第11話 『Navis Longa』①
生命体としてのロボットの表現…てか描写って実は何気に難しい。
目下僕を悩ませているのは、『チーム勇者』による戦艦だ。
一度アウトしてから気が付いたけど、どの作品でも巨大戦艦が存在している。
だけどこんなに早く方針が決まるとは思わなかった。
“巨鯨型”が多いのでそれに倣い、仮にドン・キホーテ級突撃強襲艦『トゥガーリ』と、鮫型モビィ・ディック級城塞空母戦艦『ブタンディン』として開発を進める事とした。
ただ、ベースとなる艦や材料に掛ける資金が全く無いので、見繕うにも今はひたすらコネとサルベージで材料を集めて逝かなければならない。
――――骨が折れそうだ。
もしかしたら複雑骨折並に木端微塵に砕け散るかも知れない。
それでもミネルヴァは胸が高鳴った。
或る意味、この不可能に近い状況を唯一人楽しんでいる。
敵を倒すために良い物を作って、それを使う。
デウス・エクス・マキナ時代に経験した興奮が蘇ろうとしていた。
「先ずは角鯨からか…形は生物的にする方針で、変形機能は無し。うーん、流石に人員が足りない、どうしよう」
前途多難である。
「うーむむむ…短期での入手効率が良いのは会社側の協力か、JGを捕獲して改造する以外無いんだよねー。予算の都合だと捕獲改造か一から創り出すか巨大建造物を創り上げるのって結構大変大変、火の車」
頭を抱えて呻る。
「匙を思いっきり投げ飛ばす勢い」とはまさにこの状態であった。
「あーもー、頭の中では設定が固まってんのにどうしようもないじゃないか。兎に角人員! 予算! 時間! ――――どうしたら良いんだ!」
「良いかしら?」
ラボ内に入って来たのは同盟以前から交流している『チーム勇者』のメンバーの女性――ファイ・バード――が声を掛けてきた。
「お邪魔してます」
「良いのよ。寧ろ助かってるわ。…………それにしても酷い顔ね」
「――――!?」
「相当煮つまってる、て感じ」
「お、仰る通りで」
ミネルヴァの芳しく状態に、ファイ・バードは彼の頭を撫でた。
「無理はしないで。この世界はゲーム、ゲームは楽しんでやるものよ?」
「…はい」
その正論にぐうの音も出せずに、素直に応えるしか無かった。
「所で、機体の方は大丈夫かな?」
「あ、はい。此方側を含めて艦以外は全て終了しました」
「それはお疲れ様」
「後は肝心の艦をどうするか、って言う問題ですけどね」
そう言って描き上げたラフスケッチを手渡した。
「これは…随分と幻想的ね」
何せ“生物型”なのだ、驚かない方がおかしいのである。
それもその筈で、今までに遭遇したエネミーであるJGは動物の姿をしている。
固紙に描かれたそれは、完全にそれに近い姿形をしているのでファイ・バードの当たり障りの無い感想は妥当だと言えた。
滑稽な話である。
それを人の手で作り上げようと言うのだから尚更だ。
しかし、ファイ・バードは同時に背筋が凍り付くのを感じた。
――――この子は本気。
確かに荒唐無稽な、絵空事の様な計画だが、実際に自分達の機体に施された技術を思い出し身震いした。
「一応、某機械生命体アニメを参考にしました」
機械の身体・肉体を持った、命を宿す生命体。
一方は多くが環境に合わせて人型から乗り物に変形する人種として、一方は変形こそしないが多くが動物の姿を模しており人類と共に生きる生物として。
これらを踏まえた上で、思考錯誤を重ねれば決して不可能では無いとミネルヴァは考えている。
命在る物を機械と言う名の肉体を駆使して人工的に作り上げる。
それが、ミネルヴァのやろうとしている事だ。
但し、本人は悪意を持って生み出すつもりは一切無く、共にこの世界で生きる運命共同体としての理念で以て。
徹底して種族を超えた調和と融和。
良くも悪くもそれがミネルヴァが目指し、思い描いた理想の世界なのである。
「目指す先はそのアニメ。折角まだ地上はこんなに綺麗なんです、暗い地下から這い出して、ロボットと共に生きられる世界に変えたいんです」
「それが、これ」
「はい!」
「…ホント、貴方って格好良いわね」
ふう、とファイ・バードは息を吐いて、ポツリと呟いた。
微笑みながらスケッチブックを返す。
「その想い、忘れちゃ駄目よ」
「はい!」
「さ、今日はもう遅いから自分達の戻るべき場所に帰りなさい」
「今日は有難うございました」
「ふふっどう致しまして」
結局、生物型戦艦は構想だけで終わってしまったが、それ以上に収穫はあった。
デウス・エクス・マキナ時代から追い続けて居た夢を理解し、後押ししてくれたからだ。
あの頃はなかなか理解者が現れてくれず、登場しても事件で引退するほんの少し前だった。
”今、あの子はどうしているだろうか?”
とうにミネルヴァはあの世界から肉体、ひいては魂さえも永久に消し去ってしまったのだ。
関わったプレイヤー達との記憶さえ残れどデウス・エクス・マキナは事実上、あの世界で死んだのだから。
「…はぁ」
「らしくないわね」
「今回は難関だからね、とびっきりの」
「取り敢えず、此処の近辺で狩りでもして気分転換してきたら?」
ブラックウイドーはそんなやる気が失せたミネルヴァにフォローを入れた。
「あー、そうだね」
此処の所ミネルヴァは『チーム勇者』の基地に缶詰め状態だった。
そうなってしまうのは開発者の悲しい性で有るが、それでも仮にも兼業しているのがミネルヴァである。
なのでブラックウイドーはもう一つの本業であるJGの討伐を気分転換として提案したのだ。
(えー、と? 最後に戦力で攻撃したのって確か…例の冷凍ビームで氷柱作った時だったっ筈、だよ、ね?)
色々と部品ばかり触ってたせいか、とんと記憶が抜けてしまっているのに気付き、頭を抱えてしまった。
「取り敢えず、言ってくるか」
戦艦作成の事について、一先ず記憶の隅に置き新たに生まれ変わった機体、『ギルウルフ=ハンス』を駆って基地を後にするのだった。
嘗て人々が地下都市に移り住む前、それは突然現れた。
或る時、地上に落ちた“それ”はありとあらゆる感情を溜め込んでいった。
そして“それ”が生命を産んだ。
蛭の様なたどたどしいにも程がある、それでもこの世界の裏っ側でひっそりと育っていった。
“それ”が産み落とした最初の生命体は姿を変えた。
人間以外の地球の生物へと。
但し、憎しみ、悲しみ、絶望。
ありとあらゆる負の感情を溜め込んで。
かくして人類の敵JGがこの世に産声を上げ、人間の生活を脅かしていった。
かくて人間は全員地下へ潜る事となった。
だからこそ気付かなかった。
“それ”が溜め込んだのは何も負の感情だけではない事を。
憶えているだろうか?
嘗てギリシャ神話でエピメテウスという巨人がプロメテウスの言い付けを破り、ゼウスが遣わしたパンドラの言われるがままに箱を開けてしまった物語を。
ありとあらゆる絶望の後に残された“希望”の様に、また“それ”は正の感情を溜め込んだ生命体を生み出していたのだから。
基地を出たミネルヴァは近くにある『なぎさ』――旧江戸川区、葛西臨海公園に作られた人口の砂浜――の上に立っていた。
ギルウルフ=ハンスの操縦席のモニタ越しに映る風景に暫し魅入っていた。
コクピットの中なので潮風に当たれないのが残念だが、水面は穏やかで、輝きを放っている。
普段現実世界で見慣れた風景も、この世界では閑散としていて何処か物寂しげな雰囲気を醸し出していた。
「さて、と」
感傷モードから一転、狩人の眼に切り替わる。
――――運命の歯車がやっと噛み合った瞬間でもあった。
名前:ミネルヴァ
性別:男性
【PS】
・『空間認識』Lv8(初期)
・『地形利用』Lv6(初期)
・『適材適所』Lv13(初期)
・『設計開発』Lv10(初期)
・『修理』Lv10(初期)
・『精密作業』Lv15(Unlock メイキング系でより精密な作業をこなした)
機体:『ギルウルフ=ハンス』Lv10
【AA】
・『レーザークロー』(初期)
・『クローシューター』(初期)
・『テイルアタック』(Unlock 尻尾でエネミー撃破報酬)
・『ハウリング・ヴォイス』(シュミレーションチュートリアルクリア報酬)→『ウルフ・ハウンド』(新規機体カバー交換時)
・『ブレイクファング』
(LvUP)
・『クローシューター・ザンバー』(Unlock マニュアル操作で『クローシューター』を発動)
・『クローシューター・スナイパー』(Unlock 良く見据えて『クローシューター』を発動)
修正しました。
(誤)ギルマルチ=ハンス→(正)ギルウルフ=ハンス




