ファンタジーのような現実にファンタジーはなかった件
はい、懲りずに新連載ですね。
前の作品を終わらせられない病はいつも通り健在です。
異世界といえば魔法である。
根源的には海の外から、神話やソレにまつわるオカルトを組み込まれた異なる世界を描いた筈の西洋ファンタジーは日本のオタク文化によって歪曲と簡略化を重ねられた商品となり、ソレが悪いことか良いことかはわからないもののどこか既成の路線に少しずつ捻りを加えたような同じ位で同じ様なものが氾濫している。
穿った見方で高二病めいた考察だが、昨今の物語は過去あったどんなファンタジー世界を描いた物語のどれよりもその根底にある規則や世界観に然程大きな差異がない事は確かである。
魔法があるか、魔法に似た異能があるかやどんな経緯でその世界の話をしているのかなど様々差があるといえばあるのだろうが結局の所どんな捻くれた設定や世界観よりも大まかに『剣と魔法』というファンタジーがあって後は可愛い女の子や面白い話の展開があれば良いのであって誰もそんなことを気にしていないのかもしれない、というかまあきっとそうなのだろう。
というかもっと身もふたもないことを言ってしまうときっとみんな楽をしたいだけなのだ。
ソレは中世ヨーロッパ風と言う名の時代設定に出ているのかもしれないし、魔法が発展した結果科学がない世界というものに如実に表れているのかもしれない…
「まぁ、魔法があったら科学の代わりが魔法になるだけだよね…」
普通に考えればそうであるし、物理法則や科学的な理論が魔法というものが存在する世界でどの程度通用するかもかなり微妙である。
というか魔法があれば剣はいらない、銃ができてから剣や刀で殴り合う様な戦争はめっきり減ったのだし弓ができてから原始人だって棍棒を振り回さなくなった。何が言いたいかといえばソレは『現実的では無い』という一言であり、ファンタジーという夢幻に何かを求める人々には悪いが過去あったファンタジー名作という物は作者という神によって生まれた一個の独立した世界を舞台にした完璧な違う世界の現実だった。
ゲームや神話や他の作者によって生み出されたテンプレートなどなくとも成立するファンタジー、ソレがきっと真の意味でファンタジーと言えるものなのかもしれない…まあ、小説的には説明が多くなって面白味にはかけるかもしれないし、そういった過去の作品から生まれた概念を流用する事で物語に集中できる様になった現代のファンタジーノベルは過去のソレとはまた違うベクトルに進んでいるのではあるのだろう。
だがしかし、忘れてはいけないのはソレはあくまで現実に起こらないからファンタジーなのであり、ファンタジーが目の前に現れた瞬間からソレは現実となる。
端的にいえば『高二病患者異世界へ行く』という表題がピッタリそうな状況に陥った俺はファンタジーと言う名のリアルに揉まれている。
より具体的にいえば…
「よーし、今日の授業はここまで、明日は魔法生物生成の初歩実験をするので各自好きな材料と低ランクの魔核を持ってくる様に!」
「「「はーい!!」」」
『初等魔法学校』そう呼ばれているところで小学生をやっていた。
…どうしてこうなったかは俺にもわからないがとりあえず今までの経緯を話させてもらおう。いや、ただの独白だがね?
「帰ろーよアビス君!」
「ああ、そうしようか。」
とりあえず美少女幼馴染と妹以外俺の癒しはないのでそこははっきりと真実を伝えたい。
とても単純にいえば俺は生まれ変わったのだろう。ソレは間違いない、なにせ俺は純日本人とは言わないものの日本で生まれ日本に在住し日本籍を持った日本人でありもちろん黒髪かソレに近い髪色と目の色であったのだ。
ソレが今では背も縮んで地毛が銀色で目も碧いなんてことになっているのだ。
そう、本当にいつのまにか意識も記憶もあるままにこの世界の母親である人のお腹からオギャアと生まれたのだ。不思議だろう?
まあ、もっと不思議なのはこれから話す事なんだけどね?
「早くー!」
「お兄たまおそい!」
「ああ、ごめんごめん。」
おっと、お姫様方がご立腹の様だ。机の上にあったノートや教科書を適当にバッグに詰め背負う。急かされながら石畳で舗装された道路を馬車や魔導車が走るのを見ながら赤と青の二色に分かれたストップアンドゴーを示す魔導灯の様子を伺う。
まあ、ここまでくればわかると思うが皆が来ている衣服も草布やら麻やら絹やらではなく作りも画一的な大量生産品である。
建築物は…まあ、諸事情により少し背が低いがソレでも十分に近代的と言える。
「あおー!」
「わー!」
「そんな慌てて行く必要はないんじゃ無いかなぁ…」
走り出して行く幼女と童女の背に背負われているのはランドセルである。徐々に灯を増やして行く街灯とカラスの鳴き声がそこはかとなく聞こえてくる。いわゆるふつうの下校風景、そこに異彩を放つのは鎧とまではいかないがプロテクターの様なものに身を固め剣や弓を所持している猫耳人間やエルフっぽい人、ついでに人間…
俺はそんな見慣れた風景にどこか慣れない感じを覚えながらマイスイートエンジェルな妹と超絶可憐な美少女である幼馴染に手を引かれながら帰宅した。
彼らが歩いて行く先には巨大な壁がそびえていた。
家に帰るといつまでも美人なままであろう母親が出迎えてくれた。妹はすぐさま彼女に飛びつき俺はただいまと言って二階に上がって自分の部屋に入る。
中は普通の子供部屋といった風だがやはりハイテクな魔法という矛盾した様で矛盾していない人間の発展させてきた技術の粋がそこかしこに見える。俺は自室に置いてあるコツコツとおこずかいとお年玉を貯めて買ったパソコンの様なソレに魔力を通して起動する。
だが諸事情により俺の魔力は常に消費されているため起動までに必要な魔力量を流し込むまでに少し時間がかかるので俺はその間に宿題を片付けてしまうことにした。
生まれてから数日は混乱の極みであった。
なにせ自分が何故ここにいるのかさっぱりわからなかったし、ソレ以前に明らかに元いた世界とは違う何かが法則として用いられており母親は手を使わずに洗濯物を干して行くし、父親は瞬間移動するし、たまに来るおばあちゃんは明らかにロリだし…何よりファンタジーと言う名の幻想をあくまで幻想であり現実のものでは無いと認識していた一般人的な常識にとって魔力と魔法というものが現実として存在していると言うのを理解することは非常に難しかった。
なにせ普通ならば人は空を自分の力で飛んだりなんてしないし、普通なら手や足を使わずに何かを動かすなんて芸当はできないのだ。
『そう言うものなんだ』と思うことは出来ても今までそんなもののない世界で生きてきたのだすぐに順応出来るわけがない、少なくとも俺には出来なかった。ラノベの主人公たちがいかに超人か理解させられた気分だった。
飽くまで俺は普通の人間である。少し捻くれているために最初から否定的に物事を見る様な癖や常に最悪と思われる選択肢から思いついたりするだけで適応力が高かったり、異常なまでに公平だったり、お人よしだったりするわけでは無い、それ故にその現実を常識を受け入れるのにもまた時間がかかった。
まぁ、しかし子供時代というのは恐ろしいほどに適応力が高いのか精神と肉体の差異故か俺はちょっとした特殊体質になりながらもこの世界の誰もが持つ魔力というものを身に宿しこの世界の住人となったのだった。
「画して俺はファンタジーと言う名の現実に直面しそれを受け入れた。だが俺の受難は其処から始まるのであった。」
「アビスー!ご飯よー!」
俺は階下で俺のを呼ぶ母親の声に応えドタドタと階段を降りていった。