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俺の学園生活の現実


深い暗闇で、それは蠢いていた。


「…」


どう見ても半身を失った人型だがそれは確かに動いていた。いや、都市全体に亀裂が発生し一時は地震による避難警報がなったほどの攻撃を受け彼の体はほぼ肉塊となったはずでありアルベルトもそれを確認してから立ち去ったのだ。それがかろうじて人型に見える。ということがどれだけ異常なのか…





「…イッテェなぁ、もう。」

「…お兄様の一撃をまともに受けてそれで済んでいるのだから私は驚きで死んでしまいそうよ?」


そしてそれが元の形と服装でなんの気なしに次の日学校に来ていることの不自然さに事情を知る一部の人間は目を剥いた。

そして何より当たり前のように車椅子を押し、契約を結んだとはいえ自分が死んだ理由の一つである令嬢の世話をしているなど狂気の沙汰だろう。


「いやいや、勇者やらゲームの主人公、小説のヒーローなら笑顔で爽やかに勝ってるんだ。死なないだけの俺なんて大したことはないさ。」

「…それだけでも貴族の固有魔法って言うアドバンテージの存在を否定しかねない切り札よ、いえ、もしかしなくても死なないなんて言う方が優れているのかもしれないわよ?」


いやぁ、そんなこと言ったって時間遡行とかチートよ?だってあれ死んでも死なないってことだろう?


「…いいえ、無理よ、昔その実験をしたシルバニア家第五代当主はあっさり死んじゃったそうだし…というか貴方の方がおかしいのよ、どうして死んでたはずなのに蘇ってる訳?」

「うぇ?」

「魔法はストックできても発動にはどうやっても魔力と魂そして肉体がないと駄目でしょう?」

「そんなこと言われてもなぁ、死ぬ直前に再生魔法を発動させたからその効果が持続して発動した結果…とか?」

「…微妙にありえそうなところがアレだけどそれだけだったら全人類はもう再生魔法を極める道をとってるわよ。」


む?というか俺魔力を全拒否して反動も食らってたな…魔法発動できなくない?いや、ネロがどうにかしてくれたかもしれなくもないか?いや、というか…


『にゅふふ…我が主人我が契約者、いや、我が適合者、寝ぼけた頭は覚めたかな?』

「(…昨日も思ったが誰だ。お前は。)」


そう、昨日は二人いた。ネロともう一人、何か黒いのが俺の中から噴き出した。そして俺は内側から寝ろとの契約を粉砕されたかの様に魔力と魔法、そして世界からの抑圧を受けて…受けて?


『…』

『どうしたんだい我が適合者様?まさかまだ人間であるなんて勘違いしてないよね?よね?』


俺はいつも以上に魔力を一切感じられない自らの体にぞわりと怖気が発生し、世界は停止した。それは見覚えのある。幼少の頃に見たネロの生み出す世界ではなく…闇、いや限りなく小さくなっては居るがネロの領域もある。だがそれ以上に血の様で、タールの様で闇の様な深く暗い深淵が広がって居る。


「やぁ?」


そこに居たのは少女であった。幼女であって童女であって少女だった。

つまるところその見た目は幼いという形容詞が似合う女の子であった。問題はソレが余りにも黒いという事とかつて俺に契約を押し付け、勇者を守るという世界の意思を、精霊のエゴを人間たる俺に押し付けた水の大精霊であり、嫉妬と慈愛という二つを持つ精霊をその豊満な体を刺々しく禍々しい鎖で縛り上げ、闇と言って差し支えない槍の様な魔法でその四肢を貫いている事だった。


「…アビス…君、」

「…いいざまだって、ふざけてる場合じゃなさそうだなネロ。」


完全流体であり非実体の彼女を属性が一致しない魔法で縛り上げて居るのも可笑しいが、明らかに肉体的、そして精神的な損傷を与えて居るなど同じ精霊であってもありえない、そんなことがあれば今の世の中はもっと均衡が崩れた混沌の中にあっただろう。

自然の代弁者であり自然そのものである彼ら彼女らは唯一自分たちを傷つけられる存在にして、それぞれが完璧に同じ程度の能力しか持たないのだ。…すくなくとも俺の知る五大精霊にここまで常軌を逸した精霊はいなかったはずだ。


いや、俺は気づかない様にして居ただけだったのかもしれない、光、水、土、火、風と属性があるのならば、そして光を除く属性が互いに相関図を作って居るのなら、光に対する属性があるはずだといたって簡単な論理で、前世の知識というあまり役に立たないズルでわかって居たはずだ。


「にゅふw私のことを思い出したかなぁ?ネロ。」

「…貴女は、光のと戦って、この世界に散らばったって聞いたけど…」

「あーはぁ?そんなことじゃにぃよ、この、私を、思い出したかって?キイテルンダヨォ?」


精霊らしいノータイムでの大魔法の発動、闇と呪いを凝縮した様な昏く黒い槍が生成されネロに向かって射出される。俺はらしくない、とは思いながらもいつもより数段上がった身体能力に任せて槍とネロの間に立ち、拳に魔力を集中させ魔法に対する魔力による干渉を発動、大気中の魔力を世界の抑止からの攻撃と引き換えに出し入れ出来る俺だから出来るゴリ押し、精霊の魔法に対して冒涜的なまでの魔力で持って無理やりその軌道を逸らし、破壊する。


「ヒュー、やるねぇ!さすが我が適合者様だ?」

「アビス…君?」

「精霊同士で喧嘩なんてされたら勇者様が困っちまうだろ?それともお前は世界が終わる事を望む愚か者って奴なのか?」


俺がおどけた様にそういうと彼女はケラケラと笑って淀んだ魔力を噴き出す。それは白と黒以外の色のない彼女の周りを旋回し闇のドレスとでもいえばいいのだろうか?恐ろしいまでに圧縮された魔力が魔法になる前段階で固定され吹き荒れる。


「違う違う。そうじゃないだろう?我が適合者様?君にとって君が生き残る以外の事以外は、どうでも良い事だろう?」


そんな純粋な光のない目でこちらを見られても困る。というか世界が終わるのは俺も困るぞ、万に一つ俺だけ生き残れるかもしれないが目の保養とか色々なものが欠乏して死んじゃうぜ?


「えー、僕やそこのネロでも良いじゃん?」

「…それは否定できないな。」

「できないの!?」


黒い彼女はニヤリと笑って俺をみる。ネロは明らかに弱くなって居るその身を揺らして俺の戯言に反応した。しかしネロの行動が、感情が、明らかに照れている彼女が気に入らなかったのか、鎖の張力が高まりジャリジャリという音が連続し、魔力で出来ているはずの拘束具たちがまるで生きているかのように脈動する。


「あ…ッギ!」

「ねぇ?なんで君が嬉しそうなの?なんでアビス君を、適合者君を自分たちの都合でどうにかしようとしている君たちが、なんで今更アビスくんに媚をうってんの?利用価値があるか残してるだけでほぼ抜け殻なんだからこれ以上私をイラつかせないでくれルゥ?」


明らかに正気では無い、いや、そもそも精霊は最初から正気では無い、ネロもそうだが人間に対して何かを求めすぎて居たり、自分たち世界に入ってくる異物を許さなかったり、世界の均衡を守るバランサーであり、守護者であるはずの彼らはそれ以上に傲慢で異常なまでに寛容さというものが欠如している。


「まあいっか、そろそろ君を呼んだ理由を教えてあげないと、時間がなくなっちゃうね。」

「う゛っ」


人間座椅子ならぬ精霊座椅子、鎖と杭のような槍で装飾された均衡のとれた肉体は四つ這いにさせられそこで固定されていた。


「僕が君を呼んだのは自己紹介と…君の身体についてだよ、まあ、わかってるかもしれないけどね?」

「…」


彼女は蠱惑的に微笑んで脚を組む。スカートと言うよりはワンピース的な上下一体となった洋服の端がヒラヒラと揺れて狩猟本能と言う名のムッツリが顔を出す。だが、それよりも問題なのは今のこの少女の話だ。


「君の体を少しばかり弄らせてもらったよ、フフッ、下地ができて居たのもあってとっても簡単だったけど…あいも変わらず彼らは融通が効かないよねぇ?」

「一体何をしたんだ?」


何を、どうして、どうなったのか、とか色々聞くべきことはあるだろうがもう諦めている。生きることを諦めるつもりもないし、出来るだけ善良に生きて生きたいが…ぶっちゃけ最初から運命だとか世界だとかに見放されているのだ。ついでに言えば精霊に目をつけられたり、破ると死ぬ上に曖昧模糊な条件が満載の不平等な契約を強制的に結ばされたのだ。今以上の悪化はないだろう…


「簡単なことだよ、僕と…この駄精霊、二人分の魔力と属性をあなたの身体に押し込んで無理やり力を押し上げさせてもらったわ、ちょっと魂が歪んだかもしれないけど…大丈夫だよ。」

「…いや、大丈夫じゃねえだろ、何してくれてんだ。」

「にひひ…でも勇者に縛られたままじゃあ『機械仕掛け』のお子様に仕えるのが難しいでしょ?」

「そりゃあそうだが…」

「だからそこの精霊との契約を無理やり削り取ったの!あなたの魂にまで楔を打ち込んで、やっぱり精霊は精霊、世界の均衡を守るのに躍起になっているのさ。」


絶句である。生死を握られているだけでなく自身の根幹すら歪められて居たとは…いや、というかその理論でいうと目の前の闇そのものと言える少女も精霊なのでは…


「…あー!私のこと信じてない無い?無いよね?そうだよね!そりゃあそうだよ、でもね、僕を信じないと…」


黒い少女がネロの首を締め上げる。すると唐突に肉体の自由が利かなくなる。


「『私は私のためにあなたを傀儡にしちゃうかもね』」


意識が沈む。いつも魔力の受容と拒絶をしているために酷使している自身の核であり、この世界で唯一自分の物であるはずの魂が、肉体の中にありながら肉体を支える芯が悲鳴をあげて居た。


「…な…にを…」

「簡単なことさ、歪んだ分の魂を私とこのネロのカケラで埋めているんだ。簡単に言えば一心同体…いや、異心同体って奴だね…ああ、安心して、僕はこんな痛みなんて感じないからね、苦しいのは…」

「あ…かっは…!」


締め上げる力が強いのかネロの体が軋む様な音がする。それ以上に俺の体が、魂だとか痛覚がどうかとかそういうレベルでは無い喪失感によって糸の切れた人形の様に完全に動かなくなり、痛覚遮断を貫通する鋭い痛みが動かない身体を襲う。いや、それ以上に恐ろしいのは痛みによって覚醒する筈の意識がだんだんと虫食いになっていくことで、それを強制的に第三者目線で見せられている俺は気が狂いそうな痛みと喪失感、そしてそんな前兆があるにもかかわらず死に向かって行くことに抗えないことに気が狂いそうになる。


だが幸いにしてこの狂った少女の目的は殺害では無い、ネロの首から手を離すとゴミでも捨てるかの様に投げ捨てる。だがそれだけで俺の体に迫って居た死の気配は一瞬でなくなる。


「あは!冗談だよ?ただ、私を信じれないのは貴方の勝手だけど私が如何するのかは私の勝手だからね…え?今までと変わらないって?はは!バカ言ってるんじゃ無いぜ、少なくとも私はネロみたいに君を乗り捨てようだなんて思ってないよ、なにせ君以外に僕との適性が合う様な容れ物がないからね!」

「…なるほどね…」


つまるところ、ネロの時は死の危機があったが手出しは少なく妨害も多少あったが直接的な物はなかった。だがこの黒い少女が内に居る様になった今は死の危険が遠のく代わりに痛みを伴う邪魔が彼女の気分次第で行われるということだ。

メリットとデメリットは…微妙である。死ななくなったと言うのは良いが、気分次第でどこまで行くかよくわからなさすぎる。


「それに君はもう死ねないよ、だって僕が殺させないし死なせないからね。」

「は?」


次の瞬間俺は首を落とされ五体を切り離され心臓を貫かれ、魔法による回復や再生などをするまもなく確実に絶命させられた。





目がさめる。止まって居たはずの時は動き出しており、俺はいつの間にかシルバニア嬢と一緒に『テラス』に居た。


「あら、大丈夫かしら?」

「…あまりよろしくは無いな。」


手足は、首は、全部きちんと繋がっているか?いや、それよりも…俺は今生きているのか?


『クフフっ!生きてるよ、生きてなければ現世には居られないからね、僕ら精霊が現世に出られないのと同じ様に生者である君はそこにしか居られない。』

「(…一体俺に何をした。)」

『言っただろう?死なせないってね。』


どうやら世界は、高校生になった俺には厄介な人物しか絡んでこないとか言うクソみたいなファンタジーをリアルに押し付けてくれてるらしい、いや、もうお腹いっぱいだから、これ以上俺の精神衛生を不安定にさせないでくれ。


『大丈夫だよ、不安定になる様なことはないからね、なにせ君は死んでも死ねない不死身になったんだから。』


…それ、多分人間性とか記憶とかがすり減る奴とちゃう?


『勿論!この世界の魔法は万能であって万能でないからね!世界のルールの中で魔力という対価を払って行われる取引なんだから、対価を増やせばより大きなルールの中で動きを発生させられるんだぜ?』

「(無断でやってるあたり最悪なんだよなぁ…)」

『いヤァー、褒めないでくれよ!うっかりネロを殺しちゃうだろ?』


…早速生きる意志がへし折られそうな件。


「大丈夫?顔色が悪いわよ?」

「俺の癒しはお嬢様位ですよ。」


あとマイスイートシスターキャロルくらいだ。

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