出す守護者を押し付ける。


「ッチ!」

「アハハハハ!切っても切れないよー!」


すでに車は変形し部隊は展開しているが…


「お嬢様、2回目の停車早くないですか?」

「ちょっと、まずいわね、お兄様が出張ってくるまでが早過ぎるわ。アビス、お願いね。」

「はぁー、イエス、ユアマジェスティー…とでも言えばいいか?」

「グッドよ、なんとかしてお兄様を倒してちょうだい。」


返答はしない、なにせ俺はもう外にいるのだから。


「やっ、昨日ぶりですね。」

「…やはり生きていたかアビス・ランドウォーカー、今日の依頼はお前と我が愚妹の始末だ。悪く思ってもいいが、ここで死ね。」


既に腕の機構が最高温に達しているのか凄まじい蒸気を放つ。この前覚えさせられた事と、実体験から擦り合わせていくに、彼の血統魔法であろう時空に関する操作は『遡行』或いは『逆行』である。

いきなりクソチートだがお嬢様の話によれば魔力消費も大きい上自分の周りの数メートル程度しかその効力は及ばない、ついでに言えばその範囲内にあるものの大きさや量によって魔力消費も変わるらしい…


「ま、ご自慢の魔法もここでは役に立たないか?」

「…」


周りには夥しい数の鉄くず、人間だったものが散乱している。つまりそれだけ魔力を消費するという事であり…恐らくだが、時空を歪め遡るそれには他の対価も必要なのだろうと俺は思っている。例えば…寿命、ジルバニア家の人間は特殊な魔法を使うものほど短命らしい、それが世界の法則に従わない魔法の対価だとするなら納得はいく。

だが、それでも彼は生まれてから20年ほど暮らしか生きていないはず。それに乱発するような性格でもなさそうであるのを加味すれば、この戦闘中に寿命が尽きるような幸運は無いだろう。


…というかかなり今更な事をぶっちゃけても良いだろうか、もし、仮に俺に対して精霊たちが手出ししてこなかったら俺はこんな至極面倒な状況にはならなかったのではないだろうか?

王族直属の陰である彼女に話を聞いていたときも思ったが俺と言う名の小石が一つあっても運命というのはそうそう変わらない、多少の差異はあっても最終的な着地点はさほど変わっていないように思えるのだ。

それはどういう経緯であれ彼女が相反する属性を内包する魔力の制御を完成させていることや、魔眼を持つキャロルが彼女の傘下に入ることなどから見て明らかである。

というか、前者は早まっただけだし、後者に至っては国家権力による脅しである。予言もクソもねえなオイ。

まあ、何が言いたいかというと…だ。


「ガッふ!?」

「ここでお前を倒してもね…」


きっとお嬢様は不遇なままなのだろう。

魔眼の保有者がいる以上彼女の存在は微妙であるし、権威という意味で勇者やその周辺を担ぎ上げたい王家や教会からすればむしろ邪魔であろう。

…いや、運命論者じゃないのだ。こんなクソみたいな論理展開をしても仕方がない。運命は捻じ曲げられないだろうし、世界は理不尽なままなのだろうが、俺は俺のために、俺の為だけに生きる。

ただ、それだけだ。

その時、俺の手に収まる範囲を守れれば尚良いのだ。…いや、むしろ誰か俺を守って下しあ。


俺は闇を使い相手の両腕を斬り飛ばし体の正中線に沿って連撃を加え心臓を貫き、脳を潰す。

勿論、前から出来たわけではない、単純に身体能力が急激に上昇したことや、魔法の使用や魔力の制限が闇精霊のお陰かだいぶ緩和されている為に技術の向上を待たずしてこんな動きが可能になったのだ。

…多分、そうだと思う。うん、なんとなく言い切ったが確証はない、なにせ未だ彼女の名前も知らなければネロの言っていた『壊れる』だとか、彼女の言っていた『作り変える』など聴くと後悔しそうというか、SAN値直葬レベルの真実が待っていそうで怖いです。はい。


「どうかな?」


さて、現実を見ようか?頭蓋骨が吹っ飛び、胸骨から背骨までぽっかりと空いた穴、普通なら即死だが…その体を自らの体に刻み込んだであろう魔法陣から発生する光が包み時間ごと全てが巻き戻る。

俺の時間が戻らないため、周囲の景色が凄まじい勢いで巻き戻る光景を見ながら結果が出るまで待つ。


「っち、極大レベルの魔石が吹き飛んだか。」

「おお、すげぇ。」


以前見たときは自身の魔力を使い巻き戻す範囲や時間を調整できていたはずだが…今目の前に広がるのは肉塊から気絶した人間にまでランクアップした敵部隊と鉄くずから装甲車に戻ったデカブツ、そして少し前まで存在していた空間が再生されているかのように後ろに下がったトラックと展開したエリート君たちが居た。

どうにも時間の巻き戻り具合が乱雑になっているように見えるが、それがどちらに対してうまく働いているかと言えば…


「アッはぁ?また時間がトンじゃっタァ?」

「……」

「っぐ…はぁ…!」


向けられる殺意はチェーンソー少女のものともう一つ酷く機械的で気持ちの悪い銃使いの物、目の前の坊ちゃんは一歩遅れてきた反動に苦しんでいるが、それでもファイティングポーズ、いわゆる構えは構えたままだ。


「はぁ…」


俺はこの時間帯トラックに居たはずだし、そのパラドクスがどう処理されるのかとか気になる物はたくさんあるが…


「やってやろうじゃないか、なぁ?」

『うふふ…いいよ!とっても良いヨ!』

『あっぐ…ッガ!?』


なぜかネロが苦しそうなのが気になったが、今は俺の方もピンチなのだ。暫く耐えてくれ。

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