思い、馳せる
王宮へ戻ろうと決意したその日から、ラズウェルは父王がなぜシャーリルたちを自分のそばへ置いたのか、疑問に思うようになっていた。父王はどういうつもりで、シャーリルたちと触れ合うのが良いと思ったのだろうか。
受け入れている自分がいう事ではないが、シャーリルたちは、決して品行方正ではない。むしろ、ラフィスのように毛嫌いされるような存在だ。
つまりは礼節を重んじるここに、進んで招き入れるものではない。
(一体……父上はなぜシャルたちを私の側へ置いたのだろう)
しかしそればっかりは直接聞かなければ分からないのかも知れない。
「えっ……なぜわたしたちがラズの側へ呼ばれたか?」
訊ねられたティアは裁縫をする手を止め、きょとんとラズウェルを見上げた。ミルーは今、リアとサフィの元にいるようだ。
時刻は昼過ぎ。穏やかな日差しが部屋の中へ降り注いでいる。
作業の邪魔をしないように、近くの足の長い椅子へ座り、ラズウェルは小さく頷いた。
「ティアはこちらの様子を知っているようだから、そういう思惑も想像できるのではないかと思ってな」
「うーん……陛下の思惑は計り知れないけど……」
再び手を動かしながら、ティアはゆっくりと言葉を紡いでいく。
「わたしもちょっと不思議に思ってたのよね……。教育という意味が一番であるなら絶対にシャルを側へ置くべきではないし、そもそもセレイさまで十分だと思うわ」
「……絶対に、か?」
その言葉にいやに力が入っていて、思わず笑ってしまう。するとやはりティアも笑っていた。
「だって、そうでしょう? 走り回って遊ぶことを教えたくはない筈だわ」
「確かにそうだな……」
シャーリル達に出会った頃は、本当にやることなすこと驚いたものだ。騒がしく忙しく、けれどいつでも楽しそうで。王宮にはない賑やかさだ。
「そうね……わたしは王宮での暮らしは分からないけど、貴族の生活って、静かよね」
「静か……」
「ええ、そう。穏やかで、楽しいこともあるけど……でもなんていうかな。シャルと暮らしてるとね、なんだか、心の底から“生きてる!”って感じがするの」
そう言ったティアの笑顔は、とても明るい。目に見えない輝きが溢れているような気がするのだ。
「別にそれまでの生活全てで、死んでるような気分だったわけじゃないわよ? でもなんだか、シャル達といるとね、心臓が……どくどくいって、体がざわざわして、生きてることを実感するって、こういう事なのかぁって思うの」
「生きてる……か」
完全に手を止めてしまったティアの視線は、窓の外へ向いている。それに吊られてラズウェルの窓の外を眺めた。いつもティアたちとふれあっているのに、ふと窓の外を眺めると笑い声が聞こえるような気がするのだ。
(確かに……シャルたちといると、胸がざわざわする。けっして嫌な感じではなく……)
どこか心地良い感覚だ。
「……それが、父が私に得て欲しかったものなのだろうか」
ぽつりと零した言葉は、ティアに訊ねたわけではない。ラズウェルは父の顔を思い出しながら、しばし、ティアのそばで思い耽った。




