第9話 『It No Use Crying Over Spilt Milk「I Won‘t To There Return The World!」』
お久し振りです。
此処まで書き上げるのに苦労しました。
今回は短めです
巨猫という司令塔が討伐されるなり、その配下である猫が掃討されるのは最早時間の問題であった。
ミネルヴァとその機体を乗せた輸送機に搭載された『ブリザードカノン』を撃つ度に、逃げ惑う猫の足元が凍り付き、その歪な命を終わらせる。
『それにしても、凄い威力だな』
『これで凄まじいなら、今頃『ネメシス』は大成してるって』
実の所、この新兵器にはリミッターが掛けられていたりする。
当たり前であるが、そうしなければ園内全土を巻き込んで無差別に凍結させてしまう恐れがある。
何事も、やり過ぎは禁物である。
『おおう…』
ミネルヴァの怒気を少し孕んだ説明に、目を剥きそうになったミキヒコは一抹の恐怖に感嘆の言葉を洩らし改めて“味方で良かった”と僅かに安心を憶えるのであった。
『それにしても輸送艦、変わり過ぎじゃね?』
それもその筈。
レックスやラプター等から得たボディーを利用し、ブラックウイドーの所持する輸送機と合わせて急ピッチで新造していたのである。
とは言っても急造には変わり無いので、後でしっかり作り直す必要があるのだが、其処は割愛。
『普通は木馬だろう?』
『木馬も良いけど、歌姫の方が浪漫たっぷりだし』
『だったら撫子の方が良かったんじゃ…』
『イメージと違うから却下』
『投げ捨てた!?』
『……一応あれ、あたしの艦何だけど…はぁ』
騒ぐ両名に呆れ、狼狽するウイドー。
それでも、自身の預かり知れない所で厄介事が、自分達の介入によって解決できたという安堵が、其処には確かに在った。
ブラックウイドーは近くに艦を降ろすと、外に出る。
「助太刀、感謝する」
自分よりは一回り年上だろうか、そう思わせる程若い男性が傷付いたフェニカのコクピットハッチから姿を現した。
「感謝の言葉なんて、今は要らないわね。ま、それでもっていうんであれば、有り難く頂戴するけども」
――――ただの偶然と、そこにひっ付いてきた利害の一致というだけなのだから、という台詞を付け加えて。
「それを言うなら寧ろ、後からやって来て割り込んだ此方に、真っ向から返す言葉なんて無いさ。ねぇ?」
此方の女性も、男性と同じ年齢層であろうか。
「そうだな。ま、改めて、だ。俺は『チーム勇者』のEXカイザーだ。拠点はロックゲートの近くだ」
「私はファイ・バード。一応そこのカイザーと、そこでお仲間さんと談義してるダグの幼馴染」
「一応とはなんだ、一応とは」
「あら? 他に何かあったっけ? …ああ、腐れ縁ね」
「台詞を奪うな」
「あら、ごめん遊ばせ」
「ちっとも反省してないだろ」
「さぁて、どうかしらねぇ?」
「うおい!?」
何時でも、男性は女性の尻に敷かれているんだなと改めて思うブラックウイドーであった。
「私はこの艦の艦長を務めるブラックウイドーです。今回の件に関しまして此方の先陣組との共闘の旨、感謝します」
「いや、それに関しちゃ偶然だ。お陰で此方も良い経験になったし何よりオンラインゲームっつーのは皆と一緒に楽しくプレイしてこそだろ?」
「僕もその意見には賛成かな」
ニ等身動物を模したBEMから顔を出した少年・ミネルヴァがEXカイザーの台詞に賛同を示した。
「僕はミネルヴァ。このチームのマシナリー兼パイロットを務めて居ます」
「マジか。って事は」
「ええ。先程の冷凍砲含め、艦を改造したのは僕です。と言っても何分メンバーの元に駆け付けるのに時間が無かった物ですからこの後直ぐに帰還してモロモロ調節しないといけませんが」
「うへぇ」
EXカイザーさんが、その言葉に呻く。
それもその筈で、物作りとはただ単に作って「はい、終わり」と言う訳にはいかない。
既存の者に手を加えるだけならそれでも良いのだが、こと兵器開発はそうもいかない。
命を預かるための道具。
何度か試して、それに見合った調整を施して、漸く完成に在り付ける。
ファンタジーゲームで生産職の道を進むプレイヤーの苦労を考えれば、如何にそれが重要な事だと言う事をまざまざと思い知る『チーム勇者』の面々であった。
「取敢えず、今はもう急ぎでも無いので送り届けます」
「艦長、それは有り難いが…良いのか?」
その問いに、ミネルヴァが応える。
「この場で諦めて廃棄するにしても、正直新たな機体を揃える資金なんて今の其方には無いでしょうから。だったら基地まで輸送して今ある資源だけで修理した方が安上がりな上、『AMO』のプレイヤー人口を減らさずに済みますからね」
「結局それが目的か!」
この世界はゲームの世界だ。
作って、乗って、戦って、壊れたら直してまた戦えれば、それで良いのだ。
生身の人間VS巨大ロボットも浪漫があるが、やはり好きな機体に乗り込んで動かす事に意義がある。
そんな無茶なプレイを強られざるを得なくなって、匙ならぬギアを投げられてしまっては同じプレイヤーとして見過ごす訳にはいかなかった。
特に発売して間もないこの時期である、新規プレイヤーにとって良いゲームだと思えるゲームで在って欲しいのだ。
「…その提案、受けよう」
「ダグ?」
「ああ。確かに俺等の機体はもうボロボロだ、決して被害は少ないとは言えない。いや、寧ろデカ過ぎた。これで受けない理由は無い。それにな、今はプレイヤー同士の親睦を深めるべきだ。なぁに、この子達は信用に足る人物なんだ、それくらい受けられなきゃBEM乗りとして名が廃るってモンよ」
「その根拠は?」
「感!」
「…まぁ良いわ。ただ、私もその申し入れを受けるのには賛成。願っても無い事だもの、嬉しいわ」
荒川ロックゲート。
小名木川と旧中川の合流地点にして、荒川へと繋がる閘門でもある。
普段は閉じて居り、船が通過する際、通過する側の水位に合わせて調節する仕組みとなっている。言わば川のエレベーターである。
未だJGが出現しておらず、人々が地上で生活してた頃は水陸両用バスや水上バスが近くを通っていたりしていた。
因みに旧中川方面には、信号が備え付けられている。
『チーム勇者』の基地は其処に在る。
入口は嘗て中川の歴史を綴った資料館が在った建物で、出撃の際はその近くに存在する公園からである。
「うーん、こうして見るとかなり酷いなぁ」
ハンガーで機体のチェックをするなり、呻るミネルヴァ。
一番酷いのは何と言っても脚部をやられたダグON機だ。
瘴気に侵された部分は“溶け”掛っていて、これが金属なのかと思ってしまう程ぐずぐずの状態である。
「どうだ?」
機体の状態が気になるのか、ガレージで様子を確認していたミネルヴァにダグONが声を掛ける。
「うーん、そう…だね。他の機体の構造を調べてそれを真似て作成、修復するより他ないか。けど派手にやられた割には修復個所が外装の歪みを除けば此処だけなのはまぁ、不幸中の幸いって所か。これなら直ぐに直せるかな。量産機と言っても流石にしっかりと作り込まれているから頑丈だし」
ただ、フェニカに使用されている金属が解らないのがネックである。
「取敢えず新しく作らなきゃ意味無いね。ト言う事で」
大丈夫な機体をスキャンし、内部構造を把握する。
「ふむふむ、成程ね」
今回回収したエネミー製の金属を溶鉱炉に投入、精製してからパーツを作成。
あっさりと作れたのは巨猫を狩れた事が大きい。
同時にフレームと装甲を作成。
同時に例の物も作成する。
「取敢えず、今日はこんなもんだな」
此処までに要した時間は七時間ちょっと、と破格の速さだ。
「あの量を短時間で作成するとは、流石だな」
「見様見真似ですけど。明日、明後日は組み合わせとアフターケアの僕等を含めた他の機体の修復と改修を行う予定」
「良いの? 幾ら貴方とは言え独りでこなすのは大変でしょ?」
「そこ等辺はほんの少しだけアテが在りますのでご心配無く。ま、あれの報告も行いますから此方としては一石二鳥って訳なんですよ」
「そうなのか?」
「はい。そう言う訳で二日程度ですが、暫く宜しくお願いします」
「ああ。二日と言わず、何かあったら頼ってくれ」
「おう俺等『チーム勇者』は君達と同盟を結ぶ事を宣言するぜ」
ミネルヴァ達未名のチームと、『チーム勇者』の同盟が決まった瞬間であった。
「…行ったわね」
「そうだな」
ミネルヴァ達が自分達の基地へ戻って行ったの見届けた後も空を眺めていた。
夕焼けの空が、人が消えた大地を赤く染めている。
「今日は色々あったな」
「ああ」
「久々だ、あんな気持ちの良い奴に出会ったのは」
「そうね」
「今まで失ってた輝きを、取り戻してくれた」
「さて、今日は何もやる事無いから俺等もアウトするか」
「ええ」
「じゃあ、な」
「おう、また明日」
『チーム勇者』の面々がアウトした後も、紅色の太陽は優しく世界を包み込んでいた。
名前:ミネルヴァ
性別:男性
【PS】
・『空間認識』Lv8(初期)
・『地形利用』Lv6(初期)
・『適材適所』Lv9(初期)
・『設計開発』Lv8(初期)
・『修理』Lv6(初期)
・『精密作業』Lv9(Unlock メイキング系でより精密な作業をこなした)
機体:『ギルマルチ=マイス』Lv10
【AA】
・『レーザークロー』(初期)
・『クローシューター』(初期)
・『テイルアタック』(Unlock 尻尾でエネミー撃破報酬)
・『ハウリング・ヴォイス』(シュミレーションチュートリアルクリア報酬)
・『ブレイクファング』(LvUP)
・『クローシューター・ザンバー』(Unlock マニュアル操作で『クローシューター』を発動)
・『クローシューター・スナイパー』(Unlock 良く見据えて『クローシューター』を発動)