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目を剥くような幻想と覆いたくなるような現実と


テラスについた。このテラスというのはこの世界で言うところの貴族の茶会用の密室、密談の場のことであったりラジバンダリである。

そして指定された通りの場所に彼女を運び部屋に入り、指示通りに鍵をしめた。すると俺はあり得ない言葉を聞くことになる。


「ご苦労様、じゃあ早速だけど…私の目を抉ってくれないかしら?」

「…はっ?」


何言ってんだこのクレイジーサイコオジョウサマモドキ(異世界人故にホモ・サピエンスか不明)は、え?何、殴られたら殴り返していいよね理論で私の目を抉ったから貴方の心臓を抉ってもいいよねとかそういう恐ろしい事を考えてる?


「ふふ…大丈夫よ、抉ってと言うよりは取り外してと言ったほうがいいかしら?」


彼女はなんの躊躇いもなく自分の眼窩に指を入れるとかぽんという音と共に目が外れた。

うん、目が外れた。


「ホア?」

「ほら、惚けてないで手伝ってちょうだい…あ、手は洗って消毒してちょうだいね?」


平然とはずれた片方を何かの溶液で洗浄する彼女、何度見てもホラーだし、というかそもそも…


「なんで俺、というかそういうのはもっと信頼できる人に手伝ってもらうべきなのでは?」

「…なぁに?きちんと命令しないとダメだった?」

「いや、というか目を抉るとかそんな他人にやらせるようなことじゃ…」


俺が鍛え上げた口先の魔術(笑)こと話術が炸裂するより前に彼女は自ら車椅子を動かし俺のそばによってきて俺の手を取り、それを容赦なく眼球にやった。コツンと義眼らしい硬い音と彼女の悶えるような声が聞こえ俺は再起動した。


「…ワッツ!?何をっ!」

「…はぁ、アビス君、貴方淑女の頼みが聞けないの?私が頼んでいるの、どんなに乱暴でもいいからとりあえず目を外して頂戴?」


抗議の目を向ける。が、効果はないようだ。観念して魔法を使って洗浄消毒、俺は彼女の眼窩に軽く触れ義眼のはまり方や義眼の構造、強度を軽く解析し一息のうちに一瞬で抜き取る。


「これでいいんです…か?」


出来るだけ負担がかからないように取り外したはずだが何故か彼女は俯きプルプルと震えている。頬は紅潮し耳は赤く首まで真っ赤に染まっている。一般的に考えると…


「風邪か?」

「っ〜!」


耳元で囁くように、少し意地悪く聞こえるように呟く。ビクリと背を震わせ、しかしどこか熱気のこもった息を吐く。俺は彼女の眼を謎めいた溶液に入れ心配している風に彼女の顔を覗き込む。しかしそれがなされる前に彼女は顔を上げ少し汗ばみ息を切らしてからの眼窩を見せることなく閉じた瞳でこちらを見る。


「はぁ、はぁあ、貴方、よくそれでいじめられ役なんて買っていたわね。」

「…ああ、そこまで調べたのか、まあ、そうだな、自分でも向いてないとは思ってたよ。」


まぁ、サディストって訳じゃあないけどな。

俺は呼吸を落ち着かせた彼女の前で所在無さげに立っていたが、テーブルの上にティーセットと上等な茶葉を見つけ彼女に声をかける。


「とりあえずお茶でも飲みませんか?レディ。」

「…似合わないからタメ口でいいわ、私が貴方に求めるのは従順さじゃないし。」


そう言いながら彼女は車椅子の何処かから一対の目を取り出し自ら嵌めた。其処には先ほどとは違う術式の刻まれた別の魔眼があったが…まあ、さすが貴族っていう感じだ。天然のそれではなくそれ自体が魔道具であることをさっきの解析で知っている俺は80度くらいに熱した軟水っぽい感じの水をティーポットに注ぐ。


「…何も言わないのね。」


俺が少しだけそちらを見た後、何も言わず茶を淹れているのを見て彼女は外とは全く違うどこか人間らしい態度で話しかけてくる。それは年頃の女の子のような戸惑いやなんかが混じったいたって普通の声色だったがきっとそれは自らの目の事やそれを付けたり外したりしていることの異様さをよくわかっている故の震えである。


「ん?ああ、大丈夫だ。俺も四肢を再生したり回復させたりで大忙しだからな。」

「…それもそうね、さっきも拘束をあんな風に解かれるなんて予想してなかったわ。」


…というか大分、俺の元の人格や性格から乖離してきた。いつからこんな自己犠牲や自傷を厭わないようになったのだろうか、いつから俺は自分を蔑ろにする事に抵抗が無くなったのだろうか、口では皮肉を言いいながらもやっていることは自分が言った皮肉そのままの肉壁だ。だが、それを拒めば待っているのはなんの抵抗も出来ずに訪れる死だろう。それを考え耐えてきたんだろうか?いきなり全てがわからなくなりそうだ…が、あいにくそんなことを考えていても仕様がないというのだけは確かである。さっさと次の思考に移ろう。




「貴方に頼みがあるの、他ならないイレギュラーである貴方にのみ達成できるとっても簡単な話よ、聞いてくれれば影の騎士団からのちょっかいくらいはなんとかしてあげられるわ。」


そういう彼女は俺の淹れた紅茶を躊躇いなく飲み…少しぽけっとした。

どうやら不味い訳ではないようなのでそれについての考察はせず彼女の依頼とやらについて考える。まあ、考えるまでもなく何をされるかはわからないが受けた方がいいだろう。影の騎士団からの介入を防げるような大貴族の頼みを平民が断ればどうなるか簡単に想像がつく。…たとえ彼女がそれを望まなくとも貴族には貴族の面子があるのだ。例外を存在させられるほど世界は俺に優しくないし、法と秩序は甘くないのだ。それこそ暗殺案件だろう。


「わかった。それで、何をすればいい。」

「…物分りがいいというのも考えものね、物語の主人公のように駄々をこねても良いのよ?」

「生憎と命をかけた無駄な行為に興味がなくてね。」

「そう…やっぱりそうよね、貴方はそういう人で私はそう見込んだ。まがい物とはいえ魔眼使いだものそれくらいは当然よね?」


今、彼女の目には義眼型の魔道具、魔法的な補助をもってして常人と同様の視界を得ることのできるただの目が収まっている。普段彼女の目に収まっている『神眼』と違い低負荷、低コスト、整備不要と三拍子揃ったお手軽な身体的欠損補助の義肢だ。

何故今そんなことを思ったのかといえば我がラブリーエンジェルの魔眼の紛い物と彼女は言ったがノータイムでの魔法行使や真偽の証明など彼女が皮肉を言いながらもその身を削って使う『神眼』は超高性能、有り体に言って嵌められているだけでも辛い装備品だ。

いつだって交渉というのは虚実と真実の入り乱れた嘘じゃないギリギリを突く話し合いだ。人と人との話し合いとしては最も高度な技術と多様な視点の求められる行為だ。其処で嘘を見抜き虚実を暴く『裁定の魔眼』や『神眼』は最悪に相性が悪い、相性とかそれ以前に話が始まる前から終わってしまう。


「私がやってもらいたいのは…そうね、今のところ学園での付き人位かしら、せっかく同じクラスに調整してもらったのだし一人でやっていけないことはないけれどやっぱり難しいですから」

「まぁ、それくらいなら頼まれんでも…」

「あと、私貴方の妹さんの所為で勇者パーティーから外されて家での立場が相当悪いの、だから暗殺者とかそういうのからも守って頂戴ね?給金は弾むわ」

「デスヨネー」


だがその交渉というのも対等な立場にいてようやく成り立つものだというのを俺たち平民はよく知っているし、貴族からの誘いというのは断れば死と言うのが定説であり通説である。また、一般的に平民出の魔法使いのなけなしのプライドをへし折るのは貴族からの脅迫であると相場が決まっている。


彼女は白磁というにはいささか白すぎる肌と対照的に血のような紅い唇を楽しそうに歪め、擬似神経と接続された青い虹彩の瞳を器用に潤ませ、妖艶なしなりを作る。


「勿論、受けてくれるわよね?」


尚返答はハイかイエスしかない模様である。




彼は異常である。世界からの排斥、それも精神に直接干渉してくるようなそれを受けながらさも当然のように生きながらえ、運良く庇護者たる精霊の力を借り幼年期を生き抜いた。今となっては何かもっと名状しがたいナニカの庇護を受けたようだ。


「そして大貴族の子女、それもよりにもよって彼女を惹きつけましたか…」


影の騎士団として、そしてこの国の従僕として、孤児だった私を見出してくださった国王様のためにきたる世界的な災厄、すなわち魔王と呼ばれる極大の魔物の討伐に向けて着々と準備を進めてきた。

予言という名の未来確定魔法を使い勇者という魔王に対抗する兵器とそれに付随する補助具を集め保護してきた。

…いや、計画は最初から危ぶまれていた。なにせ予言にないはずの魔眼使いの兄、その存在が徹頭徹尾邪魔だった。

未来が確定するはずの魔法を幾ら使っても世界に想定されていない彼を中に組み込むことはできず。かと言って表立って彼女らを引き離せば勇者やその周辺に影響を与える可能性があったのだ。

いや、実際に殺そうとしたことは数え切れないほどある。勇者の覚醒が早まりそれによって無駄に悪意を買った彼女への憎悪を無理やり彼に対する殺意へ変えたのだ。彼も意識的に彼女の盾になろうとしていたのもあって効果は抜群だったが…彼は死ななかった。

悪運が強いとかそういうレベルではない、明らかにこの世界の法則に従っていない、イレギュラーであり異分子である彼は世界からの悪意にさらされ続けて尚生きているのである。人間が思いつく程度の殺意や悪意は挨拶みたいなものだったのだろう。


「どういうおつもりですか?エリン・ジルバニア、いえ、『模造魔眼の人形令嬢』様?」


なればこそ、彼は彼から動くことはない、自分の動きがあまりにも安定したこの世界にとって毒でしかないことを知っているし、何より彼は根っからの平民が貴族や国家への叛逆が何を意味するかよく理解しているのだ。

そうであるならば今回の件も彼女の方から動いたのだろう。『人造勇者計画』の候補生の一人にして先日その任を解かれた少女、自らの目を改造して生み出した『神眼』の保持者である彼女から…


「あら、廊下でおしゃべりだなんて、意外ですわね騎士様?」

「質問に答えてください、何故彼に接触しあまつさえ手元に置こうとするのですか?」


人払いの済んだ廊下は春休み中ということを加味してもあまりに人がいない、消すのには絶好のタイミングだ。


「…くふっ、そんな怖いを顔をなさらないで?大丈夫よ別に貴方達や勇者様の邪魔はしないわ、いえ、むしろ…くふふっ」

「……」


だが、可笑しい、彼女は自分に直接的な戦闘力があまりないことをよく知っているはずだ。何故ここまで平静を…


「アビス君、いますね?」

「え?ああ、はい、最初からいましたけど…気付いてなかったんですか?」


…彼の戦闘力はこの前の件で修正したとはいえ未知の部分が多すぎる。魔力な急激な増加や水精霊の加護、そしてもっと得体の知れない何かの加護…彼自身の戦闘力も魔法的技能も無視できるレベルのものではありません、正直言って精霊今日の司祭がうるさく反対しなければ我らのコマになってもらうの有りなのですが…


「?」

「…」

「…」


いえ、駄目ですね、異界の魂とはいえこの国に降り立ち国民としてある限り彼は庇護対象で有り監視対象です。正直こちらが強権を発動すれば家族という人質を取っている私たちにちてきてくれるとは思うのですが、それは相手も同じ、板挟みにされたときあの妙な能力を使われると面倒です。


「…もう少しこの国の貴族として、そして飽くまで国家存続の礎であるというのを忘れないようにしてください?」

「ええ、勿論よ?」


仮面を被った女性と仮面のような笑顔の令嬢のやりとり、それを見ていた庇護対象で有りながら抹殺許可が簡単にでる異界の怪物は少し曖昧に笑っていた。

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